第46話 8月29日午前0時 弾劾の日

 日本時間の8月29日午前0時丁度、全世界を震度5の地震が襲った。

 耐震強化されている日本の建物はほぼ無被害だったが、世界各国は違った。


 日本の過剰なまでの耐震構造の建物を、バカにしていた国や地震を知らない国の国民は人生初めての地震に我を失い、驚愕した。


 この日この時、平常運転していたのは、世界でただ1つ、日本だけだった。

 日本政府の動きは早く、被害云々よりも、チーム佐野助が警告を発した、ダンジョンの捜索の為、全自衛官、全警察官、全消防士に号令を発した。


 その結果、地震後数時間で発見されたダンジョンらしき入り口は、合計128箇所。

 東京では、浜松町、広尾、護国寺、お茶の水に1つずつ発見された。

 埼玉では、戸田、川越、入間、春日部にそれぞれ1つ発見された。

 同様に千葉でも幕張、千葉、木更津に1つずつ発見された。


 各地から続々と寄せられるダンジョン発見の報告を政府はTV、ラジオ、インターネットで配信し続けた。

 政府から、ぜったにダンジョンに入らない様にと警告を発していたのだが、バカなVチューバーと呼ばれる奴らが、同時配信でダンジョンの中に入り込み、30秒もせずに映像が乱れ、首が落ちる映像が流れて途切れた。


