第49話 偵察

 魔物の出現で、酷い事ばかりであったが、1つだけ良い事もあった。

 それは、自然が戻った事である。

 二酸化炭素の増大による温暖化がぁ~ とか言っていたが、大気や海を汚染する★国も、△国も無くなり、日本海は綺麗になった。

 空の空気は澄んでいて、まるで昔に戻ったようである。




 アイテムボックスに十分な救援物資等を確認し、俺は前世で行った事のある場所から回る事にした。

 ゲートが使えるからである。


 まずは、重要な親日国である台湾へと向かった。


 ゲートを出ると、荒廃した街並みが目に入る。

 素早く飛び上がり、空中から生存者を探して見ると、ちゃんと立派な塀を作り、生存者の居るコミュニティを幾つか見つけた。


 城壁の横には監視塔があり、人の姿を確認した。

 俺は、攻撃を受けない様にと考えて、日本の国旗を取り出して刀の鞘に括り付け、旗を振りながら近づいて行く。


 すると、それを見た監視塔の物が興奮して相棒に声をかけて、こちらを指差している。

 両手を上げて万歳を繰り返しているのが見えた。


 監視塔から、鐘を3回叩いて合図している。

 俺が城壁の上に着地すると、


「「「「「「「うぉーーーー!」」」」」」」

 と歓声が上がったのだった。


 その歓声の声の中、1人の老人が涙を流しながら、呟いていた。

「ああ、また日本が来てくれた……。ありがとう!」と。




「と言う訳で、一応他の各国の跡地を回って状況を偵察しに来たんだ。

 すまないが、救援物資は多少置いて行けるのだがな。」

 と頭を下げると、


「頭を上げてください。また日本が駆けつけてくれた事が嬉しいのです。

 その上、救援物資も別けてくださると。本当にありがとうございます。」

 と言ってくれたのだった。


 俺は、米や肉や野菜や塩や砂糖と言った食料の入ったマジックバッグと、医薬品、武器、魔動モーター式発電機、それに幾つかの生活用魔道具と、魔法や魔物に関する資料を渡した。


