博打は国家レベルで容認してます。

其乃日暮ノ与太郎

ここは日本。或る日のある場所で

「待てぇ~~い」


何処からともなく正義のヒーローが現れた。


「悪が蔓延る事はこの俺様が許さないッ」


これを見た悪の組織の怪人は怯んだ。


「一世一代の大博打を打った様だが此処までだッ」


ヒーローはここぞとばかりのポーズを決め込んで見得を切った。


「なにぃ~、大博打だとぉ~」

怪人は殺気を露わにして叫び、ヒーローを指差す。

「今、"バクチ"と言ったな。てことはアンタは"賭博"と解釈したって訳だな」

突如として浴びせられたこの“返し”にヒーローは固まり、暫しの静寂が……


「え?今、何て?」

これがアニメなら頭の上に?マークが浮かんでいるであろうヒーローに怪人が再度指差して大声で喋り出す。


「だからぁ、"博打"は"賭博"なんだよ。ウィキペディアで調べるとなぁ……

『『賭け事、博打(ばくち)、博奕(ばくえき)、勝負事とも。

英語ではgamblingと呼ぶのが普通であるが、カタカナでは「ギャンブル」と表記されることが多い。gambleは娯楽としての賭博も含む広い考え方であり、危険性の高い冒険や意味のある危険、潜在性のある利益に手を付けること等という意味がある。

賭博とは、金銭や品物などを賭けて勝負を争う遊戯のことである。

金銭や品物などの財物を賭けて、(偶然性の要素が含まれる)勝負を行い、その勝負の結果によって、負けた方は賭けた財物を失い、勝った方は(なんらかの取り決めに基づいて)財物を得る、と言う仕組みの遊戯(ゲーム)の総称である。

日常的に賭博を行う者や、賭博を特に好む者は「賭博師」や「ギャンブラー」、「博打打ち」などと呼ばれている。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(博打から転送)』』

って出て来るんだよ。よぉ~~~く覚えとけっ」


怪人のご丁寧な説明を最後まで聞き終えたヒーローは、怪人に手が届く所まで歩み寄り、学生時代の朝礼で覚えた‹休め›の姿勢で口を開いた。

「で?」


これに怪人は‹前に習え›の先頭者のごとく両手を腰にやり答えた。

「ってことは、俺達は〈世界征服〉を目論んでるんだけど、それにうちらはお金とか張ってない訳よ。だからコレは博打じゃないじゃんかぁ」


少しの間を置き、「まぁ…そうなるかぁ…」とヒーローは腕組みをして唸る。で、何かを思いついた。

「あれ?じゃパチンコは賭博行為なんじゃねぇの?」


怪人はこれに首を横に振る。

「それが違うんだなぁ~」


これにヒーローが反論。


「国内以外に韓国・アメリカのグアム・北朝鮮の平壌とかにパチンコってあるらしいじゃん。で、国によってはカジノとして規制を受けてるって話じゃん。しかも台湾じゃ法律上で禁止されているのに、実際には多数の非合法店が営業を行っているらしいって。明らかに博打っしょ」


これに怪人が返答。

「よその国は、ね」

そして話を続ける。


「日本国内のパチンコ営業は、現金や有価証券を提供することは禁止しているのよ。だから風営法第4条(許可の基準)、同法施行令第7条(政令で定める営業)、同第10条(遊技機の種類)、同第11条(政令で定める営業が遊技の結果に応じ客に賞品を提供させる営業であることを明記)、風適法施行規則第36条(遊技料金等の基準)の法令の下で遊技の結果によって景品を提供しているんだわ。で、法令に則って営業して客に景品を提供する事は"合法"なのさ。」


怪人は電子タバコを取り出し一口咥えた後に語りを続ける。


「そんで景品には“一般景品”と“特殊景品”があって、一般の方は風営法施行規則35条2項2号で〈客が一般に日常生活の用に供すると考えられる物品のうちから、できる限り多くの種類のものを取りそろえておくこと〉が書かれてる上に、警察庁から〈最低500種類以上のタバコや菓子等の家庭用品・衣料品・食料品・教養娯楽用品・嗜好品・身の回り品・その他の7品目中5品目以上を取り揃えるように〉ってお達しが出てるんだよ。これはいわばゲーセンのUFOキャッチャー的な。

一回100円のゲームを1000円使ってお菓子が一個も取れない事もあるし、12~3個ゲットする場合もある。で、次は特殊に話が移って…」


ここでヒーローが遮る。

「ちょい待った。これ腰据えて聞きてぇから飲み物買って来る。お前何飲む?」

これに怪人が遠慮なく「じゃ、炭酸系」と告げると、ヒーローが軽く手を挙げ走って行った。


 怪人が二本目の吸い殻を携帯灰皿に放ったタイミングに帰って来たヒーローが飲み物を渡すや否や「で」と催促する。

受け取ったペットボトルをチョット上げて礼を示した怪人が改めて話し出す。


「特殊景品は、パチンコ屋の近辺に設置されている各都道府県の公安委員会から古物商の許可を受けた景品買取所に、獲得した景品を古物商に売却して現金化する代物。これは風営法23条で〈客に提供した賞品を買い取ること〉っていう禁止規定があるからパチンコ屋が俗にいう景品交換所を持っちゃいけないのよ。

