第22話 月野姫
私の名前は月野姫(つきの ひめ)。22XX年、月面都市サテライトシティ東京で生まれました。だから私は『宇宙人』なんです。私は人類最後の子供。私は生まれた時からぼっちでした。
今から百数十年後、人類は文明の終焉を迎えます。労働を必要としない社会、無限に複製できる食糧、惑星すら破壊しかねないエネルギー、光速を超える宇宙船。人類の欲望が満たされると共に、人々は無気力になっていきました。
そして、その頃から男の子が生まれなくなったのです。戦争や大災害がなくても人間は簡単に滅ぶのです。人間の寿命は200歳を超えていました。事故も病気もない世界で寿命をまっとうしても、子供が生まれなければ、わずか200年で人類滅亡の時はやってきます。
私が生まれた世界に『恋愛』は存在しません。なぜなら同世代の男の子が一人もいないからです。私は『恋』をしたかったのです。精神的な寿命を迎えるまで老いない体を捨てででも。飢えや戦争、事故や病気であふれる地上に降りてでも。
私は月面都市サテライトシティ東京のデータライブラリーで21世紀の映画やドラマを発見しました。今では、誰一人としてアクセスしない野蛮な時代に、私の心は生まれて初めてときめきました。
だって『恋』ですよ!
もう心臓がバクバクなって、涙が止まらなくなるんです。
これって、生きているってことですよね!
『恋』は女の子にとって一番大切なものです。
『恋』を必要としなくなったら、人間に男女は必要ありません。
男の子が生まれない社会は、神様が人間に下した罰なのだと、私は信じます。
だから私は、光速を超える宇宙船を使って時間をさかのぼり、21世紀にやってきたのです。
地上の汚れた空気を吸えば、私の体は老いと言う時計の針を進めるでしょう。
農薬で汚染された食糧を口にすれば寿命が縮むでしょう。
それでもいいんです。
私は『恋』をして、
私は『結』ばれて、
私は『命』を産み、
私は『育』んで、
私は『老』いて、
私は『逝』くのです。
ふふっ。
叶わないかもしれない。
破れるかもしれない。
途絶えるかもしれない。
裏切られるかもしれない。
でも私は恐れません。
山田健太(やまだ けんた)。
世界中の人々の前で、私の告白を受け入れてくれた彼。
化け物かも知れない宇宙人の告白ですよ!
すごくないですか?
山田健太。
月野姫は健太が好きです。
月野姫は健太を心から愛しています。
月野姫は健太のためなら死ねるんです。
「うぉーん!」
月に向かって吠えてみたくなりました。
でも、私は人狼ではありませんよ!
月野姫は恋する宇宙人なのです。
そして、私の恋は始まったばかりなのです。
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