 世界各国でもVチューバーや調子付いた若者達がダンジョンに立ち入り、瞬殺されていった。

 慌てて急遽軍隊を派遣しようとしていた国もあったが、核兵器の貯蔵室に突如現れた魔物によって、戦闘不能や壊滅に陥る基地が続出した。

 ダンジョン内に無策に入った兵士達は、銃の乱射の音や手榴弾の炸裂音が数分響いた後、沈黙した。全滅である。


 日本でも、チラホラとダンジョンの入り口から、魔物が出て来て居たが、直ぐに派遣された専用装備を備えた自衛官達によって、何とか被害を出さずにいた。

 現状、自衛官達に支給されている装備では、ゴブリンぐらいまでしか通用しないのである。

 もし、オークや上位種が出て来たら、おそらくアウトである。


 しかし、日本政府はゼネコン各社、土木関係の各社と既に密接に連携を取っており、直ぐにダンジョン周辺にバリケードを組み、高さ5mの塀を作って囲っていった。

 これは、チーム佐野助が指示した方法である。

 そして不眠不休の作業の結果、各地のダンジョンは取りあえず封鎖されたのだった。

 翌朝、更に追加で発見されたダンジョンへも同様の手法で塀を作って廻った。

 日本は世界に先駆け、危機を脱したのだった。


 時刻は少し戻り、チーム佐野助のメンバーは、それぞれ地元の地域を警戒していた。

 俺は、どうしても心配だったので、皇居の傍のビルの屋上で待機していたのだが、まさか日付変更と同時とは思わず、ちょっと驚いた。

 直ぐさま魔力感知と気配感知を使って、魔物を検索すると、銀座方面や四谷方面等、複数箇所に反応を感知したが、流石は皇居。

 魔物の反応は無く、セーフエリアとなっていた。


 俺は、ホッと胸を撫で下ろし、直ぐさま銀座方面へ飛んだ。

 銀座の魔物(……決して綺麗怖いおねーさん達の事ではない)は、ゴブリン、オーク、ホーンラビットが暴れ回っていた。

 日本政府は、事前に警鐘を各メディアで流し、自宅待機する様に促していたにも拘わらず、それを無視したバカな連中が何十人も襲われて、血染めの地獄絵図を作っていた。


 そして、今、正に路地裏で、オークの苗床にされつつある真っ赤なドレスの女性を発見し、後ろからサクッと首を刎ねてオークを始末した。

 勢い良く、オークの首から血が噴き出して、女性の方へと倒れていった。


 女性は足下に倒れ込んだオークの血を浴び、ドレスだけで無く、頭から顔や手足まで真っ赤である。


「おい、女。直ぐに何処でも良いから、屋内に逃げ込んで鍵を掛けろ。

 あと、血を直ぐに洗い流さないと、魔物が寄って来るぞ?」

 と脅しておいた。


 アワアワ言っている、女性だったが、素直にウンウンと頷いていた。


 俺はオークの死体を回収して、そのまま次の魔物の反応へと飛ぶ。


 反応のある方向で、パン♪ パン♪ と銃を撃つ音がする。

 駆けつけると、警官2名が、真っ青な顔でゴブリン3匹に向かって銃を撃っていた。


「うわぁーーー来るなーーー!!」

 と絶叫して、全弾撃ち尽くしたが、まだカチャカチャとトリガーを引き絞っている。



「任せろ!」

 と警官に叫んで、俺は前に出てサンダー・アロー3発を撃ち放った。


 バッシーーンと言う音と共に目映い稲光がして、ゴブリン3匹は変わり果てた姿で道路に落ちていた。


「「!!!!」」


 既に警官は言葉を失って固まっていた。


「じゃあ、俺は次に行くから、気を付けてな。

 普通の弾じゃ、魔物には傷すら付かないから。」

 と行って上空へと飛び上がった。




 さて、この銀座の状況だが、丁度TVカメラが生中継をしていた。

 拳銃で応戦する警官2名を映し出したその映像は、絶望へと変わって行った。


「駄目です。魔物?には全く拳銃が役に立ちません。」

 と言う悲痛なレポーターの叫び声がした後、いきなり空から現れた黒装束の男が、何かを瞬時に3発放ち、魔物を殲滅して、また空へと去っていった。


「き、奇跡です。これは奇跡の力です! 黒装束の男が空から現れ、瞬時にして魔物3匹を倒して行きました!

 黒装束? あ……チーム佐野助です。これはきっとあの謎の集団、日本の裏の守護神と言われているチーム佐野助に違いありません!!!

 ありがとう、チーム佐野助! ありがとう!!」

 とレポーターが絶叫していた。


 この中継を見た日本人は、両手に拳を握り絞め、

「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

 と声を揃えて雄叫びを上げていた。




 自衛隊がダンジョンの封じ込めに奔走している頃、俺は俺で、銀座の次に赤坂等、マップ上にヒットする魔物を殲滅して廻っていた。

 新宿では、歌舞伎町や新宿御苑や都庁付近に多くのゴブリンが発生し、ここでも政府の警告を無視した若者や飲み屋のお姉さん達を虐殺したり、苗床にしたりしていた。

 特に人的被害が激しかったのは、32匹のゴブリンが発生した、歌舞伎町だった。


 金髪にピアスで、ズボンからお尻が見えそうな格好の、若い男とかが、バラバラになっていたり、内臓を食われていたり……、被害者の殆どは原型を留めてなかった。

 いくら喧嘩慣れしていても、所詮は素人。

 魔力に目覚めてなければ、この世界で魔物を素手で倒す事は不可能である。

 人々は、右に左に逃げ惑い、運悪い犠牲者の亡骸の一部に足を取られ、転び、それでも這う様に逃げ惑っていた。

 謎の黒装束の男が突如現れ、ゴブリン共を殲滅するまでに、多くの人が亡くなった。

 生存者は、その日その時、その場所に居た僅か1割であった。


 新宿御苑では、オークとゴブリンが出現していたが、幸い真夜中と言う事で人が居なかったので、被害者は無かった。

 都庁近辺には、ゴブリン28匹の群れが出現して、都庁のガラスを割ったりして暴れていた。

 近くの高層ビルやホテルの1階にも何匹か雪崩混んで居たが、謎の黒装束の男が殲滅して去って行った。


 こうして、日の出までに日本の数カ所で、謎の黒装束の目撃談がニュースやSNS等を賑わせた。

 刀や槍や魔法?を駆使し、魔物の群れを瞬殺して行く謎の黒装束の男……偶然目撃した者が取った動画もVチューブ等に多数アップされていた。




 結果、日本で発見されたダンジョン数は、8月29日の午前12時の段階で、159箇所となった。

 そして、現時点での死者の数は、約1万人、重軽傷者の数は2万人を超えていた。

 更に、行方不明者は1万人程で、その1万人の生存は、絶望視されていた。


 しかし、これは全世界で見ると、異常に少ない犠牲者数であった。


 早期に対応した日本政府と、自衛隊、警察、消防の連携は、日本国民から大絶賛された。

 これも、日本の足を引っ張る国内の外敵が排除出来た事が大きかった。




 日本国内の世論は一転し、チーム佐野助を賞賛する声で溢れたが、日本以外の国では、チーム佐野助の警告を無視した自国の政府に対し、足を引っ張る様な活動が盛んとなっていた。

