第51話 肉弾戦

 日本航空機工業の広い敷地にある、格納庫に集まった22名。

 さっちゃんは、初っ端から異様にテンションが高く、


「おやつも忘れて無いし……バッチリだわ!」

 と腕を腰にあて、成長した胸をはって居た。


「さっちゃん、おやつは500円までなんだけど、オーバーしてないよね?

 オーバー分は没収だよ?」

 と俺がからかうと、一瞬ハッとした表情をしたが、直ぐにからかわれた事に気付き、真っ赤になりつつ、頬を膨らませていた。


 ちなみに、現在の時刻は、午後10時である。

 外は真っ暗で、滑走路を照らす照明が点いているだけだ。


「えー、当然ですが、時差の為、米国はまだ日の出前後です。

 基本的に、米軍基地は、魔物が多数彷徨いていますので、決して護衛から離れずに行動する様にして下さい。」


 出発の挨拶を終え、オスプレーに乗り込む。


 見送る日本航空機工業のスタッフに手を振りつつ、自衛隊所属のパイロットが、機体を格納庫から出して、離陸させた。


「おーー、浮いたーー」

 と前田が思わず声を上げる。


 そして、上空500mまで旋回しながら上昇した所で、俺がゲートを発動し、機体ごと、米国へとジャンプさせたのだった。


 すぐに、コクピットのGPSマップが切り替わり、米国の西海岸付近を表示した。


 それまで真っ暗な日本の上空から、一瞬で朝日が見える風景に変化した事で、機内は、


「「「「「「「「おおぉーー!」」」」」」」」

 と響めいた。



 そして、事前の調べで当たりを付けている、基地へと機首を向けて飛び始める。

 米軍基地もであるが、今回はオスプレーの最終組み立て工場のあるテキサス州の工場も行ってみる予定である。




 当初、滅茶滅茶テンションが上がってた22+パイロット2名の24名(……俺を除くと23名か)だが、眼下に広がる荒廃した嘗ての米国の廃墟っぷりに、悲しい顔をしていた。