だから、

店に来た客は現金と遊技球を交換して、増やした出玉を特殊景品と交換する。

ソレを持った客は特殊景品を景品交換所に持ち込み、古物商の景品交換所は特殊景品を現金で買い取る。

集まった景品は問屋が景品交換所から特殊景品を買い取りパチンコ屋に卸す。

という"三店方式"と呼ばれるモノをパチンコ業界は確立している訳。

要するに、客はパチンコが打ちたいから店内で球と交換して、手元にある球は客の意思で古物商に売れる特殊景品が欲しいから交換する。古物商(景品問屋)はパチンコ屋の特殊景品に在庫が無いから卸す……って理屈だな。」


片膝を立てて地べたに座っている怪人に胡坐をかいて聞いていたヒーローが腑に落ちない様子で「けどなぁ~…」と漏らし、

「パチンコ・パチスロって世間的に賭博って括られるじゃん。依存症の件でも問題になってるし。それなのに合法とはいえグレーなパチンコ業界は何故無くならないんだろうか……」

と呟いたヒーローの嘆きに「やっぱそうなるよな」と怪人は気持ちを酌んだ。


「こっからは余談なんだけどさぁ」

怪人が少し声のトーンを落として話し出す。


「パチンコ・パチスロ台って保安通信協会っつー所で規定上の条件を満たしているか試験が行われんだけど、これは国家公安委員会の指定試験機関。

で、ホール設置後に合否を判定するホール所轄の警察の試験を受けるのに必要なのは各都道府県の公安委員会の検定。あと店舗営業の許可を与えたりするとかの権限を持ってるのも保安通信協会で、この機関はパチンコ業界の監督官庁である警察庁の外郭団体。

で、保安電子通信技術協会ってのがあるんだけど、そこには警察出身者が結構いて元会長には元警察庁長官がいる。これってさぁ~、ね」


ここで怪人が薄ら笑いを浮かべたが、ヒーローはピンと来てない様子だ。

それでも話を続ける。


「それとさ、パチンコメーカーの常勤顧問に元警視総監がなったり、パチンコ業者の団体である商業流通協同組合に元警察官が多かったりの関連団体や企業への天下り的なのがザラなのよ。ってなるとパチンコ・パチスロが賭博要素を持っているのにこの世から無くならないのはって疑問は……ね」

更に足す。

「それに衰退しないのは需要があるから。当たり券の購入金額を差っ引いた公営ギャンブルとかで年50万円以上手に入れると、課税対象になって半額が一時所得としてみなされるが、パチンコ・パチスロはそれに当たらない。これがユーザーの消えない理由の一つかも」


これまでを大人しく聞いていたヒーローが口を開く。


「なるほどねぇ。何時だかコンビニでHな本が撤去されるって話題になったけど、攻略本が対象にならないのは解せないと思ってたんだよなぁ」


変わってペットボトルの中身をカラまで飲み干した怪人が喋る。


「普通コンビニなら商品の売れ行きで入荷を決定する筈じゃん。けど今尚陳列されてるってことは、まだある一定数の需要が見込めるからだよ。色んな理由はあるだろうけど、それだけパチンカー・スロッターが存在してる証拠だな」


ヒーローは首をかしげてスッと天を仰いだ後に切り出した。


「そうかぁ~。この件に関してはそうなのかも知れないけど……じゃあ、

〔特定複合観光施設区域整備法施行令〕(IR整備法に係る政令)が2019年3月に閣議決定してカジノが日本に出来るじゃん。あれはギャンブル100パーじゃん。賭博は法律で禁止しといてカジノリゾート作るって何?」


ヒーローは多少声を荒げて疑問を投げかける。これに怪人が、

「だよな。博打場建設って何考えてんだろうな。けど、政府には外国人のインバウンド狙いっていう一応の言い分があるらしいぜ」

と答えると「でも日本人も入れるじゃんか」と切り返す。


「あぁ入れる。入場料6000円で。けど、日本人客はIR実施法でマイナンバーカードで本人確認するほか、入場回数を7日間で3回や月10日までという入場制限にするなどの制限を設けたからヨシ、と思ってるみたいだ」


