第48話 復活の狼煙
弾劾の日から、3年半が経過した。
その間、日本の人口は、70%以下まで落ち込んだ。
意外にも、魔物が直接関与した物は、10%ぐらいで、残り20%は、医薬品の不足や、病院での治療が間に合わないケースによる減少理由であった。
しかし、世界の生き残った人々が聞くと、70%も生き残った事を、羨む事だろう。
既に長い間、国や個人を問わず、海外との通信も途絶え、世界の状況が判らなかったが、旧在日米軍の生存者が米国の軍事衛星を使い、提供してくれた情報によると、ヨーロッパも米国もコロニーを作り、何とか生存者が居る事が判明した。
残念ながら、シャイアン・マウンテンの核シェルターに居た米政府関係者?からの連絡も随分前に途絶えている。
もっとも、地中深くのシェルターに亡国の指導者が生き残っている可能性はあるが、詳細は不明である。
衛星を使った通信でも、返事をして来る所は皆無である。
日本は、嘗ての社会生活をほぼ取り戻し、インフラも大体復旧した。
自動車も、魔動モーター車が販売され、徐々にではあるが、交通量も増えて来た。
勿論、販売元は株式会社マジック・マイスターであったが。
早期から錬金や鍛冶のスキルを育成して来た結果、旧国産車メーカーの生産ラインを流用し、そのまま魔動車を生産を生産するに至っている。
とは言え、それ程売れる訳でも、生産出来る訳でも無いので、細々とした物ではあるが。
魔動コンロや魔動給湯器は、これまた旧国内メーカーの工場で鋭意生産中である。
結果として、兄上の株式会社マジック・マイスターは、国内の一大企業となった。
まあ、他の競合他社が無いからね。
何故か、開発主任?は俺で、日々こき使われているんだが、あれ?おかしいなぁ……。
何処かで方向性間違ったかな?
しかし、部下の錬金術を持つ開発者がかなり育って来たので、そろそろ第一線からフェードアウトを企んで居るのだが、なかなか手放してくれない。
まあ、最近では、どうやらチーム佐野助=株式会社マジック・マイスターと言う事が、日本国民にも薄々バレているっぽいが、堂々と聞かれる事は無い。
冒険者と言う職業は、かなりの花形職として、国民に定着した。
下手な非戦闘系職業よりも稼げるからである。
最近は、彼方此方に足を運んで、鍛冶職や武器生産職の職人を集め、新しい武器の製造法や、付与を使った武器の強化方法等の講習会を開いている。
これのお陰で、徐々に強力な武器等が製造され始め、自衛隊や冒険者達に購入されている。
そうそう、学校と言えば、小中学校の義務教育が再開された。
義務教育の期間中に、新たにステータスを各自表示出来る様にし、最低限、身体強化までを習得する様にした。
また中学校では、新たに戦闘訓練と魔物狩りの授業も開始し、最低自分の身は自分で守れ、有事の際には、戦える人を育成する。
これには、以前の日本の様に、多少の反対意見も出たが、
「世界規模の魔物災害の真っ只中で、何甘っちょろい事言ってるの? 人様が作って守る平和に寄生する時代は終わったんだよ。」
と言う様な事を告げると、黙り込んだ。
とにかく、50歳以下の国民全員が最低限『ステータスを各自表示可能に』と言う事で、月に1回の講習会を各地で開催する様になった。
後は、義務教育である、中学校の途中で途切れてしまった者への救済として、中学校検定なる物が登場し、試験に合格すれば、中学校に通う必要が無くなると言う制度が出来た。
まあ、簡単に言うと、高校検定の中学版である。
高校も一部の高校は再開したが、俺は中卒の資格を取って、高卒の資格も取ってしまったので、特に進学していない。
それは兄上も聡君も同様で、早々に高卒の資格を取り、今は会社に集中しているし、大学に進学する気は無いらしい。
まあ、大学は、一部の国立大学が再開されただけで、細々と研究室が活動を再開したぐらいであった。
そもそもだが、現在の日本国民にそこまでの余力は無い。
そうそう、社会貢献しない働かない者は、許さない方向で、法律が纏まった。
労働は国民の義務ね。
今の日本に、職業を選択しない自由は無い。
