第95話 ボス戦

 一夜明け、朝食も済ませて、早々に第5階層の仕上げに出発する。


 しかし何だなぁ~、当初の予定と言うか、目的は城島君と双葉をもっと親密にさせる予定だったのだが、俺ってそう言うのに向かないなぁ。

 凛太郎や愛子ちゃんにもフォローをお願いしているんだが、日々の探索の方に集中し過ぎて、なかなかそう言う雰囲気にならないんだよな。


 何とか残り少ない合宿で少しでも進展を作らないとだな。




 さて、肝心の第5階層の探索だが、こちらは順調で、徐々に出て来る魔物のレベルや種類に変化があった。

 狼系はダーク・ウルフから、より凶暴で俊敏なデス・ウルフへと変わり、更に身長2mぐらいのロック・ゴーレムが出没し始める。

 ロック・ゴーレムの動きはそれ程速くないのだが、問題はパワーと堅さだ。

 双葉は問題無いのだが、他の部員達の剣や槍等の物理攻撃は、付与を施していても、ほぼ通用しない。

 これは、まあ単純に使っている武器がショボい事もあるが、一番大きいのは付与と魔法の熟練度の低さに起因する。

 更に言えば、攻撃の狙い所が悪い。


「か、堅い! 全然斬れる気がしない!」

 とか叫んでいる。


「もっと頭を使え! 堅いボディーをいきなり狙っても攻撃が通る訳ないだろ?

