第77話 秘書子、今日も行きます!
2日目が始まった。
朝食を済ませ、早々に第3階層へと向かう。
第3階層も洞窟ステージであったが、初っ端からオークが出て来た。
ここまで快進撃を続けて来た秘書子ちゃんだが、流石にオーク相手では、なかなか厳しい様で、ステータスのパワーで負け、更に熟練度の低い剣術では、なかなか討伐しきれない。
しかし、何とか諦めずに粘り、魔法をフェイントに使ったりしながら、最初のオークを一人で倒してしまった。
「凄いな。」
思わず拍手をしてしまった。
その後も何時でも手助け出来る様にしていたが、徐々にオークを倒す手順が良くなって行く。
2時間もすると、オーク2体同時でもそつなく熟す様に進化した。
自分の弱点を工夫で補い、相手を自分の戦略通りに誘導して倒す……この子、やり手だ。
第3階層を進み出して、2時間程でレベル4に上がったとの事。
いやぁ~、俺らって只のドロップ品集めかよ! と思ったけど、第3階層中盤からチョコチョコとトラップが出始める。
流石にトラップまで見抜く目は持ってなさそうなので、全員に見抜くポイントを解説しながら、回避して行く。
「しかし、このダンジョン、草津の様な修羅場じゃなくて、幸いでしたね。」
とさっちゃん。
「だよね。あれはかなりハードモードだったね。」
と俺も遠い目をする。
「話には聞いてるけど、魔物密度が相当凄かったみたいだね。」
と兄上。
「マジで、通勤ラッシュ時の電車みたいだったね。」
と俺が言うと、兄上と秘書子ちゃんが、ウゲーって顔をしていた。
「まあ、このダンジョンの様な状態が普通なんだけど、でも異常って、何時起こるかは判らないから、気は抜かない様にしないとね。」
◇◇◇◇
第3階層を進み始めて4時間が過ぎ、丁度モンスターハウスを殲滅し終わったので、昼食を取る事にした。
食事中の話題は、もっぱら宝箱から出て来たお宝の事であったり、ダンジョンのステージの種類についてであったりと、ダンジョン一色ではあった。
「そうですか、湿地帯のフィールドは厄介ですね。
特に私はあまり体力無いですから、歩きにくいのは、厳しいです。」
「本当にジメジメしてるし、カエルとか一杯居るし、あれは苦痛な階層だったわ。」
等と女性陣がキャッキャと話している。
「でも、フラミンゴの肉は美味いよな。」
と俺が言うと、全員が「「「確かに。」」」と頷いていた。
先日のBBQでは、フラミンゴの肉で作った焼き鳥が、かなりの人気であった。
今度、ローストチキン風にしても美味しいんじゃないかな。
1羽丸々は入るダッジオーブンないから切り身で作るか? あ、塩竃で作る方法もあるか。
塩竃と言えば、オークの肉も試したいな。
「そうそう、兄上、話は変わるんだけど、『魔効付与ゲート』は、在庫多少余裕出来た?」
「ああ、納入すべき分は全部納入したから、今生産している分は、在庫品になってるね。
50セットぐらいは、倉庫にあると思うぞ。」
「じゃあさ、その在庫品を、東南アジア方面にバラ撒きたいんだけど、良いかな?」
と聞くと、意図を理解してニヤリと笑い頷いた。
昼食を終え、またダンジョンアタックを再開した。
奥に進めば進む程、一度に出て来るオークの数が増えたり、亜種や進化種が混じる様になってきた。
それが顕著に表れるのは、モンスターハウスである。
しかし、その分旨味もある。
難易度の上がったモンスターハウスを殲滅した後に出て来る宝箱。
これの中身がグンと旨味成分が濃縮されて来るのである。
「ハハハ。今回も中身が豪勢だな。」
「ですね。これは何の付与が付いてるの?」
とさっちゃんが、ブレスレットを指差す。
「ああ、それはね、ああ草津でも出た、ストレージが付いたブレスレットだね。
あれは、凄い値段付いたよね。ふふふ、ナイスだ。」
出て来るポーションも上級がゴロゴロと出て来るし、今回の宝箱だけで、ザックリと700万円は堅いだろう。
秘書子ちゃんも順調に育っていて、既にオーク・ソルジャー、オーク・ナイト辺りであれば、1対1なら大丈夫である。
