第56話 将来の夢と計画

 結局、この組み立て工場の倉庫はパーツの収穫には3日間掛かってしまった。

 一応、実機の方は、140機、組み立て途中や分解整備中の機体は、54機集まった。


 次の東海岸の基地で、今回の収集は一応終わりの予定である。



 そして、予定していた最後の基地巡りは終了となった。

 現状、どの程度あの倉庫のパーツが有用な物な物か、個数が不明なので、断定は出来ないが、少なくとも先10年~15年は困らないだろうとの事だった。

 ふむ、頑張った甲斐があったね。


「10年間の猶予があれば、新型機の開発出来ますよね?」

 と俺がスタッフに聞くと、


「ハハハ、責任重大ですな。」

 と俺の肩を叩かれた。


 いやいや、俺じゃ無いだろ?


「あの、俺は魔道具や武器程度しか作れないですからね?

 ただの戦闘バカなんで。」

 と少し冷や汗を掻きながら言うと、


「しかし、話に聞くと、少しずつ現れる魔物に変化があって、より強い個体が出て来る事もあると聞いています。

 現在の所、日本では空を飛ぶ魔物は居ませんが、これから先は判らないですよね。

 鳥の様に空を飛ぶ魔物が出た場合、飛行機も魔物と戦う戦闘力が必要になるかも知れませんし、佐々木さん達のご活躍と知恵に期待しているのですよ。」

 と言われた。


 確かに、今の所はワイバーンやコカトリスやなんかは見かけないけど、この先は判らないもんね。

「ふむ、確かに。出来る範囲で微力を尽くしますよ。」


 さて、今回おまけで最後に行く場所があるのだ。

 ワシントンD.C.のスミソニアン博物館である。

 ここに唯一本物の零戦があると聞いている。

 せめてこの目で見てみたいと思っているのである。


 え? 魔動モーター化して乗らないのかって? いやいや、それは流石に無理だから。

 軽量で素晴らしい機体だったけど、重量がエンジンの1/10以下の魔動モーターをエンジンと同じ位置に付けても、全く重量バランス狂うからね。

 それに幾らレストアされているったって、経年劣化や金属疲労は怖いからね。

 また飛んでる最中に空中分解して、下手に異世界召喚に巻き込まれないとも限らないし、君主危うきに近寄らず だよ。


 ふむ……飛行機作りか。

 スタッフ達の期待に応えるとかじゃないけど、この先の趣味としては、面白いかも知れないな。

 今の時代には、カーボンファイバーとか凄い素材が沢山あるし、これまでの2回分の人生で学んだ事を注ぎ込んで作れば、零戦を遙かに凌駕するプロペラ機が作れるじゃないか?

 と考え、クックックとほくそ笑んだ。


「ねえ、アッ君、何か1人で楽しそうね。」

 とさっちゃんが寄って来た。


「ははは、確かに。ちょっと頭の中でこれからの人生設計立ててたら、楽しくなっちゃってね。」

 と俺が言うと、


「もぅ~、そんなの当たり前じゃない。でも嬉しいわ。ちゃんと考えてくれて。」

 とさっちゃんが、ピトッと引っ付いてきた。


 ん? 何で俺が飛行機作りを計画すると、さっちゃんが喜ぶんだ?