 だよなぁ~、気持ちは判るぞ。

 だがな、こんな中で生き残った者どうして、略奪とかで足引っ張り合ってるんだぞ? そんな状況を目の当たりにすると、ガックリするからな。


 と心の中で思いつつ、後部座席を見て居た。


 1時間程のフライトで、目的の基地へと辿り着いた。

 着陸する前に上空を3回程旋回しつつ、地上の様子を窺った。

 気配察知を使ってチェックしてみたが、特に人の気配は無かった。

 ああ、魔物は沢山いた。


 なので、後部ハッチを開けて貰い、俺、兄上、前田達5名で一旦地上に降りて、魔物の掃除を行う事にした。

 7名で一斉に散り、ドンドンと魔物を狩って行く。

 まあ、大半が、ゴブリンや、ホーンラビットなので、さほど問題はない。

 30分ぐらいで目に付く魔物を排除し終わり、大きく上空へ手を振って合図すると、俺達の横に着陸してきた。




「お疲れ様です。取りあえず、滑走路脇に駐機してある、オスプレーから、収納して行って下さい。

 我々は、手分けして格納庫や倉庫を探しますので。」

 と降りて来た捜索チームの人に言われ、黙々と目に付くオスプレーをアイテムボックスに収納し始めた。


 滑走路の10機を収納し終わると、格納庫に呼ばれ、そこにある機体や、分解修理中の機体等までドンドン収納させられた。

 この基地だけで、25機のオスプレーと、分解修理中のオスプレー4機を調達出来た。

 パーツも多少調達出来たのだが、魔物の被害に遭った米兵の遺骨を発見してしまい、基地の空き地に穴を堀り、発見した遺骨を埋葬した。

 墓碑代わりに土魔法で十字架形状に固めて上に刺し、遺骨と一緒に回収したドッグタグを十字架に掛けて、全員で手を合わせた。




 2時間程で、全ての探索が終わり、そろそろ次へ移ろうと言う頃、事件が起きた。

 200m程離れた所に、20名程の人の反応があり、広がって格納庫前に駐機しているオスプレーを強奪する気の様子。

 全員に連絡し、駐機中の機体へと急行する様に指示を飛ばす。


 俺は、一足先に機体へ戻って、コクピットのパイロットに何時でも飛べる様にと指示を出した後、機体の横に立ち、全員の帰りを待った。


 すると、遠方から俺を狙い、銃弾が飛んで来た。

 尤も、既に機体ごとシールドを張っているので、当たる事は無い。


 銃弾を防がれた事で、焦って20名が姿を現し、サブマシンガンや、ショットガンを本格的に撃ち始める。

 そこへ、シールド掛けた兄上達が合流し、機内へと入っていった。


 パイロットへと指示を出し、ローターが周り始める。


 奴らは、更にこっちへと、走り始め、口々に何かを怒鳴っている。


 どうやら「機体をよこせ!」とか「食い物をよこせ!」と言っているらしい。


 普通に友好的に接してくれるなら、食い物ぐらい、別けてやるのだがな。

 まあ、こう言う奴らに恵んでやる物はない。

 ユックリ地獄を楽しんでくれ。



 そして機体は上昇し、300m程まで上がった。

 攻撃してきた20名の男達の中には、涙を流しながら、ガックリ跪いている奴も居る。

 俺は、奴らを見下ろしながらユックリと飛び上がり、

「バカな奴らめ。地獄でユックリ楽しんでろよ!」

 と声を掛けてから、オスプレーに合流したのだった。




 機内に戻った俺に、


「何、あれ? 攻撃されたよ?」

 とさっちゃんが、焦った様に聞いて来た。


「ああ、ここやメキシコ辺りだと、コミュニティーを襲撃して、食い物を奪う奴らが居るんだよ。

 こっちに来る前にちゃんと説明しただろ? それがあいつらだよ。」

 と言うと、悲しい顔をしていた。



 ◇◇◇◇



 その後、初日は2箇所の基地を訪問し、順調にストックを増やしていった。

 基地は、どれも無人で、当然の様に魔物がチョロチョロしていたので、粗方片付けて、遺骨は同様に埋葬しておいた。


 さて、夜をどう過ごすかだが、どうも、基地で寝泊まりするのは魔物よりも人の襲撃が怖いと言う事になり、

 無人のビルのヘリポートへ着陸して、そこで寝る事にした。


 屋上であれば、魔物の襲撃も、盗賊の襲撃も防ぎやすいと言う判断である。

 屋上への通路は全て塞いでいるので、問題はないだろう。

 更に念の為に結界も張っているから近寄る事も無い。


 俺のマジックテントを張って、夕食の準備に取り掛かる。

 マジックテントの中を見せると、俺や兄上、前田達以外の全員が固まった。


「まさか、こんな便利グッズがあるとは……」

 と驚いていた。

 テント内部が空間拡張されていて、広い事もだが、トイレや風呂もある事に大層感激していた。


「ああ、これあれば、家要らないですなぁ。」

 と探索チームのメンバーが呟いていた。



 メニューは久々のBBQにした。

 23名は美味い美味いとバカ食いしている。


「いやぁ~、久々の佐々木の飯は、最高だな!」

 と前田が絶賛する。


「ブートキャンプ以来です。感動です!」

 とさっちゃん。


 自衛官のパイロット2名も、

「いやぁ、こっちの任務に参加出来て、最高です。」

 と爽やかな笑みを見せていた。


 さて、部屋割りの段階で、少々揉めた。

 主に文句を言ったのは、さっちゃん。


 前田や凛太郎は、それぞれカップルで1部屋を希望し、俺は、兄上と同室の予定だったのだが、結局さっちゃんだけ、ぼっちとなり、大ブーイング。


「えー、あつし、俺、1人部屋で良いから、お前、可哀想だから付き合ってやれよ!」

 とニヤニヤする兄上から、とんでもない提案が出た。


「いや、それは幾ら何でも拙いだろ?」

 と背中に汗を掻きながら反論すると、


「そうか? 別に拙くは無いと思うぞ? 寧ろ羨ましいぐらいだぞ?」

 と悪い笑みを浮かべる兄上。


 いや、別に俺は女嫌いでも無く、寧ろ好きだけど、今世ではまだそう言う事はやってないだよ……。

 俺、我慢出来る自信は無いからね?



 と考えている内に、気が付くと、ガッチリとさっちゃんに腕を組まれ、部屋に引き摺り込まれていた。


「エヘヘ。」

 と部屋に入ると、終始ご機嫌のさっちゃんに。


「苦節、15年、長かったわ!」

 と力拳を握りつつ、呟いている。


「なあ、さっちゃん。俺も男だから、同室はヤバいって。」

 と言うと、ガバッと両手と片足まで使い、抱きつかれてしまった。


 さっちゃん曰く、

「私の気持ちはずっと判ってるでしょ? 私じゃ駄目?」

 と目をウルウルさせながら、上目遣いで見上げられてしまった。


「駄目じゃないけど、何か順番違うかな?ってね。」

 と久々の感覚にドキドキしながら、返事をすると、


「じゃあ、彼女にして!」

 と言いながら、ベッドに体術を使って押し倒されてしまった。



 いや、良い訳する訳じゃないのだが、憎からず想っている美しい女性の肉弾攻撃は、魔王相手にするよりも怖いからな?

 況してや、最後にカサンドラスで、恋人だったアニー以来だから、18年ぐらいは優に経っている。


 あ、何か上から息遣いの荒くなったさっちゃんが、頬を染めながらスリスリして来た。


 ヤバいな……。


 風呂上がりの良い匂いがしてる……。


 もう良いか……。

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