第10話 日々の暮らし

 月日の経つのは早いもので、あれから半年が過ぎ、既に6月に入った。


 幼稚園では、賢いけど『ちょっと変わった子』と言う認識で、園児達にはそれなりに人気であった。

 何故か、いつの間にか、園児達の纏め役的存在になってしまい、保母さんには良い様に使われる始末。


「徳士君! 悪いけど、さっちゃん、ご機嫌斜めみたいなの。少し宥めてくれるかな?」とかね。


 おいおい、仕事しろよ! それ、あんたの仕事だろ? と内心思っていても、そこは大人なので、「了解であります!」と敬礼して任務を遂行している。

 まあ、そんな訳で、園児達の父母からも、『頼れる子』と言う風に一目置かれているらしい。


 俺の通う幼稚園では、週に2日、1時間ずつ、剣道の時間がある。

 両親が兄上の時に、この幼稚園を選んだ理由が、これ。

 やはり、佐々木家の末裔と言う事で、多少はお遊び程度でも・・・と言う事らしい。


 え?? そんなの家で修練すれば? と思ったのだが、『時代が違う』らしいのだ。

 俺の幼少の頃なんか、無条件に毎朝素振りから、型稽古までやって、軽くランニングを終えて、朝食だった事を考えると、温い気がするのだがな。

 現代で、それをやると、確実に児童虐待とかいわれれ、『じしょう?』とか言う所から、お役人がやって来たりするらしい。


 まあ、そんな訳で立って動ける様になってからは、自主練に精を出していたが、

 2歳半ぐらいの頃、早朝だからと、マンションの外で素振りをやっていたら、えらく問題になったらしく、父上は苦笑いし、母上は「お願いだから、外では止めてーーー」と懇願された事件があった。


 もっとも、その話を聞いた清兄ぃは、大爆笑していたらしいが。



 おっと、話は幼稚園の剣道教室の時間の話だったな。

 で、大っぴらに竹刀を振れると喜び勇んだ剣道教室の初日、俺はガックリと項垂れる事になった。

 ちょっと考えれば判る事だが、幼稚園生に竹刀は危険と言う事で、プラスチック製の玩具にスポンジが付いている物を使う事になっていた。


 その子供騙しな竹刀擬きを見て、俺は愕然として膝から崩れ落ちて居た。

「あら~、徳士君? どーしたのかなぁ?」

 とクラスの先生が聞いて来たので、


「これ、竹刀じゃないですよね?」

 と目を潤ませて、食い付くと、


「あら、だって本物の竹刀は重いし危ないのよぉ~。」と。


 そんな状態ではあったが、いざ練習の時間となると、真剣に竹刀擬きを振るのであった。



 ちなみに、余談ではあるが、お正月に大神様と女神カサンドラ様にお逢いして、制限が解放されたアイテムボックスの中身を確認した時は、思わず奇声を上げて、小躍りした。

 中には、カサンドラスで仕入れた沢山のアイテムに加え、魔王戦でも使用した自作の愛刀が入っていたからだ。

 確か、最後の反撃を食らった際は、手に持っていて、アイテムボックスに格納していなかったと記憶するのだが、おそらくはカサンドラ様の配慮で入れてくれたのだろうと思う。


 この自作した自慢の愛刀は、大太刀(又は野太刀とも言う)、太刀、小太刀の3本で、素材集めから精錬そして鍛冶までを、何度も失敗を重ね改良を重ねた結果、生まれた集大成である。

 見る人が見れば、魂さえ吸い込まれそうなヤバい品である。

 だからこそ、もう逢えないと思っていたその愛刀を、アイテムボックスの中に発見した際の興奮は、生き別れになった我が子に出会えた程だったのである。

(尤も、俺の知る限りでは、俺に子供は居ない・・・筈・・・多分)


 で、もう少し愛刀自慢を聞いて貰うのだが、この刀は、吟味に吟味を重ねた素材をギリギリの割合で配合して鍛造した。

 刃となる部分には、オリハルコン70%に魔鉄20%と麒麟の角を10%配合した合金で、その外側をミスリル70%、魔鉄25%、麒麟の骨5%を配合した合金でサンドした日本刀である。

 特にこの麒麟の角と骨には思い入れが大きく、この素材を採って来るのにどれほど苦労した事か・・・ いや、まあそれは兎も角、この伝説級の存在である麒麟素材は非常に魔力効率が良く、魔導界隈の超伝導と呼ばれる素材の1つである。

 しかし、個体数が少ないのと、麒麟自体が激強いので、通常入手不可能と言う最高の素材なのだ。

 まあ、俺はアイテムボックスの中に、丸っと1匹持っていたりするんだけどな。


 だから、カサンドラスで得た物が、アイテムボックスの中にそのまま残っているのを見た時に狂喜乱舞しちゃった訳だ。



 小学生の兄上の基礎訓練も順調に進んで居て、身体強化の熟練も進み、なかなかの物になっている。

 魔力量も日々の鍛錬のお陰で、当初に比べ、10倍ぐらいにはなった様に感じる。

 ここら辺は、俺の魔力感知による物なので、ステータス的な数値では判らないのだが、ザックリ10倍にはなっている筈。

 兄上に、「そのうちステータスが使える様になるから。」と伝えると、大変喜んで居た。


 そして、もう一人の兄貴・・・清兄ぃだが、毎年お盆には必ず帰省するので、その際に掛ける『ヒール』や『キュア』のお陰で、ボロボロだった身体も、今ではヤバい程に戻って来ていて、ある意味、俺が出征する頃の方が病弱で死にそうだったんじゃないか?と思う程である。

 そんな清兄ぃの現在の夢は、ある程度身体が出来上がった俺との、真剣勝負らしい。


 ははは・・・確かに思いっきり勝ち越しているからな。

 今の所、502勝98敗5引き分けで、負けた98勝負は、俺が小学4年生になるまでに積み上げた負け。

 それ以降は、5回ほど引き分けた後、502連勝となっている。

 まだ、その記録に拘っていたとは、流石俺の清兄ぃである。


 この先、俺のレベルが上がり、聖魔法がEx級まで戻れば、清兄ぃの身体に『リフレッシュ』を掛けて、全盛期に身体を戻せる。

 大神様の話の通り、魔物が闊歩する世界になるなら、佐々木流斬刀術の使い手は、多ければ多い程心強い。

 清兄ぃの話では、父上も佐々木流斬刀術の使い手で、免許皆伝の域には達しているらしいのだが、何故か俺達子供にはその片鱗さえ見せてくれない。

 実に不思議である。


 そんな6月のある日、夢の中で、ドヤ顔の大神様からの報告を受けたのだった。

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