地獄良いとこ一度はおいで。
アリエッティ
第1話 地獄ゴクラク。
「はぁ〜..!
いい湯加減だぜ血の池はよ!
この皮膚が悲鳴を上げる感じがホントたまらねぇ!」
ドロドロの赤い滾る血液に、同じ色の鬼が漬かり恍惚の表情を浮かべる。
「お、どうだ!
お前も満喫してるか?」
「まぁ..普通に愉しんでますけど。」
「地獄じゃ珍しい青鬼か!
角も一本なのか、よく赤に映える!」
「マズいよ
またあの人来てるじゃん。」
合間にふらっと憩いで立ち寄っただけなのだが常にこの赤鬼がいる。
「何処に住んでるんだ?」
「..一応、人間道からですかね。」
「はぁそうか!
なら周りは人間ばっかりだな!
俺は天道のモンだ、よろしくな!」
「どうも。」
(だからいつもヘラヘラしてるんだ)
地獄には六道と呼ばれる道があり、それぞれ天道、人間道、畜生道、地獄道修羅道、餓鬼道に分かれている。
度合いとしては天道が一番軽く、後はそれぞれの在り方を有している。
「なぁ!人間にどんな拷問するんだ?
苦しそうな顔って見てて面白いか?」
「あはは..。」
(うるさいなぁ、疲れてんのにさ。)
罪人として送られて来る人間達は涙を流して許しを請う。虐める事を好む残忍な鬼は面白がって叩き続けるが、対してそんな感覚の無い青鬼には、ストレスとして積み重なる所業だった。
「やっぱり地獄道で針山登ったほうがスカッとしたかな?」
アクティブなアスレチックと、和むレジャー。ギリギリまで悩んで温泉にしたが、危惧していた邪魔に遭遇した。
「はぁー気持ち良かった!
次いでに
「……物好きだな。」
「じゃな青鬼くん!」「ども。」
舌を一度根元から引っこ抜き、浄化させる事で舌をもう一度綺麗に生やす激痛を伴う施術好んでするとは珍しい。
「悪い人じゃ無さそうなんだけどな」
存在として苦手なので関わりたくは無いに決まっているのだが。
「熱っ!
温め過ぎたか、底無し沼でも入って少しカラダ冷やそ..。」
桶に入った浮石を腕にくくりつけ水に入る。そうしなければどんどんと沈んでいき、延々と下へ落ちていく。
「うー寒っ!
帰りもう一度血の池入ろう。」
天道は特に罰するものが無く、こうした余暇を嗜む社交場となっている。平和ボケという言葉があるが、ここの住人は平和馬鹿の域である。
少し道を間違えれば、景色も変わる。
「9..10!
できた、全部詰めたよ!」
「あ〜..どこがだぁ?」
「どこって此処に..」「どらぁ!」
「あ!」
グラグラと不安定な積み石を振りかぶって蹴飛ばし、塔を壊し崩す。
「もう一度初めからだ
石は残らず拾えって積めよ?」
「うぅ..。」
人間道と地獄道の狭間で、鬼に罰を強いられる幾ばくも歳がいかぬ子供達。扱い的には地獄道にあたるその場所では、終わり無く罪を償わされる。
「いいか!親より先に死ぬ子は悪だ!
お前は親の恩恵に鳴いて詫びろ!」
「1..2..3、4...。」
「ククク..やめられねぇなコリャ!」
環境が影響しての感性では無い、初めからこういった気質なのだ。
「はぁ、結局長く入っちゃうな。」
肌が青いので血の赤が暫く滲んで消えないが、ある種の効能として処理する事にしている。一応はタオルを肩に掛けながら、毒コブラの激酒で身体を少し覚ましながら安定させている。
「毒強っ..吐きそうなくらい酔いそうだけど、すげぇ美味い。」
慣れるまでは癖があるが、その後は病み付きになる勢いだ。もっと若い鬼はその中にカエルの卵を入れて太い管で一気に啜る。青鬼も一度試したが、余り理解は出来なかったみたいだ。
「さて、現場に戻るか」
人間道では多くの人々が鎖で繋がれ拷問を受ける。人物によって度合いは様々だが、与える側の鬼は皆高らかに笑っている。
「お、青ヅラ!
血の池は満喫してきたか?」
「なんで行った事知ってんだよ..。」
「他に娯楽が何かあんのか?
