第67話 ダンジョンの異変 その3

 昨日は、第4階層の途中までで切り上げたが、第4階層では魔物の遭遇率が低かった事もあり、極端に疲弊する事無く戻って来られた。

 その結果、昨晩は、十分にさっちゃんとお互いを堪能しあい、今朝は清々しい目覚めである。


 俺の勘では、多分本日到達する第5階層奥のボス部屋に、今回の騒動の原因が居ると睨んで居る。

 なので、早ければ今日、遅ければ明日には第5階層をクリアして、同時に今回の原因も取り除けると推測してる。



 朝風呂を済ませ、朝食を取って、稼ぎが良くてホクホク顔のグリードと、父上と共に俺達はギルドへと立ち寄った。


「おはようございます。本日もこれからダンジョンですか?」

 と少し疲れた様子の受付嬢が笑顔で出迎えてくれる。


「ええ、そうですね。」


「こちらが、昨日提出された物の明細と合計金額になります。

 お確かめ下さい。」

 と明細書を手渡された。


 ほぉ、なかなか良いじゃないか。

 討伐個体数自体は、一昨日より少ないのだが、魔物のランクが変わる事で、魔石の合計金額が上がっている。

 ポーション類1120万円+魔石680万円+装備魔道具で320万円+肉その他153万円+マッピングデータ1階層分300万円

 合計、2573万円、税金10%を引いて2315.7万円……一人頭、5,789,250円だ。

 まあ、一昨日に比べれば、少ないが、1日の上利としては悪く無い。


 尤も、冒険者家業の場合、本来はここから次の冒険に必要な資材の補充や、武器のメンテや調達を行うので、一般の冒険者の場合は、もっと手元に残る金額が減るのが現状である。

 更に命の危険も伴い、保証も無いので、実力が伴わないと、リスクだけが高い職業だ。


 しかし、冒険者と言う言葉には、非常に『夢』や『ロマン』が含まれている。

 だからこそ、冒険者を目指す若者は多い……カサンドラスでは……だが。


 ここ日本では、持って生まれた日本人気質で、堅実安定寄りの人も多い。

 しかし、国の置かれた状況が、1人でも多くの魔物討伐が可能な人材を欲している状況の為、是非とも『夢』を追いかけて欲しい物だ。



 ◇◇◇◇



 ダンジョンの第4階層へ戻って来た。

 リポップした魔物も討伐しつつ、マッピングの済んでいないエリアを埋めて行く。


 こう言うオープンステージの場合、基本的に洞窟ステージに比べると、隠し部屋やモンスターハウスは少ない。

 よって、宝箱の出現数は少ないが、全く無い訳ではない。

 ちょっとした木の祠や、浅い洞窟等に宝箱が存在する。

 今日も、宝箱から上級ポーションを何本か引き当てていて、出足好調である。

 また、その他には、ミスリルのインゴットも数キロ出て来ている。


 スキルカードと呼ばれる新要素は、まだこのダンジョンでは見つかって居ない。


 リポップした昆虫系の魔物、トレント、植物系を討伐しつつ、進み、丁度昼時に、第5階層への階段に通じる洞穴と、その横にセーフエリアを発見した。

 まだ1/4程の未マッピングエリアがあるので、一旦セーフエリアで休憩して貰い、その間に俺が単体で飛行魔法で飛んで穴を埋める事にした。


 と言う事で、チャッチャと30分程単独行動を開始する。



 残念ながら、高速移動している為、飛行していると宝箱を全ては取れないのが残念であるが、仕方が無い。

 こうして、空から眺めると、やはり全域で魔物の数が少ない事が判る。


 お、滝があるな…… ちょっと降りてみよう。

 こう言う滝の裏って、大抵洞穴あって、宝箱あるんだよね。


 そして、俺は滝の麓へと降りて、崖の側面の出っ張りを足場にして、スルスルと滝の裏側へ入って行くと、ビンゴ! 洞穴を発見した。


 洞穴は5mぐらの深さで、隠し扉があった。

 扉を開けて中に入ると、自動的に閉まった……ああ、モンスターハウスだ。


 そして薄暗い中に次々と現れるシルクスパイダーの群れ。

 素材としては美味しい(食べる訳では無く見入りとしての美味しいね)んだが、蜘蛛は嫌いである。

 兎に角、出て来たシルクスパイダーをザクザクと刀で光の粒子に変えて行き、最後に残った、一際大きなシルクスパイダー・クィーンが麻痺毒を飛ばして来たのを回避し、一瞬で間合いに入って袈裟斬りにした。

 光の粒子となって、ドロップ品と宝箱を2つ残していった。


 ドロップ品を全てアイテムボックスに収納し、最後に宝箱を順に開けていくと、

「お!これは、マジックテントか!」

 うん、当たりだね!!