この怪人の説明にヒーローは相手の胸元を指差しつつ身を乗り出し言葉を放つ。


「だからって博打OKっておかしくない?一晩で大金を失う可能性があるのがカジノでしょ」


これにもっともだと云わんばかりの頷きと共に、

「うん、ついでにギャンブル依存症が増える危険があるわな」

と言いながら電子タバコをまた取り出し咥えた怪人にヒーローが喋り始める。


「そうだよ、依存症って〈アルコール、薬物、ギャンブル、万引き、放火、性犯罪(痴漢含む)〉にまで認識が広がってるけど、法律じゃあギャンブル依存症を⦅ギャンブル等依存症である者等及びその家族の日常生活又は社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせている⦆って規定してるじゃん。そこはどうなってるのか曖昧じゃね?」


チョイ熱く語ったヒーローの話を受けた怪人が、

「確かに。因みに厚生労働省の調査・推計(2017年)によれば、依存症が疑われる人は直近の1年間で約70万人、生涯で依存症を疑われる経験をした人は約320万人。で、ギャンブル依存症って【ADHD】らしくって、これが生じる割合は成人の場合全体の2.5%程度なんだってさ」

と共感しながら付け足した。

これに「何それ」とヒーロー。で、怪人の話。


「あADHD?これは(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)で、不注意・多動性・衝動性の3つの症状を特徴とするモノ。

不注意は集中力が続かず注意力散漫な様子、多動性は落ち着きがなく行動をコントロールできない様子、衝動性は衝動的な感情を抑えられない様子が見られる特性を意味するらしい。

原因はまだはっきりとは明らかになってないらしいけど、〈環境的要因〉と〈遺伝的要因による脳の前頭葉の機能障害〉というふたつの説の間で議論が重ねられてて、現在では後者が有力視されてるんだって。そんでその不注意症状は女性に、多動・衝動性は男性に多いらしいぜ。

で、ADHDは即座に刺激が受けられるアルコール・薬物・ギャンブルに飛び付いちゃう傾向があるんだとさ」


で、ヒーローの番。


「俺の知ってるギャンブル等依存症対策基本法ってさ〔ギャンブル等依存症〕の定義を『ギャンブル等(公営競技、パチンコ店に係る遊技その他の射幸行為)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態』ってなってるけど、依存症に気づいている人は当然そんな場所に足を踏み入れない。

〈マイナンバーカードの提示を求め、顔認証システムで依存症が認められる人の入場を止める〉とか〈遊技機に時間と投入金額を入力し、自己規制できる防止策も取る〉とか言ってるけど、ソレをどうやって見極めるのさ。

カジノを運営する側にしたら金を落とす客をみすみす追い払う真似する筈がないっしょ。ブレーキにも抑止にもなってない対策法作ってるけど本当に対策済みだと思ってるのかねぇ」


最後の方は嘆くように語ったヒーローに怪人が両掌を後方の地面に付け、少々胸を張って1つ深呼吸した後に語り出す。


「まぁこの国のトップ周辺の方々は、国民が老後のために捻出してきた公的年金積立金をGPIFに大量に株を買わせて株価を上昇させて、この国は景気回復したと国民に印象付ける事を目論んだ政権の仕業で行った正に【大博打】の株式投資を全体の半分にまで増やした結果、2018年10~12月期の資産運用成績(年金積立金管理運用独立行政法人[GPIF]発表)で、なんと14.8兆円を超える損失を出したとする人らだしな。

これは、5兆3000億円もの損失を出して問題となった2015年度を軽く超える大損失。

しかも首相は2016年2月15日衆院予算委員会で、

『基本的に、年金につきましては、年金の積立金を運用しているわけでございますので、想定の利益が出ないということになってくればそれは当然支払いに影響してくる』

『給付にたえるという状況にない場合は当然給付において調整するしか道がないということ』

と明言している。

運用が失敗したら全国民が我慢してくださいってコトを悪びれずに押し通してしまう集まりだからな、政府は」


ここでヒーローは自分の足元を見つめ、怪人は頭を真後ろに倒し空を見つめ、お互いの間に暫しの時が流れる。


かなりの時間を二人は潰していたが、先に体勢を戻した怪人が口を開いた。


「政治家は地道な産業振興やインフラ整備ではなく国民の年金を株を買う大博打を打つし、仏教では博打はご法度なのに、ある大きな支持母体を有する党がカジノ法案に賛成してるし、

ゴルフで"今日は握りますか?"なんて平気で飛び交ってるし、

麻雀で"チップはいくら?"って喋ってるし、

アキバ辺りではアニメのギャンブルパック発売中だとポップを出してるし、

パチンコだけで男性は9%、ガチャも入れれば12%を超えるだろうと言われている日本のギャンブル中毒患者率は世界で最も高いらしいし……

結局のところ〖博打〗って形や見方が違うだけで誰でも関わってるモノなんじゃねぇのかな」


これに「そうかもなぁ~」とヒーロー。


これを見ながら立ち上がった怪人が「じゃ、仕切り直しで」と下半身をはたきながら立ち上がるとヒーローも倣って立ち上がっておもむろにポースを決めた。


「悪が蔓延る事はこの俺様が許さないッ、へ~んし……」


おわり

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