第76話 秘書子行きます!

 第1階層へ降りる際、兄上が秘書子ちゃんに、身体強化と身体加速を使い始める様に指示していた。

 ふむ、浮き足だっても居ないし、冷静だな。


 最初に現れた魔物は、ご存知スライムであった。

 せっかくなので、秘書子ちゃんに対処して貰う。

 最初は腰が引けてしまっていたが、サクッとコアを破壊して、光の粒子となって消えた。


「おー!初討伐おめでとー。さあ、この調子でガンガン行こう!」


 どうやら、第1階層はスライムだらけの様で、1時間程進んでも、スライムが沢山出て来るだけではあるが、徐々に嫌らしい攻撃を持って居る奴(亜種)も混じって来る。

 残念ながら、服が溶ける系ではない。

 麻痺毒持ちであったり、服どころか、骨まで溶かす酸溶液持ちである。


 一応注意を促してはいるが、最初こそ腰が引けていたが、今ではサクサクと真面目に倒して行っている。

 レベルも2まで上がり、アイスボールを飛ばしたりして牽制に使って居る。


「兄上、彼女、結構素質あるかもね。 割と牽制のセンスとかも良いよね。」

 と言うと、兄上が嬉しそうに微笑んでいた。


 モンスターハウスを見つけ、20匹のスライムを殆ど1人で倒していた。

 そして、初めての宝箱からは、中級ポーションが出て来て喜んでいた。


 2時間が経過した頃、ゴブリンが初めて登場した。

 これまでスライムばかりを相手にしていた秘書子ちゃんが、硬直する。

 咄嗟に兄上が、間に入ろうをしたが、復活した秘書子ちゃんが、アイスニードルを向かって来るゴブリンの額に叩き込んでいた。


「ほー!素晴らしい順応振りだな。

 初めての人型だと、結構キツい筈なんだが。」

 と思わず感心してしまう俺とさっちゃん。


 すると、秘書子ちゃんが、

「ゴブリンは親の敵なんです。

 だから、絶対にこの手でと………」

 と暫く兄上の胸の中で嗚咽を漏らしていた。


「そうか。」

 もうね、それぐらいしか言えなかった。


 カサンドラスでは、ゴブリンに攫われた女性や子供を殺された親、親を殺された子供なんて、本当に星の数程見て来た。

 だが、いつも掛ける言葉は、「そうか。」としか言えなかった。


 秘書子ちゃんが、落ち着いたので、また先へと進み始める。


 念願であった親の敵でもあるゴブリンを討伐出来た事で、吹っ切れたのか、その後、ドンドンと動きの良くなる秘書子ちゃん。


「いや、マジで素人とは思えない配慮っぷりだよ。

 ちゃんと周りも見えてるみたいだし、こりゃマジで才能ありそうだな。」


 そして、秘書子ちゃんの無双で、丁度午前中だけで第1階層が終わった。

 セーフエリアでお弁当と、スープを出して、食事休憩を取った。



 ◇◇◇◇



 第2階層へ降りると、また洞窟エリアが続く。

 さて、秘書子ちゃんのメイン・ウェポンだが、第1階層は、スライムだったので、短槍を使用していた。

 しかし、第2階層は、ゴブリンが主敵となったので、現在は刀に持ち替えている。


 まあ、兄上を介して、佐々木流を習い始めたばかりなので、剣術の技量としては、切れが良くはないが、丁寧な剣筋でドンドンとゴブリンを倒して行く。

 第2階層に入って、2個目のモンスターハウスを壊滅させたタイミングで、レベル3に上がった様だ。


「なんか、本当にドンドン身体が軽くなって行く様です。」

 と喜んでいた。


 第2階層はかなりの分岐ポイントがあり、右側優先で、全てのルートのマッピングを行っている。

 一見行き止まりに見えても、実は隠し部屋があったりと、なかなか面白い。


「何かダンジョンって、宝探しでもあるんですね。」

 と兄上と楽し気に合間合間でベタベタしながら、微笑みあっている。



 そして、第2階層も4時間ぐらいで、全てを廻りきり、第3階層への階段に辿り着いたのであった。


 今晩は、階段横のセーフエリアで一泊となる。


