第7話 初詣と覚醒

 ステータスが利用可能になった以外は、何も変化無く迎えた大晦日、明日はいよいよ今生5回目の新年である。


 大晦日の晩、蕎麦のアレルギー?を気にして、今までは1口2口ぐらいしか食べさせて貰えなかったのだが、もう大丈夫だろうと、普通に年越し蕎麦を食べられる事になった。

 アレルギーと言う単語が良く判らなかったのだが、どうやら、特定の物質や食物で、湿疹や炎症が起きる事があるらしい。

 他にも杉の木の花粉で鼻水やくしゃみ、目の痒み等を引き起こす、花粉症と言うものあるらしい。


 ふむ・・・俺の生まれた時代には、聞いた事が無かったが、現代特有なのだろうか?


 除夜の鐘まで起きて居たかったのだが、母上に寝かしつけられ、そのまま寝てしまった。



 一夜明け、新年の朝である。

 颯爽と起き、兄上を起こして、


「明けましておめでとうございます。

 本年も宜しくお願い致します。」

とご挨拶。


「ふふふ、徳士は本当に凄いなぁ。

 とても小さい子とは思えない挨拶するよなぁ。

 あ、明けましておめでとうございます。」

と頭を撫でてくれた。


 リビングで、父上と母上に新年のご挨拶をし、お雑煮やお節や黒豆を頂く。

 日本古来の正月料理の中で、お雑煮と黒豆は、俺の大好物の1つである。

 2歳の時、正月に初めて我が家のお雑煮を食べた時、感激の余り、不覚にも思わず泣いてしまったのだ。


 何故って? そりゃあ、母上の作ったお雑煮が、郷里のお雑煮だったからだ。

 母上と父上は、幼馴染みだそうで、だから母上は郷里のお雑煮が作れるらしい。

 この時は、母上と結婚した父上に心の底から感謝した。本気で。


 18歳で志願して約10年、郷里のお雑煮を何度夢見た事か。

 何度かは、カサンドラスでそのお雑煮の再現を試みたのだが、残念ながら、材料も調味料も足りず、全く不可能だったのだ。


 まあ、そんな訳で、お雑煮を前にすると、どうしてもソワソワと落ち着きが無くなってしまうのであった。

 そんな俺の様子を、両親は温かい目で見てくれる。


「うふふ、この子ったら、本当にお雑煮が好きなのね。」

と母上。


「それは、母上のお雑煮が美味しすぎるからです。」

と答えると、


 母上は、

「まぁまぁ、それはありがとうございます。」

と言いつつも、少し照れていた。




 そして、朝食後、家族4人で近所の神社へ初詣にやって来た。


「父上、一度靖国神社へ参拝に行きたいのですが、連れて行っては貰えませんか?」

と父上に手を引かれて歩きながら、お願いしてみると、


「ふむ。確かにお前の曾叔父に当たる方が、英霊として祀られているからな。

 今度全員で参拝に行くか。」

と言ってくれた。


 戦友達に逢える・・・「靖国で逢おう」と別れた戦友達に。



 約束した再会がやっと果たせると無邪気に喜ぶ幼児の姿を、周囲の大人達はホンワカとした目で眺めていた。



 近所の神社と言っても、そこはそれなりに大きな神社で、出店も多く、振り袖姿の若い子や、お面を買って貰って喜んで居る子供や、友人達と待ち合わせして、騒いでいる少年少女達等でにぎわっている。

