第80話 真夜中の襲撃

 その後、全員前屈みにはなれない程に腹が膨らみ、2時間程、ソファーで腹をポッコリと出していた。

 そして、漸く各自テントへと帰って行き、風呂に入って就寝したのだが……


 昼間の日差しに暖められた砂が冷えだした頃、俺の魔力感知と気配感知からの警鐘が、俺を叩き起こした。


「起きろ!魔物だ!!」

 と隣で寝息をたてているさっちゃんを起こし、10秒で着替えて外に出た。


 時を程なくして、魔道具の魔物警報が鳴り出し、魔物の襲撃を知らせる。



 流石に自衛官達の動きは早く、即座にテントから出て来て、オスプレーに乗り込んだ。

 最悪の場合を考慮して、上空に逃げて貰う予定である。

 前田達も、フル装備で俺の下へとやって来た。


 そして、ちょっと顔色を青くしている、油田チームの7名が出て来た。

「一応、こちらで撃退するので、念の為、飛行機に搭乗して、退避していて下さい。」

 と急いで伝えると、小走りにオスプレーに乗り込んで行った。


 一応、テントを撤収し、オスプレーの離陸と同時に、結界を解除したのであった。



 さて、俺達の周りを30匹ぐらいの大型の魔物と70匹ぐらいの中型の魔物が取り囲む様に迫って来て居る。

 徐々にではあるが、足下の砂を介してその微振動が伝わって来てる。



 サンド・ワームと恐らく中型はサンド・スコーピオンと思われる。


 どうやら、俺達と言うよりは、包囲網の中心がタンク側にズレている。

 と言う事は、タンクの中の攪拌機とポンプの振動に寄って来たと言う事かも知れない。

 なるほどな。


「みんな、周囲に散開して、2名ペアで周囲3箇所で撃破しよう。

 どうやらタンクからの振動を聞きつけて、タンク側を狙っているらしい。

 絶対に漏らさない様にしよう。」

 と指示を飛ばし、それぞれの受け持つ方向へと散って行く。


「さっちゃん、油断しないようにね。

 最初のサンド・スコーピオンは殻が固くて、毒を飛ばして来るから。

 特に尻尾と挟みに注意して。」

 と言うと、


「わぁ……蠍かぁ。嫌だなぁ……」

 と顔を顰めるさっちゃん。


「判ってるとは思うけど、火気厳禁だからね。」

 と俺が再度注意すると、


「あ、わ、判ってるもん!」

 とそっぽを向いていた。 あー、忘れてたんだな。危ない危ない。



 奴らが振動源をターゲットにしているなら、新たに震動源を作ってやれば、自然と集まる。

 俺は、魔力を練って、低周波の音響弾を前方20mの砂へとぶち込んだ。


「ドッパーーン、ブォーーーーーーーーーー」

 と砂が激しく振動する。


 背後の左右からも同様に、ドッカーンと音がしていた。



 すると、砂の丘から黒い影がズラリと顔を出して、一斉に震源へと飛び込んで来る。


「来たぞ!」


 俺とさっちゃんは、身体強化、身体加速等の補助スキルを発動させつつ、刀に付与を掛けて一斉に飛びかかった。

 20mの距離を瞬時に移動して、アイスランス20発を同時に発動して、各標的にロックして発射する。

「シュドドドドドド……」

 と連続する着弾音と共に、


「ギギャーーー」と言う蠍の悲鳴が辺りに鳴り響く。


 流石にアイスランス程度では、致命傷には至らず、足や尻尾、ハサミ等を飛ばして、緑の血液を垂れ流しながら、怒りに満ちたサンド・スコーピオンが、標的を俺達に変えて突っ込んで来る。