 関節を狙って動きを封じろ!」

 と俺が指示を飛ばすと、直ぐに狙いを変更し、左膝の関節に攻撃を集中し始めた。


 合図と共に魔法組の攻撃も、合間合間に入れ、徐々にではあるが、左膝の関節に亀裂が入って来る。

 戦闘開始から4分ぐらい経過した頃、「グモーーー」と言う悲痛な叫び声と共に、左膝が破壊され、ロック・ゴーレムがバランスを崩し倒れた。

 それでももがきながら攻撃しようとしているが、今度は左肩の関節に狙いを集中する事にしたらしい。

 今度はあっさり1分ぐらいで、ゴーレム本体から左腕が分離した。


 身動きが全く取れなくなったゴーレムの首に狙いを集中し、1分もせずにゴーレムが光の粒子となり消えて逝った。


 少年少女達は、

「ふぅ~、何とかなったな。」

「堅かったわぁ~。」

「神話だか何かだと、額の文字を削れば倒せるってのがあったけど、文字無いし。」

 とか色々感想を述べていた。


「まあ、ゴーレムの倒し方は、色々あるが、ゴーレムの特徴としては、動きは遅いけど、パワーと堅さが半端無い。

 首を落とすか、胸の心臓の位置にある核を破壊すると倒せるんだが、当然核は分厚い外壁に覆われているので、攻撃がなかなか届かないからな。

 ゴーレムの種類にもよるが、魔法攻撃耐性のあるゴーレムも居るので厄介だな。

 まあ、しかし、関節部分への加熱と冷却の繰り返し攻撃とかは有効だし、もっと武器への付与が強くなれば、物理攻撃で与えるダメージも大きくなるぞ。」

 と俺がアドバイスすると、


「「「「「なるほど!」」」」」

 と頷いていた。


 その後もロック・ゴーレムが何体か出て来たが、対ゴーレム戦に徐々に慣れていき、流れる様な連係プレーが出来る様になっていった。



 そして、昼食休憩を取る頃には、フロアの90%近くまで制覇し、双葉以外は全員、レベルを2つ上げていた。

 ただ、問題は冒険部員達の武器で、刃こぼれやダメージを受けた物が多く、昼食後に急いで鍛冶錬金部の3人がメンテナンスを行う事になった。


「佐々木さん、もうすぐボス戦だと思うんすけど、この感じだとやっぱ、ボスってゴーレムなですかね?」

 と冒険部のリーダー格の少年が聞いて来た。


「うむ、断言は出来ないけど、この流れだとあり得るよな。

 ただ、ゴーレムはゴーレムでも、ロック・ゴーレムじゃないと思うな。

 となると、アイアン・ゴーレム辺りがボスの可能性もあるな。

 ボスが単体なら良いが、ロック・ゴーレムを伴っていると、かなり厄介だな。

 まあでも、第5階層だから、ミスリル・ゴーレムなんかは出て来ないと思うけどな。」

 と俺が予測を述べると、苦い顔をしていた。



 1時間掛けてのメンテナンスが終わり、出発となった。

 2人程は、刃にクラックを発見したので、予備の武器へとチェンジしていた。


「やっぱ、武器の予備って大切っすね。

 良かった予備あって……。」

 とホッとした表情をしていた。



 ◇◇◇◇



 2時間程で、フロア全体を廻り切り、とうとうボス部屋へと辿り着いた。

 セーフエリアで一旦休憩を挟み、英気を養い、予想と攻撃の打ち合わせを行って、ボス部屋へと入った。


 ボス部屋に入ると、身長3.5m程のアイアン・ゴーレムを真ん中に、2.5m程のロック・ゴーレムが両脇に1体ずつ立っていた。

 ボス部屋の扉が閉まると、「「「グァーーー!」」」と低い地響きの様な叫び声を響かせつつ、両脇のロック・ゴーレムが一斉に動き始める。


「打ち合わせ通り、2チームに分かれて、1体ずつロックをヤルぞ!」

 とリーダーが指示を飛ばし、それぞれの受け持ちのゴーレムへと攻撃を開始する。


 身長こそちょっと大きくなったが、これまでに何体も倒して来たロック・ゴーレムなので、同じパターンで左膝から攻撃を開始し、ドンドンと削って行く。

 流れる様な連携でアッと言う間に横倒しにして、サクッと首を取って光の粒子となり、消えて逝った。


「ギュゴーー!」とアイアン・ゴーレムが吠え、大振りなパンチを浴びせて来るが、動きが遅いので、スムーズに回避しつつ、膝に攻撃を集中して行く。

 特に魔法組は、ファイヤーボールとアイスボールを交互に撃ち込み加熱と冷却を繰り返して行く。


 4分ぐらい連携した膝への攻撃が続き、大剣を使う少年のフルスイングを受け、アイアン・ゴーレムの膝関節が破壊された。

「ゴーーーーン!」と悲痛な叫び声を上げ、ユックリ横倒しになるゴーレムに押しつぶされない様に、全員が回避する。


 ドッカーーンと地響きを上げて倒れたゴーレムへ、今度は邪魔な腕を排除すべく、左肩へと攻撃を集中するが、ジタバタと藻掻くゴーレムに手こずっている。

 しかし、ダメージはそれなりに蓄積され、徐々に動きが悪くなって行き、やがて左腕が肩から分離した。


「ふぅ~。あと一息だ! 油断せずに一気に行くぞー!」

 とリーダーが声を掛けると、「「「「「「「おー!」」」」」」」と全員が返す。



 しかし、ここからは一方的な攻撃ターンのみで、一気に首が離れて、光の粒子となりアイアン・ゴーレムは光の粒子となり、ドロップ品と3つの宝箱を残し消えて行ったのだった。


「「「「「「やったーーー!!!!」」」」」」

「「「長かったーーー」」」

 とみんなで肩を抱き合ったり、ハイタッチしたりと、大喜びの9名。

 もっとも、双葉は遠慮してあまり攻撃を入れなかったのだがな。



 ドロップ品や宝箱のお宝を全て回収し、移動魔方陣で第1階層の入り口横へと一瞬で移動した。

 初めて味わう魔方陣での移動に、はしゃぐ8名の少年少女達だったが、

「よくよく考えると、佐々木さんのゲートの方が、凄いよな。」

 と冷静になっていた。



 俺達の気配を感じ、振り返った自衛官達がホッとした表情を見せる。


「ああ、ご無事でしたか! 良かった。」と。


「ああ、ご心配をお掛けしたみたいで。

 第5階層を攻略するまで籠もっていたので、予定よりオーバーしてしまいました。

 でも、全員無事ですので、ご安心を。」

 と言うと、笑顔で返してくれた。



 ダンジョン横のギルドの支部に入ると、

「あー! お帰りなさい。ご無事で何よりです!」

 と一斉に帰還を祝ってくれるギルドスタッフ達。


 支部長も飛んで来て、一頻り報告が終わると、いよいよお待ちかねの買取タイムだ。


「えっと、箱を取りあえず20個ぐらい用意して貰えますか?」

 と城島君がスタッフにお願いし、箱へとマジックバッグから分類しながら出して行く。

 満杯の箱がドンドンと積み上げられて行くに従って、生還を喜んでいたギルドスタッフの顔が引き攣って逝き、最後に目の色が死んでいた。


 溢れんばかりの箱が、29箱……

「じゃあ、これらを買取お願いしますね。」

 と笑顔でお願いすると、


「……えっと、いつまでに査定すれば宜しいでしょうか?」

 と小さな声で聞いて来るギルドスタッフのお姉さん。


「佐々木さん、こう言う場合ってどうすれば良いですかね?」

 と助言を求められたので、


「じゃあ、これ査定と言うか、金額が決まったら、それを9等分して各人の口座へと振り込んで置いて下さい。」

 と告げると、お姉さんの顔が、ちょっとホッとした表情になっていた。



 余談ではあるが、その日、双葉達の高校の部活動で、2つのダンジョンの第5階層がクリアされたニュースは、冒険者ギルドのサイトのニュース蘭に記載され、冒険者界隈では、「高校生に負けてられない!」と発憤材料になっていたらしい。



 長くて短い合宿もほぼ終わり、島に戻って清兄ぃのチームと合流して、その夜は祝賀パーティーを開いた。

 まあ、未成年なので、酒は無しだが、食い気だけで大いに盛り上がっていた。

 子供達は、別のチームのダンジョンの話を聞いたりして、なかなか勉強熱心であった。

 城島君は、双葉にお願いしたらしく、双葉の刀を見せて貰い、色々と質問したりして、メモを取っていた。


 双葉の高校の鍛冶錬金部にある、炉だが、鋼鉄までしか対応していない。

 つまりミスリルやアダマンタイト、オリハルコンの様な上級魔金属等を十分に溶かせるだけの熱量が無いのだ。

 だから、もっぱら部活動で鍛冶をする場合、魔鉄鋼がメインとなるのだが、今回の遠征で魔鉄鋼の武器の限界を知った事で、城島君はステップアップを考えているらしい。


 ふむ、そう言うパターンで呼び出して接触の機会を増やすのもアリか!


 と言う事で、

「家の敷地にある、鍛冶場ならミスリルでもオリハルコンでもアダマンタイトでも、何でも打てるぞ?

 今度と言うか、明後日ぐらいに来てみるか?」 

 と城島君を誘ってみると、「是非!!!」と嬉し気に即答していた。




 翌日、島で休養を兼ねた1日を過ごし、夕方にはゲートで地元へと移動して、解散となったのだった。

 子供達は、全員5~7レベル上昇しており、なかなか有意義な合宿となった。

 これからも油断無く、切磋琢磨して精進して欲しいものだ。

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