第52話 魔王降臨

 あーー……、いかんな。

 朝になってしまった。


 結局休む所か、長期戦になってしまった。

 ベッドの横に目をやると、グッタリとしてスースーと寝息を立ててる、さっちゃんが居た。


 やはり若い衝動は押さえが効かんな。


 初っ端から無理をさせ過ぎたと、可愛い寝顔を披露するさっちゃんに手を合わせる。

 時刻は米国時間で朝の6時だった。



 俺は、さっちゃんをベッドに残し、朝風呂に入って、スッキリ目を覚ました。


 そして、朝食の用意を始めたのだが、起きて来た兄上に、ニヤニヤされながら、

「あつし、グッスリ眠れたか?」

 と聞かれた。


「おのれ……眠れる訳がなかろう? あの状況で。」

 とムッとして吐き出す様に言うと、爆笑された。


 この恨み、いつか返してやるからな?

 と心に決める俺。



 7時を過ぎたので、全員に朝食の準備が出来た事を知らせると、自衛官の2名やスタッフ達から、非常に感謝されてしまった。


 自衛官のパイロット曰く、

「遠征先で、こんな素晴らしい待遇は初めてです。

 飯も美味いし、ベッドは素晴らしいし、同室がこいつじゃなければ、天国ですよ。」

 と笑ってた。


 キャンプすらした事の無い探索チームのスタッフも、

「いやぁ~、何か下手なホテルより、快適でした。キャンプに対するイメージが変わりました。」

 と爽やかな笑顔でお礼を言われた。


 前田達も起きて来たが、しまった、さっちゃんを忘れてたな。


 俺が気付いて、起こしに行こうとすると、

「あ、うちらが起こして来るわぁ~ うふふ。」

 と笑いながら、愛子ちゃんとなっちゃんがテントに消えていった。


「じゃあ、先に食べちゃって下さい。」

 と言いつつも、なかなかテントから出て来ない女性陣に、ちょっとドキドキする俺。


 5分ぐらいして、ちょっとやつれた感じのさっちゃんと、少しドン引きしてるなっちゃんと、苦笑いしている愛子ちゃんが出て来た。


 さっちゃんは、俺の顔を見ると、ちょっと頬を赤らめ、


「お、おはよう……」

 と小さく呟いていた。



 朝食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら、本日のコースの打ち合わせを軽く行う。


 昨日だけで、78機を回収したので、目標の半分となっている。

 補修パーツの回収具合を聞くと、予定したよりもペースが悪いらしい。


「そもそもですが、飛行時間毎に取り替えるべきパーツがあるんですが、それの集まりが悪いです。

 直ぐに困る事は無いですが、再生産が開始されない限り、今後の補充は見込めないので、今現存する物だけでも集めて置きたいですね。」

 とタブレットに表示された集計した表をみながら、チーフが言ってきた。


「今後、例えばですが、足り無くなったパーツとかって、日本国内で作れたりしないんでしょうか?」

 と聞くと、物によるらしい。

 魔改造した事で、エンジンの交換部品に関するメタルパーツやリング類、ガスケット類は不要になったし、そこら辺で大幅に必要パーツ点数は減ったけど、日本に技術公開されていないブラックボックスやその他の電子部品に関しては、データも内部の仕様も判らないので難しいとの事。

 そこまでやるなら、いっそ、新規にもっと凄い物を作った方が早いとも言っていた。


「だから、前々から、自国の武器は、自国で作るべきだと私らは言っていたんですよ。」

 とぼやいていた。


 なるほどな。


「まあ、どちらにしても、機体の耐用年数もあるから、未来永劫に使い続けるのは不可能ですし、ある程度日本が復旧したら、自国生産出来る機体を作りたいですね。」

 と目をキラキラさせていた。


 しかし、新規に作るとなった際の問題は、電子部品だとも言っていた。

 流石にCPUから抵抗1本まで全部国産で作るとなると、非常にハードルが高いらしい。

 センサー類等は日本国内のメーカーで作ってはいたが、流石にそう言う下々の電子パーツまでは作ってなかったらしい。


 等と、真面目な打ち合わせをしていると、向こうの隅で、話をしている女性陣が、チラチラとこちらを見ながら、さっちゃんが真っ赤になりつつも、ボソボソと話し、その度に、大きく驚いて仰け反ったり、えー!?とドン引きしたり、キャーと小さく奇声を上げたりしている。

 うーん、気になるな……。


 最後になっちゃんの「魔王かよ!」と言う突っ込む声まで聞こえてきた。


 そのちょっと離れた所にいる前田と凛太郎は、聞き耳を立てつつ、ニヤニヤ笑っていた。



 8時半に出発する事にして、打ち合わせを終えると、女性陣がこっちに突進して来て、腕を捕まえられ、連行されてしまった。



「ちょっ、聞いたわよ! アッ君、ヤリ過ぎ!! ヤリ過ぎなのよ!!

 何で初めての子相手に、ほぼ一晩中、10回もヤッてるのよ?

 あんたはのあそこは、魔王か!!」

 となっちゃんに突っ込まれた。


「あー、いや、押し切られた感じで、期待されてると思ったんで、ツイツイ張り切ったな。

 18年振りだし。」

 と言うと、愛子ちゃんが腹を抱えて笑っている。


 男性陣は、「え? 10回……」と呟き、苦笑していた。


「朝起こしに行ったら、暫く、足腰立てなかったんだからね?」

 となっちゃんが吠えている。


「いや、俺もちゃんと気を遣って、毎回ヒール掛けたり、時たまスタミナポーション飲ませたりしたよ?」

 と良い訳すると、愛子ちゃんが転げ廻って大爆笑していた。

 男性陣は、「なるほど、そう言う使い道もあるのか……」と感心していた。


 そんな前田と凛太郎の方を向いて、


「自慢じゃないが、俺はドーピング無しだからな?」

 と言うと、何だろうか、凄く尊敬の眼差しで見られてしまった。



 この日、今世で初めてアッ君以外のあだ名を拝命した。

 そして、ステータスを見たら、いつの間にか、称号に『魔王』が追加されていたのだった……。

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