第120話 ゴミ掃除

 中型の空を飛ぶ魔物が目撃されるニュースが増え始めた。

 一説では、旧★国辺りの山岳地帯に発生源があるのではないかと噂が出ている。

 滅んでからも、何かと人類に迷惑を掛ける国だな……。


 まあ、レアアースの採取は必須らしいので、ハイブリッド・ゴーレムで継続しているが、今後を見据え、空を飛ぶ魔物の実地調査をすると言う話が出ている。

 ニュースなんかでね。


 でも、このパターンは、実に嫌な予感がするよね。

 本来なら、早く衛星を上げたいらしいが、現状まだH型ロケットの再生産の目処は立ってないらしい。

 一応既に衛星は開発が終わって、政府へと納入済みである。


 ここは下手に手を上げたりせず、穏便に済ませたい。

 何でも俺で解決するってのは、やはり違うと思うしね。


 静止衛星かぁ、もうちょっと衛星軌道を掃除したいよねぇ。

 宇宙にまでゴミを撒き散らした旧隣国の物とか邪魔でしかないし。



 ネットで調べると、世界のサーバが止まる前にミラーリングされたサイトから、静止衛星の軌道に関して、多少情報収集する事が出来た。

 魔力燃費を考えて、光魔法と闇魔法の両方でシールドする事を思い付き、現在庭でテストをしている。

 事、全ての光を遮ると言う意味では、闇魔法のシールドは素晴らしい効果を発揮するが、その分、視界を遮られてしまうのが難点である。

 宇宙空間での太陽の照射は半端なくて、ヤバいのである。



 赤道に近いので、ユグドラシル大陸から大気圏外に出るとして、電卓を片手に魔力の計算を行う。

 俺の計算では、宇宙空間での活動可能時間は、MPがフルの状態で、約10時間……やっぱ、全然余裕じゃねーか!

 これなら、多分最悪のケースを考えても、魔力ポーション2本もあれば、余裕で熟せるよな!?



