第5話 俺には隷属の呪いが無効らしい

「不敬だぞお前」

みるみるヴァネッサの態度がおかしくなった。

小刻みに震えている。

「まさかあのお方が。

どうしてタウロなんかに。

私が近くにいるからタウロに。

これも私も運命なのか」


ボソボソ言ってるが全部俺には聞こえてるぞ。

でもそれってどういうこと…… わからん。


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「タウロ、女神様は他に何か仰ってなかったか」


どうやら ヴァネッサは 自称女神のことを知っている。

というよりもお慕いしているのでは?

自称女神は本物なのか。

ヴァネッサには申し訳ないけどそのことを利用させてもらわない手はない。


「よく考えたらとても大切なことを言ってたよ」


「どんなお言葉を…… 」


「 今お前が一緒にいるヴァネッサを 頼るがいい。

ヴァネッサには大きな力がある。

二人で力を合わせれば帝都の学園にもはいれよう。

って言ってたかな、ヒィィィィ」


俺は驚いて思わず悲鳴をあげる。

ヴァネッサがいきなり抱きついてきて泣きながらなんか語り出したからだ。

ちょっと苦しい。

そして重いよ。

レディには言えないけど。


「女神様がそのようなことを仰って。

でも私はとっくにそこから逃げ出した。

もう終わったこととばかり。

いつのまにか 存在は希薄になって世界から消えてしまったと思っていた 。

しかしまだしっかり見ておられたのか、 私の今までのことも

ということは、あのお方のお導きで父や母やみんなは天国で幸せに暮らしているのだ」


何を言ってるのかほとんどわからない。

だがヴァネッサがたった今考えを変えたこと、家族がもうこの世にいないことぐらいはわかる。


彼女は俺の手を握った。

「タウロ、これからはお前と同じ道を歩もう。

しかしこの身分では」


俺は合図してヴァネッサの口を閉じた。

「具体的な話をしちゃうとまた隷属の呪いが発動するかもしれないだろう。

これからどうやって三年後に在籍するか、そのための一歩は考えてるんで、任せてくれ。

それよりもさ、ヴァネッサも訳ありみたいだけど」


「他人に話すことではない。

いや同じく女神様が見守っている間柄だというのに済まぬ。

いつか心の整理が出来たら話すかもしれぬ。

よし、じゃあ今から棒術の訓練をするか。

タウロがどこまで強くなったか、見極めてやろう」


           ◇


ヴァネッサとの打ち合いはとてつもなく激しいものになった。

えっ俺って棒術だぞ、ヴァネッサはって言ってなかったっけ。

いや天恵のギフトの時点で上級だったって話か。

今はもっと上だろう、考えたらすぐにわかることなのに。


そこへまた容赦なく激しい打ち込みが俺を襲う。


しかしこの強さ、そしてヴァネッサにはまだ余裕がある。

でもこんなに強かったっけ、今まで気がつかなかったなあ。


本気の俺よりずっと上だ。

特級の上の優級か、それとも更に上の金級か。


「今日は開始が遅くて短い時間だったがそろそろ終わりにしよう」


「わかった。

これ以上やると怪我するところだったよ。

ヴァネッサってこんなに強かった?」


ヴァネッサが獰猛な表情になる。

なんか俺失言?


「そうだ、今日は手を抜かずにやらせてもらったんだが、中級ってのは嘘だなタウロ」


げっ!

「ああバレちゃった? 実は」


「待て、こういう字を書くんじゃないか」

そう言うと地面にと書いた。


「そうだよ、よくわかったね」


「ああこれで特級って読むんだ。

上級より一つ上だな」


「ヴァネッサは何級なの」


「それは秘密だ。

タウロもあまり言わない方がいいぞ。

スキル内容を公言している奴のも真に受けない方がいい。

大抵は実力より盛っているが、わざと過小に申告している者もいるし」


この世界ではは本人だけが確認できる。

鑑定などで他人の能力を視る人がいるって話は聞いたことがない。

だから自己申告しかないが、たまに実力が伴わずに見抜かれる者もいるらしい。


こればかりは隷属魔法も効かない。

天からのギフトを人間の魔法ごときでは暴けないって話になってる。


「お前は強くなった。

だがやはり我々は繋がれている自由のない身」


「うーん、じゃあ確証はないけど勇気を持ってやってみるよ」


「何をする気だ、無理はするな」


「あのバカ家令、隷属の魔法が出来るってだけで他には何の取り柄もないヤローめ。

みんなから搾取しやがってよ。

いつも奇数月の月末あたりに来て俺をおもちゃにしやがって」

話しながら俺はホントに胸くそ悪くなった。

今まで何度も猥褻行為の相手をさせられていたのだ。


「今度ぶっ殺してやる。

そしたらあいつ地獄にいくだろうな。

んがんぐ」

なぜかヴァネッサが真っ青になりながら俺の口を手で抑える。

彼女の肩を叩き、気づかせた。

やっと手が離れ自由に息が出来た。

彼女はびっくりしている。

「ああ苦しい、息が出来なかった。

これじゃ呪いと変わんないや」


「…… どうして呪いがかからない」


「そういうこと、女神様のお陰かな」

嘘だけどさ。

そして念のため。

「くれぐれもヴァネッサは真似しないで。

でもわかった?

これでここから抜け出せる可能性が出てきたって」

 

           ◇


訓練から戻っていく彼女の足取りはいつもより元気に感じた。


ヴァネッサとはこれからもずっと一緒に行動したいから話作っちゃったよ。

ごめんね、これからも頼りにしてるよ。

しかし銀色の女神とヴァネッサが関わりがあるなんて凄い偶然。

運命めいたものを感じる。

待てよ…… もしかして偶然じゃなかったとしたら。



     ◇        ◇        ◇



次の日から俺は仮病を使う。

どうも体に力が入らない、と申告して寝床でずっと休ませて貰うことにした。

これはすぐ認められた。

奴隷は隷属の呪いのため、このような狡など出来ないというのが前提にあるからだ。

脱走なども不可能だから見張りなどもいない。

一般的な奴隷管理よりも隷属魔法による管理は非常に楽だ。


前世を思い出した時に何かしらの原因で隷属魔法が解除されたのだと思う。

この魔法は対象相手の魂に直接作用しているのかもしれない。

俺の魂は大きく変化したから…… まあ推測だが。



     ◇        ◇        ◇



 私有財産など奴隷には認められておらず、なんなく金銭と適当な服を盗むと奴隷区から抜け出した。

ここは憎き家令の支配地であり部下の代官に治めさせてている。

しばらく歩くと街の中心に出た。

そして目的の建物が存在するのを目にし安堵した。図書館だ。


礼儀作法や歴史などの授業で常識なども教わるがそれじゃ情報が到底足りない。

知りたいことが多すぎる。

特に魔法について知りたい。


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