第6話 天恵のギフトは一時交換
私有財産など奴隷には認められておらず、なんなく金銭と適当な服を盗むと奴隷区から抜け出した。
ここは憎き家令の支配地であり部下の代官に治めさせてている。
しばらく歩くと街の中心に出た。
そして目的の建物が存在するのを目にし安堵した。図書館だ。
礼儀作法や歴史などの授業で常識なども教わるがそれじゃ情報が到底足りない。
知りたいことが多すぎる。
特に魔法について知りたい。
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今日は五月七日、天恵のギフトを授かる誕生日十五日はもうすぐ。
そしていつもどおりなら奇数月である今月末に隷属魔法の使い手である家令がここへ視察に来て、ついでに俺を性欲のはけ口に使う。
いくらここが道徳観念が希薄で同性愛者も多い世界とはいえ、以前の俺はよく耐えられたものだ。
次からは俺は耐えるつもりはない。
なんとかして家令のクソヤローを潰す、物理的に。
クソヤローはここを訪れる時もいつも油断していない。
常に身辺に護衛の者数名を配置している。
そんなあいつを倒すのは簡単なことではいかないだろう。
そして倒して終わりではない。
奴隷及び身分制度で言うと卑民から脱却しなければならない。
そのためには綿密な計画が必要となる。
だから様々な情報がほしいのだ。
俺はうまく変装し図書館であらゆる情報を吸収した。
識字率が低いせいか、蔵書は少なくそして簡単な内容のものばかりで挿絵が多い書物ばかりだ。
◇
天恵のギフトの前日まで、前世のおかげで得た大量のスキルの使い勝手やその能力を調べるのと図書館へ通う日々を送る。
体調が悪く寝床で横になっているという俺のアリバイについてはビサールたちの協力でうまく誤魔化している。
ひとつには、五月末に家令のクソヤローが訪れる時に元気な姿でいたいから今のうちに体を休めておきたいと俺が申し出ると、それをここの役人たちも快く許可したということもあったのだが。
ヴァネッサとはちゃんと連絡を取っている。
◇
目を覚ますと外はかなり明るくなっている。
ちょっと寝坊したか。
だが今の俺は一応療養中となっているから誰にも咎められない。
今日はいよいよ十四才の誕生日、天恵のギフトを授かる日だ。
天恵のギフトはその日のうちにいつの間にか授かっているという。
どれどれ流石にまだだろうなと思いながら俺は能力開示と内唱した。
そして確認すると生年月日のすぐ下に天恵スキルとあり次に一時交換とあった。
その横にはあるべき級がない。
一時交換、聞いたことのない、そして図書館でスキルについて調べた時にもなかったな。
ということはもしかしてこれはレアギフトなのか。
図書館にあった『スキルのすべて』と書かれた薄い本によれば、天恵のギフトスキルの中には通常この世には存在しないものがあるらしい。
そのスキルにはあるべき級がない。
そして魔法ではないにも関わらず魔法以上の威力がある。
よし落ち着け、慎重に慎重に。
天恵のスキルだが、これは文字理解の上級を貰ったことにしよう。
初級だったのが下級・中級を飛び越して上級。
滅多にないことだが、数年に一人そういう者があらわれるらしい。
どっちにしろ、実際のところ神級だから構わないだろう。
これから一時交換について調べてみよう。
◇ ◇ ◇
一日かけておおよそのことがわかった俺は日が暮れてからビサールを呼び出した。
ビサールには俺が急激に強くなったのは神の加護が顕れたからと思わせている。
ビサールの姿を認めると数あるスキルの中から内唱でピアノと選ぶ。
そしてビサールを対象に『一時交換』と内唱する。
すると俺のスキルからピアノが消え代わりに『早食い・下級』が表示される。
ビサールはまったく気づかない。
仕方ない。一回でうまくいかない時もある。
自分のスキルからカジノを選ぶ。
そしてもう一度ビサールを対象に『一時交換』と内唱する。
すると俺のスキルからカジノが消え代わりに『俊敏・中級』が表示される。
やはりビサールはまったく気づかない。
いつもこいつは自分の天恵スキル俊敏は今では上級になったって言ってたよな。
だが俺が交換したのは俊敏の中級だ。
ちょうどいい確認してみるか。
「何か御用ですか、ボス」
「ボスはやめてくれって言ってるだろ」
「じゃあ兄貴、どうされたんで」
「お前の方が五つも年上だろうに。
まあいい。
ここだけの話だが神の声が聞こえてな」
「えっそれでなんと」
俺は声色を変える。
「ビサールなる者は級を偽っている。
そのようなことを続けるならばいずれ罰を与えることになるがその前にタウロの体を借り一言注意しておく」
そして俺は普段の声で続けた。
「ということだってさ」
奴は慌てふためいた。
「何も偽っていたとかではなくてちょっと見栄を張ってただけです」
「じゃあ本当のところはどうなんだ」
「はい、俊敏は中級のままです。
みんな上級だと信じ切っていたのですが流石は……
あっ俊敏がないぞ、代わりに変な文字のスキルが二つ」
ビサールはスキルを確認したらしい。
ピアノとカジノはこの世界にはないから読めないだろう。
俊敏は天恵スキルの時に紙に文字を写し書きして教会で調べて貰ったに違いない。
「神からの伝言で罰として一時間ほど俊敏スキルを没収するってさ」
一時間ほど経つと一時交換の効力がなくなってしまう。
継続時間は自分の思うように変えられる。
だが今朝から色々調べだしたから最長でどれだけかはわからないし、対象者との距離などもまだ解明されてない。
一時交換を仕掛ける時はぼんやりでも対象者を目視しなければならない、ということはわかったが。
さあヴァネッサも俺の天恵のギフトスキルを知りたくて待ち遠しいはずだ。
◇ ◇ ◇
いつもの場所ではなくかがり火が焚かれた代官所入口近くで俺はヴァネッサと対峙した。
「うん? もしかして授かったスキルは棒術なのか。
じゃあ私と一緒だな」
早合点してヴァネッサは喜んでいる。
「まあ…… 後で教えるから、取りあえずは勝負しよう。
本気でかかってきてね」
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