若い世代のニートな人は、身体的な障害を持つ人以外は、デフォで自衛隊に入って貰うか、冒険者になる事になった。
文字通り、『働かざる者食うべからず』で、就業率、100%を目指す。
尤も、職業選択の自由は残っているので、彼らが農業を希望した場合、国営の農場等で働く事となる。
ダンジョンは封じ込めが出来ているが、それ以外にも温泉地帯や火山地帯、富士の裾野等、日本全国に魔物が出没している。
勿論、自衛隊もある程度は人員を割いているが、決定的に自衛官の人数が足りていないので、全てをカバーする事は不可能なのである。
その為、自衛官は激務を熟してくれているが、その苦労に見合った給料体系に変更され、これも花形職の1つとなっている。
そして、もう1つの戦闘系花形職として、冒険者がある。
この冒険者と冒険者ギルドのお陰で、魔物の討伐と素材の採取等が上手く回り出し、起爆剤となっていた。
また農業も、魔物被害の国の保証が出来た事で、安定した職種として人気が出ている。
一時期廃れた漁業も魔動モーターの船外機や、エンジンから魔動モーターへのコンバートキットの販売で、復活し、比較的安全で高収入な職種となっている。
数年前では考えもしなかった事だが、これが今の日本だ。
さて、冒険者ギルドであるが、当然ランクが存在する。
冒険者ギルドが発行するギルドカードは、俺がカサンドラスで持っていたカードを解析し、全てが魔道具となっている。
各ギルドには、ギルドカードの発行機と読取り機、それに政府銀行の口座とリンクした、キャッシュカードやクレジットカードの機能が備わっている。
勿論、偽造は(俺以外)不可能と言う、完璧仕様である。
魔力固有の魔力紋を登録するので、個人が特定が可能となり、拾ったギルドカードで何かをしようとしても不可能なのだ。
ギルドカードに過去の履歴が残り、依頼達成度や倒した魔物の種類やランクや数がログとして残るので、ランクの不正も(俺以外は)不可能である。
で、俺も、兄上も、父上も、清兄ぃも、叔父上も、聡君も全員、冒険者として登録してある。
所属パーティーはチーム佐野助。
ランクは、俺がSSランク、他はSランクとしている。
但し、Sランク以上の場合は、ギルドカードのランク表示を、任意でランクを偽装表示出来る様にしている。
そうしないと、下手なトラブルに巻き込まれる可能性もあるからである。
これは、冒険者ギルド発足時に、ちゃんと承認を取ったので、合法だ。
ブートキャンプをやった5人の件だが、結局5人共、俺と同じに高校検定まで受けて合格し、その後、株式会社マジック・マイスターで働きつつ、冒険者もしている。
ふふふ、さっちゃんも頑張ってるよ。
5人は俺が直に教えただけあって、超優秀な人材となっている。
前田と凛太郎は、時々清兄ぃに鍛えられてるし、女性陣も母上に指導を受けたりして、ドンドンと実力を付けて来た。
そして、全員がAランクまで上がってる。
さっちゃんを始め、愛子ちゃんも、なっちゃんも、この2年で随分と女性らしくなった。
訓練をして、魔物の肉を食べ、レベルを上げたお陰か、発育も素晴らしく、3人が街を歩くと、ほぼ男性は振り返ると言うぐらいに育った、色々と。
そんなさっちゃん達だが、
「もう! なんでーーー!!!」
とさっちゃんが、幼稚園の頃の様にホッペを膨らませ、椅子に座ったまま、足踏みしている。
「ん? どうした? 持病の尺か?」
と俺が聞くと、
「ちっがーーーーう! 遊びに連れてけーーー!」
と絶叫していた。
「そうは言ってもだな、こう見えて結構ハードなスケジュールを日々熟しているんだぞ?」
と俺が会話をしつつも、せっせと内職(魔道具作り)をしていると、
「つまんなーーーい。」
とやはり絶叫。
周りには、ニヤニヤする前田、凛太郎、なっちゃん、愛子ちゃんが居る。
「だってさー、前田となっちゃん、凛太郎と愛子ちゃんのバカカップルのイチャイチャを毎日見せつけられる私の身にもなってよーー!」
と半泣きであった。
「あーー、それはご愁傷様だな。
おい、爆ぜろリア充共!」
と俺が掌を向けると、ニヤニヤ顔が真っ青に変わっていた。
「お、おい、物騒だから掌向けるの、本気で辞めて!!