「なるほど、セーフエリアで一泊なんですね? ダンジョン泊楽しみです!」

 と言って喜んでいるが、それ程楽しい風景でも無いので、洞窟エリアでの宿泊は楽しくは無い。


 本日は、全くと言って言い程、出番の無かった3人であるが、それなりにお腹は減っている。

 せっかくの記念すべき『ダンジョン泊』の初日なので、ミノタウロスのステーキ・ディナーにしてみた。


 兄上と秘書子ちゃんは、兄上が持参した赤ワインをグラスに注ぎ、雰囲気を出して居る。

 悔しいので、俺とさっちゃんもグレープジュースをワイングラスに注いでみた。


「「「「乾杯ーー!」」」」


「わうぁ~、滅茶苦茶ステーキが美味しいです!」

 と目を大きくして、肉を頬張って行く。


「お替わりも沢山あるから。」

 と言いながら俺らも本格的に食べ始める。

 作り置きのマリネサラダも美味しく、焼きたてのパン(有名所で買ったパンね)も美味しい。


「マジな話、徳士さん、食べ物屋さんしても大成功しますよ。

 さっちゃんが、あまり外食しないって言っていたのも頷けます。」

 と絶賛していた。


「でしょ? 私も無人島でのサマーキャンプの時、初めて手料理食べて、胃袋掴まれちゃってさ、まあそれ以前から旦那様にはハートを鷲掴みされてたんだけどね、もう焦ったわよ。

 だって、私より料理上手いだよ? せっかくサマーキャンプで胃袋鷲掴み計画立ててたのにさ、台無しだよ。ハハハ」

 とさっちゃんがゲロってた。


「そんな計画あったのは、初耳だったな。

 え?女の子の中で、そう言う計画あったんだ?」

 と聞くと、


「そりゃ、3人共に、好きな人とのお泊まりだよ? 計画しない方がおかしいでしょ?」と。


 なるほど、それで沈黙しながらカレー作ってたのか。


「でも、あのカレーライスも美味しかったぞ?」

 と俺が食後のデザートのアイスを食べながらフォローすると、


「まあ、実際出してくれた食材が最高だったから、3人集まって事前に家で作った時よりは、別格の味だったんだけどねぇ。

 でも、あのブートキャンプの時、半分心が折れそうだったわ。余りにも旦那様が凄すぎて。」

 とプリンを食べながら苦い笑いしていた。


 そうすると、兄上も


「そうそう、そう言えば、俺もあつしの作った料理を最初に食べた時ビックリしたよ。

 あれって、あつしが小学校の頃だよな? 滅茶滅茶美味しくて、身震いしたもん。」


「ああ、月ダンジョンの肉の時か。ハハハ

 懐かしいよね。」


「ああ、でも15年も片思いしながら、諦めなかったあの頃の私、本当にGJを送りたいわ。

 お陰で、とても毎日が幸せ。」

 とさっちゃんがデレっとした顔になる。


 ハハハ。照れるだろ?


「だよね。さっちゃんのあつしラブは、幼稚園の頃から一貫してて、近所でも有名だったからな。」

 と兄上。


「え? そうなの?」

 と俺が初めて聞いて、驚いていると、


「え? 気付いてなかったのか?」

 と驚かれた。


「さっちゃんも、大変だったのね。」

 と秘書子ちゃんがさっちゃんに同情の目を………。

 何故だ、何か俺が悪いって話に落ち着いてしまっている気が?



「まあ、この兄弟はどうやら、女性に関しては鈍感兄弟だからねぇ。」

 と秘書子ちゃんが毒を吐く。


「え?」と兄上。


「え? じゃないですよ。私、結構光線だしてた筈なんですけどね。

 だから判ってて、スルーされてると、最初の頃思ってましたもん。」

 と秘書子ちゃん。


「ああ、兄上にそう言う機微を求めちゃ駄目だよ。

 腹黒参謀で頭の回転も配慮も凄いけど、そう言う方面は割とポンコツだから。」

 と俺がフォローすると、兄上が「ひでーーー!」と絶叫していたのだった。



 そして、テントのお風呂を楽しんだ後、部屋で二人の時間をそれぞれ楽しむのであった。

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