 そして、俺達は、参拝の列に並び、ゆっくり前進して、境内へと入って行った。

 狛犬が守る鳥居を潜り抜けた時、俺は、一瞬ビクッと体を震わせた。


「あ、神域に入った・・・」


 前世では感じなかったが、どうやら今の俺には感じる事が出来るらしい。

 ザワザワした雑踏、鈴を鳴らす音、柏手を打つ音等が聞こえるが、それとは別にシンとした静寂、高貴で神聖な空気が感じられた。


 俺は、貰ったお年玉でお賽銭を静かにお賽銭入れに入れ、鈴緒を揺らして二礼二拍手し、心の中で、無事にこの世界に戻してくれた神様へお礼を述べた。

 そして、清兄ぃにまた逢えた事のお礼を述べた。

 去年1年家族全員が無事に過ごせた事のお礼を述べた。


 静かに一礼して、横で待ってくれていた家族に「お待たせしてしまいました。」と合流した。


「ふふふ、徳士はかなり熱心にお祈りしてたな。」

と父上がニヤリと笑いながら俺を抱き上げた。


「父上、ところで先程お願いした靖国神社へは何時頃行けますか?」

と父上の腕の中で、聞いてみると、


「うーん、そうだな。場所的にはここから1時間ぐらいなんだけど、正月三が日はもの凄く混むんだよなぁ。

 まだお前達は小さいから、三が日を避けて、4日ぐらいに行ってみるか。

 その頃なら少しは空いているだろうし。」

と約束してくれたのだった。



 ◇◇◇◇



 そして、その夜・・・驚く出来事があった。

 子供部屋で眠りに就いた俺は、真っ白な部屋に居た。

 身体は魔王戦をやった頃の俺の姿だった。


「ふふふ、夢にしてはかなり出来が良いな。」

と独り言を言いつつ苦笑いしていると、


「ああ、佐々木徳治郎さん、いや今は佐々木徳士さんでしたね。

 お久しぶりです。」

と綺麗な白い布の様な衣装を纏った西洋人の様な女性が、不意に目の前に現れ、微笑みかけて来た。


「わっ。急に出て来たな。

 ん? お久しぶり? すまないが、以前にお目に掛かった事があっただろうか?

 お会いした事があれば、こんな別嬪さん忘れる事は無いと思うのだが・・・」

と頭を捻る。


「ふふふ、『別嬪さん』懐かしいですね。前にお会いした時も、同じ様に仰って下さいましたよ?

 但し、あの時の記憶は、カサンドラスに降りた際に封印されてしまって、思い出せないだけですよ。

 改めまして、私、カサンドラスの主神をやっております。

 カサンドラスの方々からは、女神カサンドラと呼ばれております。」

と微笑みながら、会釈をしている。


「カサンドラスの神様でしたか。

 あ・・・思い出した。

 ええ、覚えております、確かにご尊顔を拝しました。

 その節は、大変お世話になりまして、色々と加護を頂き、誠にありがとうございました。

 お陰様で、何とか魔王討伐を果たせました。

 その後、カサンドラスの方は、もう大丈夫なのでしょうか?」

と封印された記憶が甦り、お礼をしつつ、気になるカサンドラスの事を尋ねてみた。


「ええ、お陰様で魔王に半ば強制的に扇動されていた魔族も、魔王の影響が解け、魔族も含めた平和な時代を築こうとしています。

 但し、貴方と共に戦ったパーティのメンバーや、貴方達に感謝している人々は、貴方が亡くなった事に、非常に心を痛めてますが。」

と女神様が、俺が居なくなった後の事を教えてくれた。


「そうですか。

 でも平和になりそうなので、安心しました。

 もし、機会があれば、パーティメンバーや悲しんで暮れている方々に、俺は元の世界で楽しくやってるので、気にしない様に伝えて貰えますでしょうか?」

とお願いしてみると、


「ええ、神託を出しておきますね。

 ふふふ、しかし貴方は本当に良いですね。ああ、地球の神にお返しするのが、本当に惜しいですわ。」

と少し残念そうな顔をしている。


「こらこら、カサンドラよ、話が違うではないか。」

と白髪を結い上げた老人が突然現れた。


「わぁっ!また現れた。」

と小さく叫ぶ俺。


 そのご老人、和服と言うよりも、日本神話に出て来る様な服装と髪型と言えば伝わるかな?