 俺は、横薙ぎの一太刀で、1匹を切断し、そのまま流れる様に回転しつつ、その右隣の蠍のハサミを肩から切断し、返す刀で、顎から頭を切り上げて頭部を破壊する。

 更に、そのまま時計回りに、回り込まれない様に進みながら頭部を兜割に斬り付ける。


 うん、調子が出て来たね。


 さっちゃんも魔法で牽制しつつ、頭部に斬撃を加えて着実に1匹ずつ仕留めている。

 どうやら大丈夫だな。


 おっと、さっちゃんの方を気にしている間に、左側の奥のサンド・スコーピオンが毒液を尻尾から噴射して来た。

 瞬時に避けると俺の居た場所を通り抜け、背後の砂が吹き飛びつつ、黄色い煙がモヤッと上がっていた。


 俺は腰のベルトにある投擲用ナイフを抜き取りつつ、付与して、お返しとばかりに、そのサンド・スコーピオンの頭目掛けて投げた。

「ズッドン」と軽く衝撃波を伴い、音と同時にナイフが蠍の頭を破壊していた。


 こっちに来て居る残りのサンド・スコーピオンは22匹。

 更にペースを上げて、5匹を刀で倒しつつ、アイスカッター5発を群れてやって来る後方の5匹へ発射する。

 頭に刺さったアイスカッターが頭部から胴体の1/3までめり込んで行き、4匹を倒し、1匹は足を全部切断されて、ジタバタと蠢いていた。

 また毒液攻撃されるのは鬱陶しいので、直ぐに投擲ナイフで頭部を破壊した。


 さっちゃんも順調に蠍共を殺していて、残りは6匹となっていた。

 6匹の目の前まで瞬時に間合いを詰めて、袈裟斬りに1匹ずつ流れる様に太刀を浴びせ、次々に葬る。


 すると、サンド・スコーピオンに追いついたサンド・ワームが砂を跳ね上げて、巨大な頭?を砂から6m程持ち上げた。


「キモっ!」


 細かく短い体毛が全身をを覆い尽くした、巨大なミミズ。

 丸い洞窟の入り口の様な口の内側には、グルリと円周上に鋭い牙が卸し金の様に生えている。

 一度、咥えると、奥にしか進めない様に、奥に傾斜した無数の牙である。


 直ぐに、サンダーアローを口の目掛けて発射するが、暴れるだけで、あまり効果は無かった。

 砂漠の魔物だけに、水分含有量が少なく、伝導率が悪いのかも知れない。


 今度は、超高速回転のアイスドリルを口の中目掛けて発射すると、


「ギッシャー」

 と断末魔の悲鳴を上げて、頭部を突き抜けその大きな巨体が倒れて動かなくなった。


 さっちゃんにも、口の中を狙って、超高速回転のアイスドリルを撃つ様に指示して、群がって来るサンド・ワーム13体を撃破して廻った。



「ふぅ~。こっちは、一段落だな。前田達の手助けに廻ろう。」


 さて、前田班に俺、凛太郎班にさっちゃんが加勢に行くと、怪我もダメージも受けては居なかったが、まだサンド・スコーピオンが5匹残っていて、そこにサンド・ワームが参戦して居る場面であった。


「おう、手伝いに来たぞ!」

 と行って、後ろのサンド・ワームを引きつけて、口の中を目掛け、超高速回転のアイスドリルをお見舞いして廻る。



 5分後、やっと魔物の襲撃が終わり、上空に退避していたオスプレーに合図を送りつつ、散らばった魔物の亡骸を回収して廻った。

 ダンジョンであれば、光の粒子になる魔物であるが、地上等に発生する魔物は、光の粒子となって消える事は無い。

 放置すると、更に魔物が寄って来る事になるので、放置も出来ない。


 で、今回の襲って来た魔物だが、サンド・スコーピオンは、昆虫系なのだが、食えるのだ。

 味は、カニをもっと濃厚にした感じで、材料を知らされずに食べたら、絶対に高級なカニだと思うだろうと言う物である。


 カサンドラスでも、最初虫は食わないと誓っていた俺だが、知らずにカニと思ってバカ食いした後、サソリの魔物と知って愕然とした事があった。

 まあ、その後は暫く、嬉々としてサンド・スコーピオン狩りをしたりしていたが。


 明日の夕飯は、カニ鍋にするかな……。



 さて、サンド・ワームだが、これまた非常に有益な利用方法がある。

 食用ではないが、頑丈で滑らかな外皮は、収納袋や水袋等、色々に使える。

 そして、その外皮を剥いだ肉や内臓だが、この上の無い肥料となる。

 細かくミンチにした物を水に浸し、5日間程放置すると、発酵して土壌改善の最高の肥料となる。

 まあ、ミンチ状にするのが、非常に手間なのだが、これを使えば、砂漠でもある程度以上の作物が育つ。

 あともう1つメリットがある。

 サンド・ワームの肥料を撒いた土地には、サンド・ワームが寄って来なくなると言う恩恵が。

 そうか、それを教えてやれば、生存エリアも増えて、砂漠の緑化にも繋がるか!


 と内心ホクホクしてしまう俺だった。



 変な時間に叩き起こされてしまったが、再度テントを展開し、寝る前に一度発電機とポンプのチェックを終え、二度寝に入ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る