「まずは、魔力感知から習得し、魔力操作を覚えて下さい。

 そうすれば、ステータスを確認出来る様になりますから。

 その後は、魔力操作を覚えれば、身体強化や身体加速と言ったスキルが取れます。

 対魔物戦で、優位に立てる様になります。」

 と色々説明して、次のコミュニティへと飛んで行った。


 ちなみに、台湾には、こう言う小さいグループのコミュニティが全部で7つあった。

 しかし、それが全てだった。


 丁度運悪く、選挙期間だったらしく、対応策が遅れたのが最大の原因だったらしい。

 日本に習い、選挙後に慌てて対応しようとした時には、間に合わなかったらしい。

 実に残念である。


 全てのコミュニティを回ったが、どのコミュニティでも、本当に熱烈的な歓迎を受けた。

 救援物資を心より喜んでくれ、更にはそれまで自国の領土と言われ、執拗な嫌がらせをしてきた★国が潰れる切っ掛けを作ってくれたと、感謝された。

 そして、出来れば、また日本に戻りたいとまで言われた程だった。


 流石は台湾である。

 以前に話を聞いた所だと、全てが全て親日では無いとの事だったが、なかなかどうして……。


 まあ、これが△国とかだったら、絶対にあり得ない対応だろう。

 あそこなら、感謝されるどころか、確実に逆ギレされて、不愉快な思いをして帰る事になっただろうな……。

 下手したら、俺が魔王になってしまったかも知れない。



 ◇◇◇◇



 その後、数日を費やしつつ、フィリピン、インドネシア等の東南アジアの島々を巡り、救援物資や資料を渡し、戦い方を教えて行った。

 前世で来た事のある、これらの島々は、色んな意味で大きく変わっていた。

 やはり島だと逃げる場所が限定される為、生存者数としては、非常に何処も少なかった。


 そして、ベトナムやインド等、ユーラシア大陸を廻るのだが、ベトナムは結構な人数が生存しており、逞しく生きていた。

 日中は農作業や狩りをして、食料を調達し、夜は塀で守られた集落の中で生活しているらしい。


 しかし、インドは……あれだけの人口が、激減して、実に悲惨な状況だった。

 どうしてああなったのかは、聞かなかったが、生存の男女比がおかしく、異常なまでに男性が多かった。

 深入りすると、ムカつきそうな嫌な予感がしたので、多少の救援物資を置いて、早々に飛び去った。


 その後、どっち方面に行くか、迷ったのだが、先にアフリカ大陸へ向かった。

 アフリカと言うと、どうしてもイメージとしては、未開発の猛獣の居る所と思ってしまうが、近代化してない部族単位の集落の方が、寧ろ数多く生き残っていた。

 魔物と言う外的に、いち早く順応し、槍や弓矢やナイフで、勝ったらしいのだ。

 彼ら曰く、ゴブリンは不味くて食えないが、オークは美味しいと言っていた。


 まあ、これは下手に手を貸す必要もなさそうだったので、早々に中東&ヨーロッパ方面へと向かったのだった。


 そんなアフリカ大陸から、一旦中東へ渡ってみたが、そもそも農作物が育つ様な場所では無かったので、全滅してた。

 石油は食べられないからねぇ……。

 もしかすると、何処か農耕が出来る場所へ逃げたのかも知れないけど、砂漠の真ん中に建てられた都市は廃墟となっていた。

 砂漠地帯には、主にサンド・ワームと呼ばれる大型のミミズの様な魔物や、サンド・ウルフ、デス・スコーピオン等に占拠され、都市部の廃墟はゴブリンとオークの住み処となっていた。


 フランスへやドイツを廻ったのだが、おそらく片田舎と呼ばれる様な所や、辺鄙な所や、城壁のある中世の城が残っている所には、生存者の集落がポツポツとあったものの、都市部は全滅だった。

 逆に魔素の薄かった湖の中の島等は天然の要塞となって、住民が残っていた。

 一応、医薬品等の救援物資は置いて来た。

 天然要塞の中に居る為、自分らは安全と思い込んでいる節があったので、一応警鐘は鳴らしておいたが、多分気付いた時には、手遅れだろうと思われる。

 今は、まだ大丈夫でも、逃げ場の無い所に魔物が攻めて来て、戦う術を持たなければ、全滅か、餓死しかなくなるからである。



 イギリスに渡ってみたが、まあフランスやドイツと大差無かった。

 生存率で驚いたのは、北欧諸国。

 半端無く寒い地方だったのが良かった様で、寒さを嫌うゴブリンやオーク類の魔物の発生率が低く、多少のハンター・ウルフが生息していたが、高い塀を作る事で、免れていた。

 まあ、それでも都市部は壊滅し、政府も無くなったが、田舎の方は生き残っていたのだ。

 ただ、問題は、食糧供給と、寒さを凌ぐ為の暖房器具と言うか、エネルギー源で、暖炉の周りに固まって生活しているとの事。

 勿論、ガスもガソリンの供給もストップし、電力も止まっているので、暖炉や薪ストーブが唯一の命綱だったと言っていた。

 人口は多くとも、食料や暖房の問題で、魔物では無く、餓死や凍死が問題となっていた。


 そこで俺は、直ぐに火力発電所の復旧を考えたのだが、そもそも放棄して時間が経ちすぎたのと、送電線が彼方此方で切れてしまっているので、全体への電力の復旧は難しいみたいだった。