まあしかし、それらが単体で出て来るシーンは無いので、多少俺達が補助する感じだ。
どうやら、動体視力が秀でている様で、剣を持ったオークの進化種にも上手く対応出来て居る。
話を聞くと、武術の心得は無いとの事だったが、中学校と高校では、バレー部に入って居たらしい。
なるほど、スパイクされたボールに対応する為、動体視力と反射神経が発達しているのか。
亜種や進化種が混じる様になると、討伐で取得出来る経験値も跳ね上がり、一気にレベル5になったらしい。
素晴らしいペースだな。
その後も順調に探索は進み、夕方近くには、第3階層を全て廻り切り、途中で発見していた第4階層への階段横のセーフエリアへと、ゲートで戻って来たのだった。
早速設営して、夕食の準備に取り掛かる。
今夜のメニューはしゃぶしゃぶにしてみた。
「ハハハ、まさか、ダンジョンの中で、しゃぶしゃぶが食べられるとは思ってもみませんでした。」
とウケていた。
炊きたてのご飯と、紅葉おろしと刻みネギをふんだんに入れたポン酢で頂くお肉は、非常に美味しく、酸味が身体に心地よい。
アッと言う間に5kgの肉を食い切って、最後に麵を入れて〆とした。
食後のコーヒータイムでマッタリとしつつ、本日の成果の話となった。
「いやぁ~、今回のダンジョンもヤバいぐらい稼いでるね。」
「ですよね。結構スキルカードも出て来たし、付与アクセサリーも出たし、ポーションも沢山出たから、それだけで大黒字ですね。」
「なあ、あつし、前回の草津って総額幾らぐらいになったの?」
「ああ、そう言えば1日単位では集計してたけど、トータルは……ウワァッ、ヤバい。税引き後の金額で、一人頭116,672,562円だよ。
ヤバい金額だな。まあ、確かに、それだけヤバい所ではあったんだけど。」
と俺も金額に驚きつつ、答えた。
「大金過ぎて、他人事の様に思えてしまう。」
とさっちゃん。
「まあ、普通で考えると、大金ではあるが、一般の冒険者の場合、俺らの様に自分で武器は作りもメンテも出来ないから、それ相応の経費掛かるんだよね。
だから、そこでガッツリ儲けは減るんだけど、俺らは減らないんだよねぇ……。」
「でも、あつしはその分、結構な額を、寄付や救援物資で使ってるだろ?
まあ世の中に還元している訳だから、良いんじゃないか?」
と兄上。
「まあ、それは兄上もだよね。ハハハ。」
「ハハハ。」
と笑い合う兄弟。
「まあ、食欲はあるけど、物欲ってそれ程無いしな。使う所が無いもんね。家もあるし、正味生活だけなら、年間300万円も掛かってないからなぁ。」
「確かに、今の生活って、光熱費掛からないし、家もあるし、食材は米や野菜、パンとかは買うけど、肉は自前の分が売る程あるし、驚く程に出費が無いわね。」
とさっちゃんも同意する。
「ああ、でも私は賃貸だから、家賃も光熱費も普通に掛かってますね。多分、皆さんより、お金使ってるかも。」
と秘書子ちゃんが頭で計算している。
「じゃあ、もう早めに我が家へ引っ越してしまえば?」
と俺が言うと、一気に真っ赤になる二人。
「い、一応、ほら、式を挙げて、再度ご両親のお墓に報告を入れてからって、話し合って決めたんだ。」
と恥ずかしそうに、兄上が言ってきた。
「そうなのか。で、式は何時にするの?」
と言うと、まだ決めてないって……駄目じゃん。
「兄上、駄目だよ、ちゃんと率先して決めないと、この先、何が起こって、予定が埋まるか、判らないんだから。
よし、今決めようぜ!」
と俺が強引に言うと、「「えーー!?」」とか口では言いながら、満更じゃない感じ。
と言う事で、強引に来月の吉日に決めちゃった。ハッハッハ!
早速、両親に連絡したら、母上が、向こう側で大喜びしていた。
「兄上って、本当にこう言う事だけ、ポンコツだよな。他では有能なのに。」
と俺がボソッと呟くと、苦笑いしていた。
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