「ああ、ちゃんと(飛行機に)乗せてやるよ。」


「ええ、勿論(人生に)乗せて貰うわよ。うふふ。」


 と噛み合わない会話を終始笑顔で終えたのだった。


 ワシントンD.C.までの長距離をまた移動する訳だが、今回の移動では、俺が操縦桿を握っている。

 今回の一件の報酬代わりにオスプレーを1機、貰う事になっているからである。

 飛行機としての操縦は全く問題無いのだが、一番難しいのは、垂直に降下する際の着陸やホバリングである。

 前世では、ヘリコプターなんかも存在しなかったから、新鮮な感覚ではあるが、コンピュータによる姿勢制御があるので、実はかなり楽なのだ。

 左右のローターの出力を美味く手動でバランス取って……なんて普通の人間じゃ無理だからね。


「いやぁ、流石ですね。アッと言う間にベテラン機長の域じゃないですか。」

 と自衛官のパイロットに褒められてしまった。

 お墨付きを頂いたので、兄上にバトンタッチして、兄上も操縦を習うが、練習機すらすっ飛ばしてるから、ヤバい感じ。


「兄上、辞めた方が良いと思います。

 後部座席のスタッフ達が、酔っちゃってますから。」

 と後ろで、青い顔をするスタッフ達を見て言うと、素直に正規パイロットに操縦席を明け渡したのだった。


「まずは、練習機で訓練した方が無難ですよ。」

 と言うと了承していた。


 俺は、後部座席に戻り、鼻歌をフンフンと歌いながら、ノートに新しい飛行機のスケッチをしていた。

 珍しく俺が楽し気に何かを書いているのが気になったらしく、気が付くと、周りに人垣が出来ていた。


「ほぉー、新型機のイメージ図ですか?」

 とスタッフ達が、顎に手をやりながら、覗き込んで来る。


 ちょっ、恥ずかしいから、見ないでよーーー!!と心の中で叫びつつも、


「いや、それ程大した物じゃないですが、今の時点で稼働する飛行機って、オスプレーだけじゃないですか。

 それを練習機にするのも、酷な話だなと思ってですね、魔動モーター専用設計をすれば、態々ノーズにバランサー積む必要もないかなと。」

 と答えると、


「確かに、次世代のパイロット育成も重要ですからね。

 社に帰ったら、プロジェクト立ち上げましょう!!」

 といつの間にか、俺の趣味の域を大きく逸脱した話に発展してしまったのだった。


 うぅぅ……俺の趣味活動が……。





 ワシントンD.C.までの間にコミュニティが幾つか存在し、一応、オスプレーを貰ったりしているので、律儀にその国民へと救援物資等を別けて廻って感謝された。

 やはり、これらのコミュニティでも、襲撃を受けた事が数回あったらしい。


「半端に小規模のグループだと、防衛が間に合わず、壊滅しちゃうんだよ。

 だから、ある程度纏まって、互いにローテーションを組めるぐらいの人数が居ないと、生存して行くのは厳しい。」

 と言っていた。


 なので、米軍の基地の武器庫から持って来た銃器類や弾丸は、非常に喜ばれた。


「ところで、日本はどんな状況なんだい?」

 と聞かれ、これまでの事を掻い摘まんで説明すると、

「流石は日本だな。」

 と言って、納得した様に頷いていた。


 売国奴や足を引っ張って自分らや同胞の利益だけを考える外国勢力を排除出来たのが大きかったんだけど、まあ、しかし、実際今考えても時期的に、ギリギリだったんだよね。


「まあ、早く米国も政府の確立と治安維持を頑張ってよ。」

 と言うと、力なく「ハハハハ」と笑って返された。




 途中のビルのヘリポートで一泊し、翌朝の短い賢者タイムを過ごして、いつもの朝食タイムを過ごし、今回最後の訪問地であるスミソニアン博物館へと着陸した。


「山本五十六閣下の言葉じゃないが、ただが博物館だけで、これだけの規模の物を作る国と、不可避だったとは言え、戦争したんだな。」

 と俺が呟くと、さっちゃん達が聞いて来た。


「当時、ABC包囲網って言う物で、黄色人種である日本の台頭を世界は嫌悪したんだよ。

 ほら、あの時代って欧米の白人優位主義だったからね。

 実際、アジアの各国は奴らの植民地で搾取されてたろ。

 日本は、だから日本は基本的に人種差別を無くし、公平な貿易を望んでいたんだけど、それを一方的に蹴られて追い込まれたんだよ。

 あの戦争はアジアの共存による反映を求めた、謂わば、自衛の為の戦争でもあったんだよ。」

 と言うと、判った様な判らない様な顔をしていた。


「それに最後の最後まで、話し合いで平和的に貿易封鎖に関する解決策を模索し、妥協して締結寸前でひっくり返されちゃったからね。

 米国は、日本を悪者にして、世界大戦に参戦したかったのさ。」

 と説明すると、驚いていた。

 だよな、学校じゃあ、ここら辺の正しい内容教えてないもんね。




 俺達は航空機を集めた博物館の建物に入り、前世で共に散った愛機を眺めていた。

 博物館のスタッフも咎める人も居ないので、勝手にキャノピーを開けて、懐かしいコクピットへと座ったのだが、当時の小柄だった日本人に合わせて作られた操縦席は、非常に狭苦しかった。


 2時間程、博物館の中を彷徨いて、満足し、日本へと帰還する事になった。


「ねえ、あの零戦、持って帰らなくて良いの?」

 とさっちゃんが俺に聞いて来た。


「うん、靖国神社に持って行く事も考えたんだけど、取りあえず、もう少しここに居て貰う事にした。」


「そっか……」




 そして、俺達はスミソニアン博物館の庭から飛び立ち、ゲートで一気に日本へと戻って来たのだった。


 日本は時差の関係で、昼前だった。

 格納庫で一旦解散となり、持って帰った機体やパーツ類の整理は後日と言う事になった。


 前田達と夕食と言う名の昼食(時差の関係で)を取り、そのまま解散した。

 さっちゃんを送って行こうとしたが、頑なに拒否され、結局、何故か、自宅に帰らず、腕を俺に絡めたまま、我が家に着いて来た。

 終始ニコニコ顔である。


 午後2時過ぎ、家に帰ると、双葉とピートが玄関で待ち伏せしており、飛びつかれた。


 ピートがニカッと笑いながら、辿々しい日本語で

「お帰りなさい。」

 と言ってくれて、萌えた。

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