 食料の定期的な支援をお願いされたが、日本自体もそんなに余裕がある訳でも無く、日本国民が必死に頑張っている成果物である。

 それを俺のポケットマネーで購入し、持って来ている訳。

 そう言う事をハッキリと告げ、無理と断った。

「食料が必要なら、食料を自分らで生産する為の努力と工夫をしなさい。

 農業用地に魔物が居て、邪魔なら、魔物を排除すれば良い。

 戦い方は、教えるが、生き残る努力をしない者を助ける気はない。」

 と告げると、色々文句を言われたので、サクッと飛び立った。


 次に行ったロシアだが、寒い北の方に生存者が多かったが、寒い地方=農業に向かない と言う事で食糧事情が非常に悪かった。

 ここでもやはり、一応の救援物資類を放出し、感謝はされたが、ウォッカが救援物資に入ってなかったので、ガックリされたのだった。


「いや、ウォッカ作ってる場合じゃないからね? ちゃんと真面目に鍛錬して人間の生存圏を取り戻せよ!」

 と檄を飛ばし、ロシアを後にしたのだった。



 何処の集落でも同じだが、俺が一貫して告げたのは、

「逃げるだけで、戦う気の無い奴らは、救いようが無い。

 鍛錬して戦う方法を知れば、ゴブリンなんて、10歳の子供でもやっつけられるのだから。

 生きて、戦い、人間の生存圏を広げよ!」

 と発破を掛けて廻った。


 そして、戦う気の無い所へは、俺は二度と助けには来ないとも伝えた。

 彼らは、俺の告げた事を、シッカリと黙って受け止めていた。


 それがどれ位、心に響いたかは、半年ぐらいで答えが出るであろう……。



 しかし、自然の回復力って凄いよね。

 暖かい所限定だけど、たった2年で、人の居なくなった都市の廃墟が、緑に覆われてて、動物や魔物が闊歩する草原や雑木林になっていたりする。

 しかし、たった2年で、年月が掛かる筈の木が、ある程度の高さに生長するってのも変だよな?

 魔素の影響で成長が促進されたのかね?



 さて、次は、アメリカ大陸だが、ハッキリ言って遠い。

 取りあえず、ベーリング海峡を渡って行く予定で進んでいる。

 広大なロシアを上空を飛んで東を目指す。


 ちょいちょい、休みを入れているが、本当に広大で、嫌になる。

 しかも、ほぼ生存者のコミュニティは存在しない。

 驚く程の広大なエリアが、魔物天国となっている。


 2日掛かりで、ロシアを脱出し、ベーリング海峡を渡って、アラスカへ到着した。

 アラスカは、エスキモーの集落が1つ存在していた。

 昔ながらの狩猟メインの生活で食いつないで居るらしい。

 ここでも、一通りの救援物資を渡して、資料を渡してカナダを目指した。


 カナダの生存者コミュニティは幾つかあり、都市は全滅で、元々農作物を作っていた所だけが残っていた。

 発電機を改造して魔動モーター化してやると、非常に喜ばれた。


 幾つかの集落を経て南下し、モンタナ州辺りから米国に入る。

 やはり、農業地帯には、生存者の集落があり、機械化による大規模農業を諦め、塀の中で細々と100名前後で生存していた。


 話を聞くと、魔物も問題らしいが、野盗集団が問題らしい。

 何度か撃退したが、野盗集団の方が、魔物よりも、問題だと言っていた。

 その為か、銃弾は余ってないか? と真剣に聞かれた。

 この期に及んで、一致団結して、魔物と戦うのではく、同じ生存者から略奪する方向の発想は無かったな……とため息が出る。


 地図を見ると、30分ぐらい飛んだ場所に米軍の基地を発見したので、補充しに連れて行く事にした。

 稼働時は、厳重なセキュリティで守られてたであろう、武器庫だが、電力も停止し、守る人も居なくなった今は、ただの魔物の巣窟である。

 幸い、武器庫は荒らされた形跡が無く、壁に穴を開けて、中に入った。


 ゲートで男性5名を連れて、武器庫に戻り、銃弾を補給させて戻ったのだった。

 そのコミュニティの代表者のゴッツいオッサンは、

「ジャパニーズ・ニンジャよ! ありがとう。これで子供らを守れる!!」

 と喜んでいた。


 なるほどな。確かに上空から見て居ると、所々に襲撃を受けて廃墟となったコミュニティ跡がある。


 米国の一部の州を廻った結果だが、生存者の集落は、魔物の脅威も恐れていたが、それ以上に略奪者からの襲撃を恐れていた。

 なので、軍施設から持って来た、銃弾や武器を補給してやると、それを一番喜んだ。


 そして南下し続け、メキシコに入る。

 メキシコにも生存者のコミュニティが幾つかあり、米国と同じ様に、略奪者から身を守る為の銃弾が喜ばれたのだった。


 ここらで、俺の心が折れた。 駄目だな……。

「もう暫くは、ここは来なくて良いかな。

 それより、日本の離島とかとの行き来の手段を改善すべきだな。

 幸い、今の所、空を飛ぶ魔物は出てないみたいだから、飛行機による交通手段を何とかするか。

 そうすれば、台湾とかとも交流出来るし。」

 と心に決め、日本に戻るのだった。

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