第62話 浜松町ダンジョン支部の衝撃

「ちょっ、マジっすかーー!」

 と思わす素で聞き返す受付嬢。


「プププッ」

 と横でさっちゃんが吹き出している。(見えない様に入り口の方を向いて)

 背中が小刻みに揺れてるから、バレバレだ。


「ええ、大マジです。」

 と俺が言うとハッとして、


「ご報告ありがとうございます。

 では、ここでは何ですから、あちらの応接室で、支部長も含めてご報告お願いして宜しいでしょうか?」

 と営業トークを取り戻した受付嬢のお姉さんに連れられ、応接室に通された。


 30秒もしない内に、ドドドドドーと走る音が聞こえ、簾ヘッドが乱れたチョイポチャのオジサンが登場した。

「第5階層まで攻略しただと!?」

 と行きなりドアを開けて叫んでいる。


「あ、はい。マッピングも第5階層まで完璧に終わらせました。」

 とマッピングしたデータを紙に転写した資料を出すと、


「うぉーー!」

 と叫ばれた。


 まあ、こっちの世界でも、こう言うテンプレは健在なんだな。

 と一頻り感心する俺。


「く、詳しく聞かせてくれ。」

 と興奮するおっさんが、前の席に座り、簾ヘッドを前のめりにして頼んで来た。


 そこで、俺は第1階層から順に、印を入れたポイントの説明書きを示しながら(←ここ大事! ちゃんと記載してる)、補足説明の必要そうな所だけ簡素に説明した。

 で、ここからが一番重要な事だが、元々この世界の冒険者ギルドは、俺がカサンドラスにあった冒険者ギルドの方式をパクって無理矢理国営で遣らせたのが切っ掛け。

 つまり、冒険者ギルド側も、実際にはダンジョンの何たるかを知って居ないのである。

 なので、ダンジョンの有効活用や、冒険者への発憤材料を、次々とテーブルの上に並べて行く。

 実際に、俺の提出した資料や企画書には書いてあったが、その現物を目の当たりにしたのは、おそらく、この国で始めてだろう。

 事実、何処のダンジョンも全然攻略が進んでないし。


「と言う事は、これらは、ダンジョンの宝箱から出た物と言う事ですか!」


「そうそう。で、しかもファーストクリア特典が付いてるから、おそらく、かなり良い物が出てるね。

 更に、これが、ダンジョン産のフルーツ。ちょっと、スタッフ全員呼んで、味見させた方が良いよ。

 滅茶滅茶美味しいから。

 ポーションの錬成に使う薬草類、茸類もダンジョン産は効果が高いから、外の物とは別物だよ。

 高位のポーションは、ダンジョン産の薬草で作るのが、一番効果的だし。」

 と教えると、簾ヘッド支部長が、プルプルと震えながら、感動していた。


 この後、フルーツをギルドスタッフ全員で味見させたら、奇声を上げたり、蕩けきったりと、大変だった。


 結局魔石やドロップ品等の買取額は、莫大な金額となった。

 買取希望のトレイではなく、大きめの箱にゴロゴロとF~Dランクの魔石が入れられ、それが3箱ぐらいになって、更にドロップ品の剣や防具、上級ポーション、中級ポーション、結界魔道具等々、全て合計すると、余裕の3000万円オーバーとなった。

 一応、写真も撮らせたけど、鑑定のスキルカードには、雷が打たれた様に、驚いて、口をパクパクしていた。

 俺も今回までこんなの知らなかったからねぇ。


 で、当然の様に、滅茶滅茶「売ってくれーー!!」と食い下がられてしまった。

「すみませんね。これ、妻に使わせる予定で居るんですよ。」

 とさっちゃんの方を向くと、さっちゃんがニンマリとしていた。


「お、奥さん!そこを何とか……1億円……いやレア度と今後の指標になる記念すべき1枚目だから……2億円で何とかなりませんか?」

 と言って来た。

 まあ、正直お金には困ってないし、そこまで食い下がる意味も理解して、どうするかな?