 本当に救いようが無い……。



 特に悲惨だったのは、ゴブリン30匹程度で死者多数、怪我人多数を出したニューヨークだ。

 5番街のど真ん中に出来たダンジョンから溢れた、たった50匹のゴブリンに、部隊壊滅の被害を出し、逃げれば良いのに、軍の静止を振り切って見に来ていた野次馬1000人以上が亡くなった。

 国連本部ビルも時間と共に増えるゴブリン達に占拠され、日本政府やチーム佐野助の警告を丸っと無視する決定を下した国連の上級職員達だけは、ヘリに乗って、アッサリと逃げ出した。

 同様の事は他の国連関連施設でも起こり、ジュネーブでも悲惨な状況になっていた。


 軍隊の壊滅で、米国政府は慌ててニューヨークを放棄し、トンネルを閉鎖したのだった。

 正に滑稽である。

 しかし、ニューヨークは寧ろ、死者数こそ多かったが、封鎖出来ただけ幸いだったかもしれない。


 ワシントン州のホワイトハウス近くに出来たダンジョンから溢れ出たゴブリンやオークに占拠され、破壊されてしまった。

 大統領はいち早く、脱出したが、問題は避難場所であった。

 米国各地にシェルターはあったのだが、シャイアン・マウンテンの核シェルター以外は、既に全滅か壊滅に近い状態で、エアフォース・ワンで逃げだそうにも、エアフォース・ワンが駐機してある空港も既に魔物に占拠されていた。

 その為、右往左往したが、唯一魔物の手が届いて居ない、海軍の船に乗るべく進路を変更したが、燃料給油の為に立ち寄った空軍基地で、魔物の襲撃に遭い、敢えなく殉職したのだった。

 そして、たまたま所用で空母ジョージワシントンの上に居た副大統領が、暫定で政権を引き継いだのだが、既にこの時点で、米国内の指揮系統も戦力もズタズタでもはや立て直し様の無い状態だった。

 一見魔物の襲撃の無い安全地帯と思われた洋上であったが、そうでは無かった。

 艦隊は謎の巨大生物に襲われ、アッと言う間に沈んでいった。

 これは、米国の艦隊だけでなく、他国の原子力潜水艦や原子力空母も同様で、次々と海の藻屑と消えて行ったのだった。



 似た様な事は、どこの大陸でも起きていて、★国では、例の原潜を捨てた広場にダンジョンが出来て、原潜の持つ核燃料や核弾頭の影響で、もの凄い数の魔物が溢れだした。

 その為、首都は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、我先にと首都から逃げ出した主席だが、そのまま乗ったヘリが事故に遭い、消息不明となった。

 旧△国と言うべきか? △国のあった所は、現在無政府状態で、更に今回のダンジョンと魔物出現で、元から放射能漏れの酷かった原発周辺に、魔物が多数出現し、原子炉が停止した。

 幸い、メルトダウンこそ起こらなかったものの、壊滅的な被害を受け、魔物と兵士の戦闘で破壊された施設から、大量の放射線が流出し、更に魔物を活性化させた。

 一時期、○○○国側が旧△国へと進軍していたが、それも今となっては意味を為さない。

 核開発にご執心だった事や、元々地面からの放射線量の多い土地柄と、国境付近にある富士山よりも噴火確率が高かった、白い山のお陰で、狭い領土の中、逃げ場が無い程に魔物が溢れかえった。

 怯えながら、地下壕深くに隠れて居たが、結局、魔物の襲撃を受けた発電所や色々な施設が壊滅し、地下壕の生命維持装置の電源が切れて、脱出する事すら出来ずに、帰らぬ人となった。



 そんな悲惨な国が溢れかえる中、日本政府は、暫定のバリケードの外側を補強する様に、高さ8m、幅3mの本格的なバリケードを継続して建設し始めた。

 これが完成すれば、おそらく、魔物がダンジョンの外に溢れ出ても、何とか時間が稼げるだろう。

 後には監視塔や、銃座も設けられ、自衛隊によって、常時監視される様になった。



 また、政府の発表で、魔鉄なる物の存在が発信され、それで作った刀や剣、槍、銃弾等で魔物が倒せる事が知らされた。

 同時に、自衛用の対魔物用武器の所持が、早急に可決され、一般人の武器所有と、製造販売が、合法となった。

 そして、魔鉄を販売しているのは、全世界で1社のみ……『株式会社マジック・マイスター』であった。


 流石は兄上、痺れる程に腹黒すぎます。

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