第102話 ドライスラー王国
ちょっと遅めの昼食を済ませ、ドライスラー王国の王都を目指し、途中何箇所かの集落に食料を別けつつ午後5時頃には王都の城門に到着したのだった。
王都の城壁は、ザインツ領とは比べ物にならない程に立派で、高さ10m幅4mの立派な石造りであった。
城門から50m程離れた場所に着地すると、既に王宮から知らせを受けてスタンバイしていた騎士と馬車が、スッと目前へやって来て、
「ドライスラー王国近衛騎士団団長のドルゲン・フォン・ツバイと申します。
日本国の特使、佐々木殿御一行とお見受け致します。
この度は我が国をお助け頂き、誠にありがとうございます。
我が王より、直ぐに王宮の方へご案内する様に仰せつかっております。
ささ、こちらの馬車にお乗り下さい。」
「初めまして。ご丁寧なご挨拶とお出迎えありがとうございます。
ご察しの通り、日本国の特使をしております、冒険者の佐々木徳士と。こちらは、佐々木清治郎です。
では、宜しくお願い致します。」
馬車に乗り込み、王都の街並みを閉店している店が多く、道を行く王都の住民の顔は痩せ、暗い顔をしていた。
「食糧不足が原因ですか?」
と同乗しているドルゲンさんに尋ねると、
「はっ。お恥ずかしながら、何とか細々とした配給を行って凌いでおりましたが、とうとう非常時用の備蓄も一昨日尽きてしまいまして……。」
と目頭を押さえるドルゲンさん。
「ここ王都の人口はどれ位でしょうか?
人口にもよりますが、多少持って来ている食料がありますので、救援部隊が来るまでの繋ぎに少し出せますよ?」
と聞いてみると、王都の人口は、約10万人程らしい。
但し、現在は減っている可能性が大との事だった。
ふむ、10万人ぐらいなら3日分は出しても大丈夫かな。
「では、繋ぎで3日分ぐらいの食料は出せそうですね。
おそらくこちらでは馴染みの無い食料だと思いますので、調理方法を教えますから、人員を集めて炊き出しの準備をして頂けますか?」
と提案してみると、大喜びされ、直ぐに先に王宮へと伝令を走らせたりしていた。
10分後、王宮の広場に集まった兵士とメイド達を前に、アイテムボックスに入っていたお米やオークの肉、塩等を出し、寸胴や大鍋を用意させて、おかゆの作り方を教えた。
手分けして大量のおかゆを作り始め、40分が経過した頃には、第一陣のおかゆが完成した。
出来上がったおかゆの入った寸胴や大鍋をを台車に乗せて、兵士達が街中へと運んで散って行く。
第二陣の作成過程まで見届けてから、王宮の会議室へと案内されたのだった。
◇◇◇◇
「そなた達が、日本国の特使、佐々木殿御一行か。
この度は、我が国の窮地を救って頂き、感謝の言葉も無い。
この御恩は、何かの形でお返ししたい。」
とドライスラー王が頭を下げた。
「初めまして、佐々木です。どうか頭をお上げ下さい。
こちらの大陸も色々向こうの世界では、大変だったとお聞きしております。
我が国の政府……ああ、国を司っている者からは、後日正式な全権特使がやってくると思いますので、色々と情報交換や貿易等のお話をして頂ければと思います。
私は、第一陣の偵察と調査がメインですので、政治には疎いのです。
おそらく、次の特使が農業技術の支援の話も持って来ると思います。
転移した事で、環境や季節までも変わってしまっていますので、今後の作物の育成等に役にたつと思います。
また、農業用の機械と言うか魔道具もありますので、効率的に少しでも早く育つ食物を作って、立て直して下さい。
多分、明日には救援部隊もやって来ると思います。
取りあえず、王様も何かお召し上がりになった方が良いご様子ですね。
我が国の食べ物ですが、ご一緒に如何ですか?」
とパッケージングされているサンドイッチと飲み物を出して見ると、
「うむ……忝い。しかし、出来ればこれを子らに与えても良いじゃろうか?」
と聞かれ、
「ああ、どうせなら、宮殿内全員の分ぐらいはあると思いますので、ホールか何かに全員集めて、食べ物の置ける大きいテーブルをご用意頂けますか?
非常時と言う事で、この際立場や役職抜きで、全員で食べましょう。」
と提案してみると、
「おお、それはありがたい。」
と王様がお礼を言いつつ、従者に命じて、ホールへと案内された。
用意してあるテーブルに、アイテムボックスから、サンドイッチや肉串、スープ等、様々な食べ物を皿に出していくと、メイドさんが、慌てて取り皿やフォーク類を持って来てくれた。
幼い王子様や王女様達も、そして宮殿内のスタッフ達も大喜びで、位も関係無く、全員が嬉しそうに食べていた。
まあ、食後の話になるが、
「しかし、佐々木殿、非常時と言う事と、空腹から全然気付かなかったのじゃが、こうして満腹になって考えてみると、佐々木殿は一体何処からこの食べ物を出されたのだろうか?」
と不思議そうに聞いて来た。
フフフ、そうか今までは非常時でそこまで頭が回ってなかったんだね。
「ええ、これはアイテムボックスと言う私の持つスキルでして、無制限に物を収納出来るのですよ。
アイテムボックスに入れると、時間経過も停止しますので、腐る事も無いし、暖かい出来たてのままとなるのですよ。」
と答えると、大変に驚いていた。
「なんと、お伽噺に出て来るスキルではないか! まさか実在するスキルであったとは……。」
と驚いていた。
幼い王子様や王女様達からは、キラキラした目で見つめられてしまい、実にこそばゆい。
「まあ、このスキルが無くても、マジックバッグやストレージの魔道具もありますし、似た様な事は出来ますよね?」
「マジックバッグ! それは各国に数個あるかと言われる貴重な魔道具ですが……もしや、こちらの世界では、マジックバッグやストレージがそんなに簡単に手に入る物なのですか?」
と王様が食い付いて来た。
なるほど、あっちの世界では、空間拡張や異空間に接続すると言った時空間魔法関連が発達してなかったのかも知れないな。
もっとも、世界が滅亡してしまう程の魔動兵器の実験?って何やらかしたんだろうか?
まあ、余り変な所を突っつく気もないけど。
◇◇◇◇
王都住民への炊き出しの配給は夜の9時頃には何とか行き渡り、俺達も王様もホッと一息着いたのだった。
本部からの連絡では、明日の朝には、救援部隊と政府からの特使が打ち合わせにやって来るとの事だった。
同時に農業技術支援の特別編成チームもやって来るとの事なので、何とか早めに農業を再構築して欲しい所だ。
ドライスラー王の方から、ジャンセン王国へも通信魔道具による連絡が取れており、明日の早朝からジャンセン王国へと向かう予定にしている。
気掛かりなのは、国家を持たない獣人達への支援が散発的にしか行えない事である。
このままだと、自衛官のパイロットとの約束と言うか、熱い要望を果たすのは、まだまだ先になりそうだな。
ケモ耳娘は総じて、情に厚いからなぁ~。きっとあのパイロット達はメロメロになるだろうな。
カサンドラスで時々『色々と』お世話になった狐の獣人をふと思いだし、別れの挨拶が出来なかった事を申し訳無く思ってしまう。
彼女はあの後幸せに暮らせたであろうか?と。
ちょっとセンチな気分になったので、寝る前にブレスレットでさっちゃんの声を聞き、王宮に用意して貰った部屋で眠りに就くのであった。
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