 首には勾玉の首飾りがあり、これぞ日本古来の神様と言う出で立ちであった。


「もしかして、日本古来の神様でしょうか?」

と尋ねると、


「うむ。ワシがこの地球全般の主神をしておる、大神じゃ。

 今日は飲み友達のカサンドラの願いもあって、場を提供して、お主の夢に登場してみた訳じゃ。ハッハッハ。」

と舞台裏をぶっちゃけてくれた。


 そこで、俺は改めて、二柱の神様へ、心からのお礼を述べた。

 召喚と言う事で、命を救って頂いた事、他では体験出来ない様な異世界での体験(まあこれは大変な事も、辛い事もあったんだけどね)をさせて頂いた事、更に転生し、家族や子孫に会えた事を深々と頭を下げて感謝した。


 すると、

「ふっふっふ、そんなお主だからこそ、カサンドラに推薦して、機会を与えたのじゃよ。」

と大神様が目を細めて微笑む。


「ええ、大神様お気に入りの日本人と言う方々は、本当に素晴らしい方が多いですね。」

とカサンドラ様も同意する。


 そして、それぞれ別の世界の二柱の神様から、色々な説明を受けた。


 そもそもだが、俺がカサンドラスへ召喚されたのは、一定周期で現れる魔王と言う存在を打ち倒す為、飲み友達の大神様にお願いし、勇者として召喚していたらしい。

 今回の魔王の時、その元から持っている佐々木流斬刀術の技能と、俺自身の性格が、ドンぴしゃで条件に一致したので、戦死のタイミングでカサンドラスへと譲渡したのだそうだ。

 そして、晴れて魔王討伐の暁には、ご褒美と共に奇跡の生還コースが用意されていたらしい。


 それが、今回の魔王は想定外に強敵だったらしく、討ち果たした後に、肉体が消滅する様な相打ちとなってしまったので、『奇跡の生還コース』の線が消滅してしまい、俺の消滅前の望みや願望を踏まえ、条件が揃う時代に転生させたとの事だった。

 元々ご褒美でカサンドラスで得たギフトやスキル、ステータス、アイテム等、全てこちらに持たせるつもりだったが、転生で肉体側の条件が揃うまでは、制限が掛かっている状態なのだそうで。

 ステータスも、4歳と言うカサンドラスの縛りが解除されたので、利用可能になり、ステータスの確認が出来るまでに肉体が整ったので、説明しにご光臨されたと言う事だった。


 魔法について尋ねると、元々この地球にも魔素(龍脈とか神気とか言う名称で呼ばれているらしい)が存在し、本来人間は魔法が使えるらしい。

 但し、ステータスやギフトやスキルと言う概念は、カサンドラスの神の考え出した物なので、地球の神様の管轄下では、存在しなかったとの事。

 まあ、これが兄上にステータスが使えなかった原因らしい。


「大神様、出来ましたら、こちらの世界でも、ステータスやスキルやギフト等の制度を取り入れて頂けませんでしょうか?

 知る人ぞ知る、裏技的な物でも構わないので。」

と恐る恐るお願いしてみると・・・いやぁ~聞いてみるもんだね。


「うむ。お主の願いとあらば、叶えようではないか。」と。


 そして、ついでにもう一つ気になっている事を尋ねてみた。

「あともう1つお聞きして宜しいですかね?

 レベル上げの事なんですが、この世界だと魔物もダンジョンも無いので、経験値が貯まらないのですが、何か方法ありますでしょうか?」と。


「ああ、そうでしたね。確かにこちらの世界は、カサンドラスと違って、魔物も何も居ませんものね。」


「うむ・・・。そうじゃったな。せっかくのご褒美も、全く絵に描いた餅状態じゃな。

 確かに後10年程で、魔物が出現するんじゃが、その時レベル1のままじゃ、心許ないのう。」と。


 ん? 何か今不穏な発言が混じって居たような? 後10年??

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