第97話 馬子にも衣装

 話は、若干前後するが、元号が『礼合』になって新しい天皇陛下の御代となり、俺達佐々木家の周りが慌ただしくなっている。

 何でも、チーム佐野助に勲章を頂けるらしいのだが、さあ困った。


 何が困ったって言うと、着ていく衣装だ。

 陛下の御前に俺の持って居る衣装では、余りにも不敬と言う事だ。

 まあ、それは父上も同じで、唯一あるのは清兄ぃの紋付き袴だけ。

 俺、父上、叔父上、兄上、聡君は衣装を新調すべく、現在バタバタとしている。


 俺がカサンドラスで王や皇帝に謁見する際に用意した、衣装ならアイテムボックスの中に死蔵されているが、こちらの世界では、確実に失笑物である。


 と言う事で、急遽呉服屋を探したのだが、ここで問題が発生。


 無いんだよ、呉服屋さんが。


 理由は簡単で、糾弾の日以降、誰もがそれどころではなく、反物や着物を買わなくなった……いや、買えなくなった。

 魔物災害で破壊された店も多く、食う為に必死だった事もあって、みんなそれどころじゃなかった訳だ。

 当然、無事だった呉服屋さんも商売にならないし、着物の生産に拘わっていた人々も同じ。

 みんな廃業とか引退とかで、あるのはレンタル衣装ぐらいだった。


 そこで、廃業した呉服屋さんを探し、その伝手を使い、佐々木家全員の分の和服を用意して貰う事になったのだ。

 政府からは、こう言う事を想定して半年の猶予を持たせて通達があったのだが、伝手を使って交渉したりで、1週間単位の時間が過ぎて行き、全員の分が揃ったのは、予定の1週間前だった。



 余談だが、殆どが糾弾の日以前では、殆ど国外で生産されていた衣服類は、糾弾の日以降、2年程品薄が続いた。

 国内の廃業した工場や何かが再稼働するまで、殆どの在庫品は無くなり、大変だったらしい。

 一番大変だったのは、女性の下着だったらしい。


 男性の俺にしてみると不思議だが、女性の下着は、ほら、色々と複雑怪奇な仕組みとかあるから、男性のトランクスの様に簡単じゃないって事。

 さっちゃんに聞いた所、やはり大変だったと言っていた。(当時は中学生だったのにね)


 まあ、そんな品薄状態から、やっと今の国内生産が整い、普通に供給され、お洒落なスーツなんかも普通に売っている時代にはなったけど、衣服全般、以前に比べ高額となっている。

 国内だから人件費とか、原材料費とか色々高いしね。





 そして、叙勲の日となった。

 双葉と奈菜ちゃん(聡君の妹)だけは振り袖で、華やかである。

 さっちゃんは、自分が着る事の無かった振り袖姿に若干羨ましそうな目を向けているが、さっちゃんの江戸褄姿はグッとくる物があり、実に良いぞ?

「和服姿のさっちゃん、綺麗だよ。」

 と俺はさっちゃんの姿に見とれつつ、思わず口を突いて褒めると、照れ照れになっていた。


「アッ君も、似合っているわよ。」と。


 敬護の小さい紋付き袴姿も可愛いし、母上は結婚当初に嫁入り道具の1つとして持って来た江戸褄姿がシックリと収まっていて、似合っている。


 馬子にも衣装とは言うが、やはり清兄、母上、叔母上以外だと、取って付けて着せられている感があるのはしょうが無いのか。

 普段から和服を着る機会がある人は、動きが綺麗なのである。



 前日から都内のホテル(帝国ホテル)で一泊し、迎えの車に乗り込み皇居へとやって来た。

 俺の緊張は既に門を潜った段階でMaxである。


 これに比べれば、魔王討伐の方がお気楽だった。




 御前に案内され、陛下、皇后様、そして皇室の方々が見守る中で、厳かに叙勲が行われた。

 勿論だが、陛下の御前なので、チーム佐野助のトレードマークのマスクは使ってない。

 叙勲の際、陛下からお言葉を頂き、感動に打ち震えてしまった。


 何と驚く事に、頂いた勲章は、日本最高位の勲章であった。

 俺は、同じく命を掛けた戦友達に、申し訳無い気持ちになってしまったのだった。

 形は違えど、国や愛する家族や仲間を思う気持ちは、戦友達と同じだからである。

 色々な想いが溢れ、不覚にも一筋、涙を流してしまったのだった。




 想定外だったのは、これがライブ中継されていた事だった。

 現在、海外の不穏な国家が無いので、特には隠して居なかったが、素顔が晒される事となり、佐々木家の周囲がかなり騒々しい事になってしまった。

 尤も救いだったのは、政府の配慮でチーム佐野助としてではなく、別の名目での公表だったのは幸いであったが。



 記念撮影も行われ、晩餐会にもお招き頂き、やっと自宅に戻った時には、ドッと疲れが押し寄せて来た。

 普段着に着替え終わると、家族全員、ソファーにグッタリと沈み込んだ。



「何か、凄い一日だったわね。」


「ああ、本当に緊張の連続で、これまでの人生で、一番緊張したな。

 2番目は同列で、さっちゃんとの結婚式と敬護と皐月の生まれる日の分娩室前の廊下だ。」

 と俺が言うと、さっちゃんが、笑っていた。


「そう考えると、皇室の方々って、本当に大変だわね。

 毎日が今日の連続ですもんね。」


「俺達には、計り知れないご苦労が多いだろうなぁ……」


 大人達は、一応に疲れ果てていたが、敬護は非常に元気で、普段着に着替えると、活発に走り廻っていた。



 ◇◇◇◇



 秋の叙勲の日から2ヵ月が過ぎ、佐々木家の周りも落ち着いて来た。

 それに従って、俺達も普段通りの生活に戻っている。


 世界の状況はと言うと、米国が驚異的なスピードで復興して居るが、如何せん、激減した人口が足枷となり、ある程度まで文明的な生活を取り戻した所で、やや上向きの横ばいに収束していた。

 これは、人口が増えない事には何ともならないだろう。


 東南アジアの各国も、徐々に国家と言う形態を取り戻し、日本との貿易を再開している。

 とは言え、こちらも人口の問題は以前同様である。


 世界各地の人口の問題は、それこそ10年、20年掛かる問題なので、現状ではハイブリッド・ゴーレムの手が必要不可欠で、日本の関連企業は、フル稼働で生産を進めている。


 と言う事で、俺の口座には、ロイヤリティが定期的に振り込まれているが、その1回当たりの振込金額は増える一方であった。

 なので、死蔵していてもしょうが無いので、こちらも定期的に孤児院や施設等へ、寄付をしている。



 そうそう、双葉と城島君の事だが、最近は少しずつ距離が縮まっている感じがする。

 城島君は相変わらず、俺の所へやって来て、鍛冶や魔道具の作成の指南を部活以外で受けている。

 そこへ、双葉がお茶等を持って来ると言う感じである。

 そこら辺の所を母上に聞くと、どうやら率先して双葉が持って行く感じらしい。


 そろそろ、城島君も覚悟を決めて仕掛けて欲しいのだが、2人の微妙な距離感が、もどかしい。

 そんな事を俺がリビングでボヤいていると、

「鈍感大魔王のアッ君が言うのか!」

 とさっちゃんに鼻で笑われてしまった。



 そして、季節は完全に冬になり、そろそろクリスマスシーズンに突入する頃、世界に第ニの激震が走るのだった。

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