お前の冗談の攻撃は、一般人には冗談にならないからな?」
となっちゃんと、手を取り合い、青い顔で突っ込む前田。
「はっはっは。冗談だよ10%ぐらい。」
と言うと、
「それ、ほぼ本気やん!」
と突っ込む愛子ちゃん。
ふふふ、まあな。
「しかし、今思えば、もっと早くにお前ら鍛えて置けば良かったな。
そうすれば、今頃、もう少し俺、楽出来たと思うんだけどなぁ……」
とちょっと遠い目で窓の外を見てしまう。
「ハハハ。まあでもさ、現実問題、中1よりも前とかは多分全く無理だったと思うよ?
ほら、幼かったし。俺らは。」
と凛太郎。
「なぁ、うち思うねんけど、今って魔道具作ってるんよね?
それさ、魔道具を作る生産ラインの魔道具とか、出来へんの?」
と愛子ちゃん。
「…………」
「どうしたん?」
「そうか!その手があったか!!!」
と立ち上がり、絶叫する俺。
「え? 出来んの? 前々から不思議に思っとったんよ。
えーー、出来るんか。ハハハ」
と笑う愛子ちゃん。
「ってぇか、おせーよ! 提案するのおせーよ!!!!
俺、どんだけ寝る間を惜しんでやってたと思う?
マジで、ここ2年休みなしだぞ?」
と絶叫していた。
◇◇◇◇
「うん、出来たぞ。ポチッとな!」
シュィーーン、ゴトン、シュィーーン、ゴトン……。
「完成? これ完成したの? 偉く早かったけど。」
と10秒ぐらいで次々で出来上がって来る、魔動モーターキットを見て前田が聞いて来た。
試してみたが、
「うん、動くね。問題は……多少俺が手で作ったものよりも、パワーが落ちるのか?
うーん、量産品として割り切れば、全く問題無いレベルだな。」
と頭に手をやり、唸ってしまう俺。
「つまり、OKって事?」
「だな。」
俺は、本気で落ち込んだ。
何故、この発想が無かったんだろうか? ああ……。
早速、兄貴を呼びつけ、魔道具の生産ラインを見せる。
「うーんと、つまり、錬金や鍛冶スキルを持ってない奴でも、材料の補給とかをさせれば、ズーッと24時間体制で生産出来るって事か!」
と兄上も驚いていた。
早速、増産計画を立て、色々な魔道具の生産ライン化を仰せつかった……。
「結局、休め無いんだね……。」
と俺の肩に手を置く前田。
◇◇◇◇
あれから、数日掛けて、色々な生産ラインを整え、やっと一息着く事が出来た。
「さて、2年ぶりの休みだな。何しようか。」
部屋のベッドに横たわり、考えるものの、何も思い付かなかった。
訓練とレベル上げ、ダンジョン等々……それ以外をここ数年して来てなかった事に気付き、ショックを受けたが、こんな時代だからしょうが無い。
そこで、俺は暫し考えて、父上に連絡した。
「父上、俺少し世界の状態を偵察して来ようと思うんですよ。」
と言うと、
「なるほど。良い時期かも知れないな。」
と賛同してくれたのだった。
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