 とさっちゃんの方を見ると、さっちゃんも何か気の毒そうな顔をしている。


「どうする? さっちゃんが決めて良いよ。

 また他でも出る可能性あるから、その時でも良ければ。」

 とさっちゃんに言うと、


「わかりました。そこまで仰るなら、2億円で譲ります。

 何か、夫の愛をお金に換える様で、本当は嫌なんですが、お気持ちも判るので。」

 とさっちゃんが折れた。


「ありがとうございますーー!」

 と簾を振り回しながら、ペコペコ頭を下げて来て、思わす吹き出しそうになってしまった。

 結果、4日間で、232,850,000円の買い上げ金額となった。

 あと、マッピングした階層データの報酬が、1階層で300万円、5階層分で1,500万円

 合計金額247,850,000円で、10%を税金を引かれ、223,065,000円となった。

 2人の政府銀行口座へ半額ずつ振り込んで貰ったので、1人頭111,532,500円の収益となりました。

 まあ、俺はカサンドラスで慣れてたので、そんなでも無かったんだけど、さっちゃんには衝撃だったみたい。


「まあ、これで、冒険者がもっと真剣にダンジョンアタックしようと言う起爆剤になりますよね?」

 と俺が言うと、


「はい!さっそくギルド本部に行って、緊急記者会見して発表します。」

 と息巻いていた。


「あ、その際、呉々も俺達の名前とか素性は記者に公表しないで下さいよ!

 冒険者の情報公開するのは、御法度ですからね!」

 と釘を刺すと、「勿論です!」と言っていたが、大丈夫かね? 何か舞い上がって、やらかしそうで、怖いんだけど。



 ギルドを後にして、心配してくれてた自衛官の2人に、上級ポーションを各1本、お裾分けしておいた。

 自衛官の皆さんには、本当にお世話になっているからね。


「「ありがとうございます!」」

 と敬礼されたので、


「こちらこそ。いつもご苦労様です。」

 と敬礼を返した。



 そして、ギルド近辺の通りをプラプラ歩き、ファーストフードで、久々にハンバーガーやポテト、そしてコーラを飲んで、若者らしい?デートをした。

 自分で作るハンバーガーを普段食べてるから、味は特に……なのだが、こうして『愛する妻』と食べるとまた味が違って来るものだから不思議だ。

 駅への道の路地裏から、ゲートで久々の我が家へと帰って来たのだった。

 一応、先に帰宅の挨拶をしに、母屋の方へ行くと、ピートが双葉に玄関で絵本を読んで貰っていた。

 2人とも俺達を待っていてくれたらしい。

 2人して、ニカッっと笑って飛びついて来た。


「にーちゃん、ねーちゃん、おかえり。」

「あつし兄ちゃん、さっちゃんおかえり!」


 お土産のダンジョン産のフルーツを出すと、2人とも大喜びでキッチンに運んで行った。


「うふふ、ピート君、何か馴染んでますね。

 なんか、あの2人の笑顔見ると、それだけで幸せな気分になりますね。」

 とさっちゃんも微笑んでいる。


 ちなみに、グリードとエバ、そしてマリーだが、慣れない日本暮らしと赤ちゃんの事もあるので、そのままゲストハウスに住んで貰う事に決定したらしい。

 ピートは、母上に言われて、フルーツを持って、トテトテとグリード達の所へお裾分けしに行っていた。

 まあ、毎日の事だが、普通にグリード達は、母屋で飯を食っているんだよね。

 俺らもだから、あまり人の事は言えないのだが。




 そうそう、夕方のニュースは、冒険者ギルドの記者会見の内容で持ちきりだった。

 心配していた俺らの素性だけど、案の定記者からの質問が出たが、ギルドの広報担当が、ガッチリガードしていたのでホッとした。

 多少は今更感あるけど、下手な事で、家族や周囲に迷惑が及ぶと、恐らく本気で魔王になってしまいそうだからね。


 ネット上では、結構な騒ぎになっていて、

「スキル取れるカード、マジぱねぇ~。超絶欲しいんですけど!」とか、

「あれだけで、買取金額2億越えらしいけど、何人パーティーだったんだろうか?」とか、

「浜松町ダンジョンって、結構寂れてたけど、俺今度行ってみよう!」とか、

「さあ、今直ぐダンジョン攻略だ!」とか色々騒いでいた。


 中でも多かったのは、「ダンジョンって夢ありますよね。」と言う物。

 俺の企みは、しっかりと冒険心に火をつけられた様だった。

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