第5話 人生最大のピンチ

 自分じゃないと確認ができた生徒たちは一旦は落ち着いたが、次第にキョロキョロと周りの様子をうかがい始めた。体育館の外は益々、騒がしくなっている。何機ものヘリコプターが飛び交う音が上空に鳴り響く。


『こちらは自衛隊です。報道ヘリはむやみに未確認飛翔体に近づかないでください。繰り返します・・・』


「おい、すげーことになっているぞ」


報道番組をスマホで見るものまで現れる。俺は緊張でそれどころではなかった。


「うっそ。見せて見せて!うっわ。学校の真上じゃん」


「デカいな。宇宙船。まるで映画だ」


「おー。自衛隊の戦車だ。武装した歩兵もどんどん集まってくる」


「やばい。やばい。やばい。俺たち死ぬかも」


校長先生が再びマイクを握る。


「静かに。メールの届いた生徒は手をあげてください。自衛隊の方がおこしになりました」


自衛隊の黒い制服を着こなした男が、さっそうとした姿で校長先生の横に並んだ。


くっそー。軍服の威圧感すげー。校長の威厳なんて吹き飛んだぜ。おいおい、この状況で手をあげられるやつなんているのかよ?完全に人柱じゃんかよー。泣きてー。逃げてー。死にてーって、ぼっちのまま死ねるかよ!


校長先生に制服の男が何やら耳打ちをしている。


「えー。ここにおられる自衛隊の方によると、宇宙人は愛する彼と一目会って話ができないのなら、地球を消滅させて自分も死ぬと言っているとのことです。どうか、地球のために手をあげていただきたい。さもなくば強制的にスマートフォンを確認して回るとのことです」


ギギー。


 体育館の搬入口の扉が開いた。日頃、開かれたことがほとんどないのか、錆びついて大きな音をあげる。生徒たちは驚いて扉を見つめた。ライフル銃で武装した迷彩服の自衛官たちがなだれ込んでくる。全校生徒数2400人はあっという間に取り囲まれた。どさくさにまぎれたのか、金をつかませたのか、テレビ局の報道カメラマンまで混じっている。


 あー。終わった。俺の人生、何もかも。涙でかすんで視界がゆがんだ。もう、ちびっているし。トイレいきてー。絶対に漏れる。ここは一つ、俺の唯一の特技、逃げ足にかけてみるか。俺はゆっくりと手をあげた。


「あのー。トイレに行きたいのですが」


「あっ。先生!そういや、健太(けんた)のやつ。ラブレターが届いてましたよ」


 くっそー。出たな、石田三成。いや、もとへ、石田三美(いしだ みつみ)。俺を売る気か!この悪魔め。


 俺は彼女の腕をつかんだ。しかし、時はすでに遅し。自衛官たちが生徒をかき分けて俺のもとに向かっていた。俺はもはや籠の中の鳥。ただ、なすがままに彼らに捕まって引きづり出された。


「おお。すげー。山田のやつ。報道番組にドアップで出ている」


「ほんとだ。全世界同時配信。これでやつは有名人の仲間入りだね」


キミたち、生よりネット動画かよ。俺は自衛官に肩を押さえられながら出口に連れていかれる途中で、スマホを覗き込む生徒の声を聞いた。

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