12話:フル装備
大きな街でなにか用立てたいなら、職人ギルドへ向かうと良いとグスタフは言っていた。剣を一本作るにも何人もの職人が必要になる。刀身は鍛冶職人、柄や鞘は木工職人、グリップやベルトは革職人、装飾を施すなら細工師、彫金師も関わってくるし、材料を工面する必要だってある。そんなたくさんの職人の工房を一つ一つ回るのは手間だ。そういった手間を解消するために設立されたのが職人ギルドだ、ということらしい。
俺たちはマリーに案内されて職人ギルドまで赴いた。工房が併設されているらしく、冒険者ギルドや魔術師ギルドよりも大きな建物だった。積み上げられた石レンガや石柱の一本一本までに過剰な細工が施されているせいで魔術師ギルドとは別の意味で近寄りがたい建物だった。
「よぉ。話はついたか?」
「おまたせしました。魔石の手配も無事すみましたよ!」
そんな細工が施された無駄に豪華な石柱に遠慮なく寄りかかってグスタフは待っていた。きちんと無傷でたどり着いたので安心していることもあるのだろう。先ほどとは打って変わって上機嫌だった。マリーも魔術師ギルドの
「それじゃあ行こうか。ある程度話はつけてある。」
俺たちは職人ギルドへ入ると、そこは熱気で溢れていた。様々な物資や人が行き来している。
「とりあえず、ジークにはフードだな。その髪を隠すものがいる。レオンは術具だが、術は温存する場合が多いから支援用の武器も見繕っておこう。」
と、いいつつも最初に向かうのは革職人の所だった。命を守るのに必要な最低限の防具、革防具を用意するためだ。一口に革鎧と言っても種類は色々あるようで、革職人が集まる区画には様々な革製品が並んでいた。
「狙い目は中古だな。よく手入れされているものは新品よりもずっと硬いし、何より安い!」
そう言って連れてこられたのはまるで木材で作られた家具のような暗い茶色の変色した使い込まれた革鎧が並ぶ一角だった。補修された跡などはあるが、どれも売り物になる程度には立派な代物で、ワックスで磨かれた表面は美しく輝いているようだ。
「最初だからある程度はアドバイスするが、最後に決めるのはお前たち自身だ。よく考えて決めろよ?」
そう言ってグスタフは必要な条件を並べた。
一つ、最低限胸は守れるもの。胸には心臓や肺などの重要な臓器があり、貫かれると即死は免れないこともある。腹部も守れるものがあればいいが、その分動きを阻害されるので同じ後衛でも
2つ、帯紐で固定するもの。俺たちはまだ成長途中であるため体格が変化すると合わなくなる可能性が高く、ものによっては仕立て直す費用や買い直す必要が出てくる。なので帯紐の長さを調節するだけで済ませられるものだと多少合わなくても固定ができるそうだ。
3つ、俺には肩鎧や腕鎧もあったほうがいいらしい、弓を持つ手は常に敵の方に出ているため攻撃を受けやすくなる。正直な話誤差の範囲だろうが安心感は段違いとなる。その安心感が生死を分ける結果になるかもしれない。
俺たちは店主の了解をもらって実際に付けながら体を動かして確かめる。胸鎧と肩鎧だけでも意外と動きが制限されるが、不自由なほどではない。そのうち慣れてくるだろう。とりあえずしっくり来たものを選んで購入することにした。同じ頃レオンも良さげなものを見繕っていた。
「あんたらはまだ駆け出しみたいだから今後の投資も兼ねて安くしておいてやる。革鎧二組で小銀貨6枚だが、5枚でいい。そのかわり、今後も商人ギルドを贔屓にしてくれよな。」
小銀貨6枚がどれだけの勝ちになるかはわからないが、ギルドの食事が6人で銅貨6枚、結構量は多かったので銅貨1枚あたり日本円換算で1000円かそこらなのだろうか。しかし冒険者はたいていギルドで食事をしているようなので恐らく他のところよりも安いのかもしれない。そもそも銅貨何枚で少銀貨と交換できるのかも今のところ謎だ。それに基本的に通貨単位のようなものは今のところ聞いたことはなく、基本的に貨幣の種類とその枚数で決まっているらしかった。この辺りはレオンが詳しいかもしれない。今度聞いてみよう。よく考えてみたら村では基本的に物々交換で貨幣を使ってのやり取りはなかった。詐欺やぼったくり等もあるかもしれないし、しっかりしておかないといけないかもしれない。
俺はグスタフの方を見るが、金額に納得しているようなので妥当なのだろう。というか職人ギルドの中でぼったくろうものならギルドそのものへの信用がガタ落ちするのは考えるまでもない事だった。今後ものを買うときはギルド内の相場と比較してみるのが良いかもしれない。
その後、二人分のフード付きのマントや鞄等を整えるために、各種職人の元へ訪れ装備を整えた。もしデューターの一党の負担になるようなら父さんの弓を売り払うことも考えたが、グスタフは強く反対していた。結局弓も購入することになったが、グスタフはまだ余裕があると言っていた。グスタフが売ったという武器の価値を考えたところ、気にするなと言っていた。俺はこの恩を返せるだろうか。
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