 せっかく、波に乗ってる小豆島ダンジョン攻略だが、3日程お休みする事にした。



 さっちゃんにお願いして、おにぎりを作ってもらった。

 自分でもそりゃあ作れるけど、せっかくの宇宙旅行……いや、宇宙ゴミ掃除な! やっぱり愛する妻のおにぎりが食べたいじゃないか。


 魔力消費を抑える為、前日からユグドラシル大陸に入って、真っ暗な内に駆け上る事にした。

 夕方、家族とご飯を食べて、子供達やさっちゃんをギュッとハグしてから、ユグドラシル大陸に移動。


 人気の無い所で一泊し、夜中の3時半に目覚ましをセットして就寝した。




 目覚ましのアラームで目を覚まし、魔力がフルに復活しているのを確認し、朝食を済ませると、出発だ。

 テントを収納し、シールドを展開し、シールド内の空気清浄も発動しつつ、真っ暗な星空へと飛び上がった。


 グングンと真っ暗な地表が離れて行く。

 高度が上がると、真っ暗だった東の空に太陽が見えて来る。

 直射日光を遮る意味で、光シールドに加え、適度な闇魔法のシールドも展開。

 周囲の気圧も気温も下がっているだろうが、シールド内は快適である。


 やがて進行方向が暗くなって行き………大気圏外へと飛び出した。

 尚も直進して行くと、ドンドン身体に掛かる重力が減って行く。

 静止衛星軌道空域を目測しつつ、宇宙空間を地上では考えられない程のスピードで移動する。

 やはり、無重力で真空だと、抵抗が無いので、移動のパワーロスが無い。


 軌道上で怖いのは、通常の移動する衛星や目に見えない程のサイズの無数のデブリである。

 サイズはボルトサイズであっても、そんなのが超高速で無秩序に飛んでいるとか、ホントに魔法のシールドが無かったら、自殺行為なんじゃないかと思ってしまう。


 ★国が、ある程度発展した頃、宇宙開発に色目を使い、散々コピーしまくったロケットを使って、宇宙にゴミを撒き散らした。

 いや、他の国も撒き散らしているのは事実だが、使い物にならない失敗作とか、制御不能な衛星とか、ガンガン飛ばしていたからなぁ。


 さっきから、ちょくちょくシールドに激突する物がある。

 一応、闇魔法のシールドにキャッチさせて回収はしているが、地球の円周が約4万kmとして、地上から離れれば離れる程、その軌道の円周は大きくなる訳で。

 つまり何が言いたいかと言うと、宇宙空間は広すぎて、ちょっとやそっとで大掃除するのは無理なのである。





 おそらく、静止衛星軌道に到着したと思われる。

 幾ら静止衛星軌道が渋滞していると言え、実際にはラッシュ時の高速道路程に密接している訳ではない。

 各衛星同士は、衝突防止等、様々な事を考慮して、実際には目視するのが難しい程に離れている。


 そんな中で俺は、★国の衛星を探し始めた。

 無くなった国で管理出来ないだろう国の衛星は次々とアイテムボックスに収納して行く。


 当然の事だが、衛星には、寿命がある。

 その寿命は、一般的に軌道修正する推進燃料の残量で決まるらしい。

 勿論各部品の耐用年数もあるので、推進燃料の残量に余裕のある内に、現役を引退し、第一線から退く訳だ。

 つまり、耐用年数が来る前に次の衛星を飛ばし、入れ替え古い衛星は地球から離れて、第一線を新しい衛星に譲る。

 最悪のトラブルが起きた場合、後ろに控えた古い衛星が、出張ってきて補助をしたりする訳だ。


 つまり何が言いたいかと言うと、衛星を見つけたら、更に後ろ側にも古い衛星があるよ? と言う事。


 これを探すのは、かなり困難である。

 それこそ、レーダーとかあれば別なんだろうけどなぁ。



 ◇◇◇◇



 2時間が経過し、既に30機程は回収した。

 魔力残量だが、今の所、想定内に収まっている。


 一休みを兼ねて、ちょっと早いが、さっちゃんおにぎりと、鶏の唐揚げを楽しむ。

 食後の冷やした緑茶をのみつつ、地球を眺める。


「やっぱ、ユグドラシルの木、滅茶滅茶目立つな。

 あんなにデカいのが生えて、地球の自転的なバランスって大丈夫なんだろうか?」

 と疑問に思うが、まあそこら辺は大神様が上手くやってくれているのだろう。

 まさか、考えなしって事はないだろう。



 昼食後にまた作業を再開した。宇宙空間に出て、5時間が経過した。

 大体2時間ぐらいで一回休憩を入れているが、砂漠の中の小石を探す感じで、実に疲れる。

 大体、これで70機程回収した事になる。


 丁度10時間の半分を回った所。

 あと一踏ん張りはしたい。


 わぁ!! デカっ! 何じゃこれは。

 ああ、★国マーク。 何かヤバい物積んでそうだな。

 発射口あるよね、これって。

 確か宇宙空間の軍事利用って国際法で禁じられていた筈なのだがな?


 まあ、もう滅んでる国だから、良いけど、じゃなかったら、コロニー墜としじゃないが、自分らの国に叩き返してやる所だ!


 サクッと収納し、その後もドンドン作業を進める。


 更に2時間が経過し、合計7時間が過ぎた頃、回収した静止衛星の数は、100機を超えた。

 まあ、静止衛星はこれ位で良いだろう。


 そして、通常の衛星軌道を確認していると、

「ああ、やっぱりこうなるのか!」

 と思わず呟く。


 軍事利用不可な筈だが、冷戦の名残か、現役だったのかは不明な核の大国のヤバい衛星が何機も見つかった。

 これが地上に落下とか、正直笑えない。

 黄色に黒の丸いヤバいマークも入ってるし。


 兎に角、見つけ次第、次々に回収した。

 中には、デブリが衝突したらしい、太陽電池パネルが破損した物や、衛星本体がかなり損傷している物も多数あった。

 ちょっと興奮して、作業に没頭した為、10時間を過ぎてしまった。

 腕時計のアラームが鳴り、取りあえず、魔力ポーションを飲んで、安全域まで魔力を戻した。


「疲れた時は、甘い物だな。」

 と宇宙空間で、シュークリームとコーヒーを堪能する。

 そして、口の中を焼けどした。


 人肌以上のホットは無重力空間では、お薦めしない。

 ギュッと吸い込んで瞬間に後悔してしまったからな。



 口の中にライト・ヒールを掛けて、更に3時間程通常衛星軌道を確認した。


「こんな所かな。 これで大分スッキリしただろうな。」


 さて、問題は、これらの回収した衛星だが、幾ら容量制限無しのアイテムボックスの中とは言え、これだけのゴミがあるのは気分が悪い。

 太陽方面に高速で放り出す事も考えたのだが、もし何かの重力に引っかかって、スイングバイ効果で更に勢い付けて地球に戻って来るとかが、無いとも限らないから、直ぐに却下した。


 そこで、取りあえず、月には申し訳ないが、月の渓谷に暫定で安置しておく事にした。


 魔力ポーションを更に1本飲んで、月へとゲートで移動する。

 14時間振りに重力を感じて、何か変な感じ。


 深そうな渓谷を確認し、底に移動して、160機程の衛星を取り出した。

 渓谷に設置したのには、理由があって、ご存知の通り、月には沢山のクレーターがある。

 このクレータは宇宙空間からの隕石等の衝突で、出来た物だ。

 頻度は不明だが、大気の無い月では、隕石は燃え尽きずに、激しく衝突する。

 しかし、渓谷ならば、その影響は少ないと判断した訳だ。


 更に念の為、衛星を多い隠す様に、土魔法で堅いシェルを作った。

 厚さ5m程にしたので、多少なら大丈夫ではないだろうか。


 そして、月ダンジョンへとゲートで移動し、やっとシールドを外して、数時間の休憩を取った。


 ハッと目覚めると、午後8時を過ぎていた。

「イカン……ついつい寝ちゃった!!」


 慌てて自宅に戻ったが、既に夕食が終わった後だった。


「お父さんおかえりー!!」

「パパ、おかえりゅ!」

「あら、旦那様、もうちょっと早ければみんなで夕食食べられたのに……」


「無念。ちょっと休憩し過ぎてしまった。何か残ってる?」


「フフフ、ちゃんとあるわよ。」

 とさっちゃんが、夕食を出してくれた。

 子供達も、何かデザートを食べながら、俺の夕食に付き合ってくれたのだった。


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