まぁ俺は、これが一番だけどなっ!」
「あっ!」「ヒハハッ!」
「……しんどっ。」
殴られている人を見るのがイヤというよりは、これから自分が誰かを殴るというのが本気で気疲れするのだ。
「今日担当するのは..この人か」
律儀にシフトが組まれ、誰が誰を殴るかが一目瞭然に決まっている。
「正に地獄ってやつだね..お相手は、
黒瓦 甚八、殺人罪。罪状書かないでよ、深みが出ちゃうから」
「てめぇ何するつもりだぁ!」
「声張らないで、声帯切れるよ?
此処タダでさえ人には空気悪いから」
「関係あるかよ!
何したってんだ、ココどこだよ!?」
「ここなんだよなしんどいの。
何で地獄に居る自覚無いんだろ」
聞かれる度に毎回丁寧に此処は地獄で六つの道があり今はその中の人間道という道の中でと小難しい説明を施すが大体は最後まで聞かず面倒くさがる。
「天国に行く人はちゃんと話聞くのかな、楽そうでいいな。」
「天国とか地獄とか訳わかんねぇんだよ、頭沸いてやがんのかテメェ!」
「やっぱ話聞いて無いよ..やるしかないか、何が面白いのかなこんなの」
武器はシンプルな木の棍棒。
しかし鬼の力で振るうそれは横暴な打撃に変わる。地獄仕様になった人の身体であれば激痛で済むが、平常の人に振るえば一撃で首が根元から吹き飛ぶ威力を誇る。
「行くよ?
頼むから早めに気を失ってね」
「よっ!」「う..!」
渾身の一撃。だが相手も強靭な元殺人鬼、身体は強い。
「痛ってぇなクソがよ!」
抵抗の裏拳が飛ぶ、棒を振るう為極端に距離を詰めている青鬼は避ける隙も無く拳をモロに顔面にくらう。
「...ごめんね、わかるけど無駄でさ。
鬼って力以前に耐久強いのよ」
無抵抗の顔面は傷一つ付いておらず、寧ろ殴った拳が痛んでいる程だ。
「バケモンかよてめぇ..!?」
「だから鬼だって、ホントに話聞いてないね。攻めはしないけど」
「クソがあぁぁっ!!」
「だから声上げないほうがいいって、
喉切れるよ。冗談抜きで」
棒を強く握り、頭上へ掲げる。
「話聞いてられないから、やるよ?」
一心不乱の連続殴打、愉しくは決して無い。役割として機械のようにただ棒を頭へ落としている。
「あ...がっ....」「しぶといな」
趣味じゃないので得るものは無い。
出るのは強い溜息と、疲労感ばかり。
「ヒハハ、何だコイツ!
もう延びちまってやがるぜ!」
「あのー」「お、なんだ青ヅラ?」
「こっちやりますか?
元気なんですけどもうしんどくて。」
「お、いいのか!貸せ貸せ!」
血塗られた棍棒を握り揚々に構える。
「じゃあ後お願いします」「おう!」
「う...あん?
なんだテメェ..色が違ぇぞ。」
「直ぐにおんなじ色にしてやるぜぇ」
薄く鼓膜に鈍い音が響き渡ったがさらりと聞き流した。
「はぁ..やっぱ向いてないわ。」
人間の道を抜け、進むのはやはり争いの無いのどかな娯楽道。
「はぁ〜、いい湯だなオイ。
何度入ろうといろあせねぇなぁ」
「..熱っ、温度高いな少し。」
「あれお前さん!
また会ったな、仕事終わりか?」
「えぇ、まぁ。
...なんでまたいんのこの人」
「悪いな、声聞き取りにくいだろ?
抜舌してからでかい声が出なくてな」
「充分でかいよ、何が違うの前と」
「じゃあな!
実は長湯出来ないんだ、治療したてだと良くないんだとよ!」
「聞いてませんけどね別に。」
一度会話をした相手は親友だと思ってしまうのが天道の人々の特徴だ。
「この後どうせ底無し沼入って身体冷やして、でもう一回血の池入って..それでもまだ時間あるな。」
当然毒コブラ酒を呑む予定もある。それでも尚時間は余り暇を煽る。
「針山にでも登りに行くか..!」
仕事さえなければ彼は地獄を愉しめるヘル充だ。
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