 試しに展開すると、間違い無く、内部が空間拡張されたマジックテントであった。

 内部には、ツインの寝室が2つ、ダブルの寝室が1つ、キッチンとトイレ、シャワーと小さい湯船が付いていた。

 まあ、俺の持っているマジックテントに比べると、ショボいが、それでもなかなかである。


 マジックテントを収納し、残る宝箱を開けると、中からは上級ポーション5本、Bランク相当の魔石3個、それに筋力1.5倍が付与された指輪が出て来た。

 うん、これも当たりだと思う。


 拾い忘れが無いかと周囲を見回す。

 魔物を討伐し終えたので扉は開いているのだが、このモンスターハウスの奥の壁が実に気になる。


 微妙に周囲の壁のゴツゴツ感が、ここだけ妙に綺麗なのである。


 調べて見ると、更に隠し部屋が続いていた。


「ほう!珍しいな。」

 と思わずニヤけ、扉を開けると、宝箱が1つ6畳ぐらいの部屋の真ん中に置いてあった。


 魔物の反応ではないので、ミミックでも無い。

 箱を開けると、出ました! スキルカード!! しかも今回は2枚である。

 それにちょっとゴージャスな革表紙の本。


「カード出たーーー!」

 思わず歓声を上げる俺。


 鑑定してみると、先日惜しみつつ販売した鑑定のカードが1枚、そしてもう1枚は、錬金のカードであった。

 うーん、錬金は普通に頑張れば、生えるからなぁ……。


 さて、本の方だが、鑑定すると、『魔法書』であった。

 ほう、これも初めて見るな。

 これは、本を開いて読む事で、火魔法を上級を取得出来る物らしい。

 ちゃんと、本の革表紙には、ロック用のバンドがあり、これを外さないと開けない様になっている。

 そして、一度開いて読むと、その本の効力は無くなり、後はただの本となる。


「ふふふ、これは、売れるね。」


 お土産も出来たので、ホクホク顔で残りの空白のデータを埋め、セーフエリアへとゲートで戻ったのだった。


「おかえりー!」

 と笑顔でさっちゃんが出迎えてくれる。


「ただいま! さあ、ご飯にしようか。」

 と言って、テーブルの上に弁当を取り出した。



 弁当を食べながら、滝の裏のモンスターハウスと隠し部屋の話をして、スキルカードとマジックテントの話をすると、


「「「おぉーー!」」」と全員が唸った。


 で、だ。

 問題はこれらを売るか、配分するかだが、


「なあ、グリード、お前この先も冒険者やって行くんだろ?」

 と聞くと、


「うん、当然続けるぞ。」

 と即答する。


「じゃあ、このマジックテントは、お前が使った方が良いと思うんだよな。

 まあ、売ると良い値段にはなると思うが、どうする?」


「ちなみに、売ると幾らぐらいになると思う?」

 と聞いて来た。


「うーん、そうだな。何とも言えないけど、おそらく現在、俺の持つマジックテント以外では、世界でこれだけだから、もし本気でオークションでもしたら、凄い値段にはなるだろう。

 ちなみに、俺の持ってるマジックテントは、何処とは言わないが、日本円に換算すると軽く1000億円は堅い。」

 と説明すると、実に驚いていた。


「まあそうだな、俺のよりは広さや豪華さが劣るけど、このテントだって、5億~10億円ぐらいの価値はあるんじゃないか?

 だからこそ、冒険者をやって行くなら、持つべきだとは思うんだが。」


 俺の説明を聞いて、腕を組んで考え込んでいたグリードだが、


「確かに、これがあるのと無いのとでは、疲労度やその回復に差が出るだろうな。

 だが、これだけの物を何も対価無しとはいかないだろ? 残念ながら俺にはそれだけの金額を払う事は出来ないからな。」

 と苦笑いしている。


「ハハハ、そうだな。それは判ってるよ。

 だから提案なんだがな、この鑑定のスキルカードの権利を譲ってくれるか?

 それでチャラで良ければだが。」

 と言うと、


「いや、それもこれも、元々お前が見つけた物だし、譲るも何もないぞ?」

 とグリード。


「ああ、確かに見つけたのは俺だけど、今は4人パーティーで動いてるだろ?

 だから、その間に得た収入は、全部四等分だよ。」

 と言うと、「え?良いの?」と言って驚いていた。


「じゃあ、これはグリードのテントって事で…… 良いよね?父上。」

 と聞くと、ウンと微笑みながら頷いていた。


「次に、この鑑定のスキルカードの事なんだが、父上、これさっちゃんに使わせても良いかな?

 前に約束しちゃったんだよね。」

 と聞いて見た。


「ああ、良いんじゃないか?」

 と父上。


 しかし、さっちゃんが異議を申し立てて来た。


「旦那様、それさ、私が持つよりも、お義父さんとか、お義兄さんとかが使った方が、絶対に良いと思おうよ?

 それに、私はほぼ完全に旦那様とセットで動くから、鑑定無くても大丈夫だし。」と。


「ふむ……、なるほど。兄上か。

 ああ、なるほど、それはそれでアリだな。

 じゃあ、これは、取りあえず、売らない方向で、保留にするか。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る