第68話 ダンジョンの異変 その4

 そして、昼食後の休憩も終え、第5階層へと踏み出した。

 第5階層は、彼方此方に芦の様な草の生える湿地帯であった。


「ああ、やっぱりね。 俺の予想通りだった。

 ここは、ポイズン系が結構多いから、みんなマスク着けて。

 最悪、毒液掛けられても、顔に直撃は防げるし。」

 と言って、トレードマークのマスクを装着する。


 階層の階段の周りには、ザッと見るだけでも大量のポイズン・フロッグや、マッド・サーペント、ポイズン・サーペント、イナゴを3mぐらいに巨大化した様なエグい顔の魔物等が、ウヨウヨ居た。


 せっかく湿地帯なので、泥濘に入る前に、全員でサンダー系の魔法を一斉にぶっ放す事にした。

 残念ながら、適正属性の魔法を持っていないグリードは、見てるだけだが。


「ドッガーーーン」「バシバシバシバシーン」「バババババン」と俺とさっちゃんと父上のサンダー・レイン、サンダー・アロー、サンダー・ニードルが降り注いだ。

 水分を含む湿地帯だけに、直撃しなくても、気持ち良く感電してくれたのだが、残念な事に一番数の多いポイズン・フロッグだけは、耐性があった様で、ダメージは受けたが、健在である。


「あ、駄目か。じゃあ、今度はアイス系で攻めるぞ!」

 と4人で一斉にアイス系の魔法を発動した。




「おお! かなり強烈な風景だな。」

 と笑うグリード。


 目の前には、ガチガチに凍ってそのままの形状の枠を残して、光の粒子になって消えて行く魔物達の残滓があった。


「何か氷の彫刻みたいで綺麗だけど、よく見ると、カエルね。」

 とさっちゃんも苦笑い。

 丁度凍っているので、ドロップ品が湿地帯に沈む事無く残って居る。


「徳士、氷が溶ける前にドロップ品の回収しないと!」


 父上の言葉で、慌てて動きだし、方々に散って、ドロップ品を回収した。


 さて、ドロップ品の回収が終われば、何時溶けるか判らない凍った場所に長居は無用である。

 湿地帯のステージとは言え、所々には渇いた地面もあるので、直ぐに移動を開始する。


 暫くすると、プーーンと言う夏の夜によく聞く、嫌な羽音が聞こえ始める。


「あ! 蚊!?」

 と向こうから黒い靄の様に近付いて来る50cmぐらいの個体を目視して、ゾッとする4名。


「おいおい、あんなのに血吸われたら、干からびてしまうぞ!」

 とグリードが、冷静に指摘する。


「全員、水魔法で攻撃するか! 羽が濡れたら飛べないよな?」

 と俺が言うと、


「火の方が良くないか? ほら、飛んで火に入る夏の虫って言うし。」

 と父上が、提案する。


「父上、こんな所で火魔法ぶっ放したら、それこそ、湿原とは言え、野焼き状態になりますよ?」

 と、俺達の周りを取り囲んでいる、胸ぐらいの高さの芦を指差すと、


「よし、水魔法だ!」

 と父上がコロッと前言撤回。


 まあ、こんだけ居りゃあ、何処かには当たるよね? と闇雲に水魔法をぶっ放す4名。


「あー、駄目だな、これ。効率悪いし。撃ち方止めー! 作戦変更しよう。 どうしようか……。」


 蚊か……、蚊って確か蚊が嫌う音波とか在ったよな。


「よし、スタン・グレネードを使う。 各自目を瞑って、耳を塞いで。」

 と言うと、『スタン・グレネード』と言う単語にグリードは直ぐに反応したが、父上とさっちゃんは、ポカンと首を傾げている。


「あーー、もう、閃光と音響の攻撃だよ! 目と耳を塞ぐ!!」

 と叫びながら、俺は即興で光魔法と風魔法を使い、『スタン・グレネード』を発射した。

 アッと言うまに前方50mまで迫って来ていた巨大な蚊(ジャイアント・モスキート)の最前列中央に、濃縮した光と音の弾をぶち込んだ。


「カッ!キーーーーーーーン!!」


 あ……しまったな、耳を塞ぎ忘れた……。


 5秒ぐらいして、薄目を開けると光が収まりかけていた。

 既に音は止まってる筈だが、耳がキンキン鳴っていて、何も聞こえない。

 あ、しかも、味方の3名も俺も倒れてるし……。

 蚊の大群の方を見ると、黒い靄の様な物は見えず、全部落ちた様子。


 目が回る様な気持ち悪さの中、即座にハイヒールを俺を含め、全員に掛けると、目眩が収まっていた。

 グリードは目は大丈夫だったけど、耳が駄目だった とボヤいていた。

 父上は、一瞬遅れて、閃光まで見てしまい、悶絶していたらしい。

 さっちゃんは、目は大丈夫だったけど、耳が駄目だったと。


「いやぁ~、思った以上に強烈だったね。へへへ。」

 と苦笑いしたが、全員から大ブーイングを頂きました。


 蚊の魔力反応が無いので、現地に行くと、蚊のドロップ品が沢山落ちていた。


「マジか、あれでトドメ刺してたのか。 すげーな、スタン・グレネード。」



 ちなみに、今ので、グリードはレベル19に、さっちゃんはレベル40の大台に乗った。


 しかし、俺も父上も、最近はなかなか上がらない所まで来ちゃってるから、特に変化無しだった。



「今度から、『スタン・グレネード』の利用は、もっと気を付けよう……。みんなごめんね。」

 と頭を下げて、探索を続行するのであった。



 ◇◇◇◇



 その後、グリードが、足を踏み外して、底なし沼に嵌まって、首だけ出してたり、泥の中から、マッド・リザードマンがワラワラと50匹程出て来たり、5mぐらいのマッド・ボアが突進して来たり、所々にある渇いた土地にある木の祠にモンスターハウスがあったりと、色々と楽しませてくれた。

 途中、合間合間に休憩は入れていたが、泥濘む足場の為、全員結構体力を消耗しつつ、午後5時となったので、一旦引き上げる事にした。


 ゲートで第1階層の出口付近に戻り、全員一旦クリーンを掛けて、こざっぱりとした。


「なんか、まだ泥の匂いがする気がするぞ!」

 とグリードがボヤ居てたが、


「それ、加齢臭なんじゃないの?」

 と俺が言うと、グリード以外、全員大爆笑してた。


 グリードは、

「いや、俺は臭くないから! そんな歳じゃないからな!」

 と、自分の腕や脇の下を嗅ぎながら呟いていた。


 バリケードの自動改札を出て、警備の自衛官に聞いた所、特に異変が無かったとの事。


「失礼ですが、何階層ぐらいまで行かれたんですか?」

 と聞かれたので、


「今の所、第5階層の途中ですね。 いやぁ~、泥沼で参りました。

 50cmぐらいの蚊の大群出てきましたよ。」

 と答えると、第5階層と言う言葉に驚きつつ、50cmの蚊の大群には青い顔をしていた。


「そんなのをどうやって倒すんですか?」

 と聞いてきたので、『スタン・グレネード』を魔法でやったと言うと、「おー!そんな使い方もあるんですね。」と感心された。


 ふむ……、一度自衛隊用に、何か資料とか作るべきかも知れないなと考えるのであった。


 一応、ギルドにも寄って、今日の収穫をご披露しつつ、マジックテントと、鑑定のスキルカード以外は買取をお願いした。

 マジックテントと鑑定のスキルカードの売却も、かなりお願いされたのだが、火魔法(上級)のスキルカードだけで我慢させた。


 俺は知らなかったのだが、冒険者ギルド本部が、草津温泉ダンジョンの成果を日々サイトで更新しているらしく、もの凄い反響があるらしい。

 他にも、清兄ぃ達や前田達のダンジョンアタックの成果も公表しているので、日々のアクセス数がヤバいと言っていた。


 第4階層のマップデータは、素直に喜んでくれたが、目の前に何箱にも別けておかれた、大量の魔石や肉ブロックや素材、それに魔道具にポーション等に、ギルドスタッフの顔が引き攣っていた。


 ギルドを出る時、受付嬢のお姉さんに、

「あのぉ~、明日は日曜ですが、どうされるご予定でしょうか?」

 と聞かれ、


「どうする?」

 と全員の意見を聞くと、

「うーん、足場悪いから、結構疲れちゃったし、1日休み入れて欲しいな。」

 とさっちゃん。


「だな、せっかくの温泉も堪能したいし。 中休みがあっても大丈夫だろ? ダンジョンの方は。」

 と父上。


「ガハハ、俺はどっちでも良いぜ!」

 とグリード。


「と言う事で、明日は1日お休みします。」

 と受付嬢に言うと、えらくホッとした顔をされたのだった。




 そんな訳で、いつもより、早めの時間に帰り付いたので、ピートを連れて、大浴場へ向かう事にした。

 ここ数日は、余りピートとの時間が無かったので、ピートが嬉しそうにしている。

 俺とピートの身体を上から下まで綺麗に洗い、湯船に浸かった頃、父上とグリードも、大浴場へと現れた。


 身体を洗い、湯船に入ろうとしたグリードに、

「グリード、匂い取れた?」

 と俺がニヤッと笑って聞くと、プンスカとお怒りだった。



 まあ、その流れで、第5階層の湿地帯の話になったのだが、グリード曰く、


「そりゃあ、海兵隊の訓練にも、ドロドロの中を歩いたり、匍匐前進したりってのがあるからよ。

 それに、グリーンベレーだったら、あれくらいは屁でも無いぜ。まあ元だけどな。」

 と。


「え? グリードってグリーンベレーだったの?」

 と驚いて聞くと、「まぁな。」とドヤ顔をしていた。


「それより不思議なのは、そんな俺達より全然強いお前らだよ。

 元々、自衛隊のレンジャーは滅茶強いってのは知ってたが、お前らは別格だ。

 本気でヤベーぞ。マジな話、戦争しても勝てる気がしねぇーよ。」

 と言っていた。


 まあな。まあ今なら、むざむざ東京大空襲とか、長崎や広島を原爆の実験場にはさせねぇよ。

 と心の中で呟くのだった。




 全員揃って、美味しい夕食を食べ、明日はお休みにする事を告げると、母上とエバが喜んでいた。

 つまり、父上もグリードも明日は連れ廻られる運命の様だ。


 母上に、兄上の様子を聞いてみると、何やら会社の人と毎日食事に行ってるらしいとの事。

「まさか、男連中ばかりじゃないよね?」

 と聞くと、


「そこら辺は、大丈夫そうよ?」

 とニヤリと笑ってた。


 ほう! マジか。 意外にやるじゃないか、兄上!

 帰ったら、色々聞いてみよーっと。



 夜、ちょっと心配になって、前田達にブレスレットで連絡を取ると、スタンピードの傾向は無く、順調に進んでいるらしい。

 無理と怪我だけはしないように、言っておいた。



 夜も更けて来たので、さっちゃんと、部屋の露天風呂で筋肉を温め、その後スペシャルマッサージを施したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る