禁書館ドタバタ新年会

華野 夏壱

1



ガヤガヤと賑わう宴会場。毎年恒例である新年会も終盤に差し掛かっていた。

「ふぅ…」

盛り上がりをみせる中、端の方で小さくため息をつく妖がいた。彼の名を葵葉(あおいば)という。緑の髪から覗く片目は虚ろで、頬は紅潮している。ふらふらと頭を左右に揺らしていた。

「大丈夫かい?」

ふと隣から葵葉を案ずる声が聞こえた。

「ロズ…少し飲みすぎたようです…」

再び小さくため息をつくと、飲みすぎたといいながらも手に持っている猪口を口に運びくいっと飲み干し、徳利へと手を伸ばす。

「こらこら、大分酔ってるじゃないか…もうお酒はおしまい。あとは水」

ロズと呼ばれた白髪の男は葵葉の手から徳利と猪口を回収し、水の入ったグラスを手渡した。すると取り上げられた事が気に入らないのか、ムスッと唇を尖らせた。

「酒…」

ちびちびと水を飲む葵葉を確認すると「ふぅ」短いため息をつき、辺りを見回した。少し離れた所には同じく司書をしている雨香(うきょう)の姿があった。しかし俯いたまま動かずに座っている。

(何か様子が…)

まわりの妖も心配なのか声をかけようかとあたふたしていた。見かねたロズは立ち上がり、雨香へと歩みより声をかける。

「雨香、大丈夫かい?気分が悪ければ部屋の外に…」

「…んん?ろじゅ?」

ピクリと反応し、とろんとした目でロズを見据える。


ーと、次の瞬間、目にも止まらぬ速さで移動し、ロズの背後へと回り込んだ。

ぱさり…

大騒ぎの宴会場で小さな音を立て床に落ちたのはロズのズボンだった。

「な…っ!」

突然の出来事にざわつく周囲と一瞬固まってしまうロズとは反対に雨香は奪ったベルトを垂らしニンマリと不適な笑みを浮かべている。

「ふむ…さすがに下着は履いていましたか……」

ガックリとひざから崩れ落ちるロズを気にもとめずチャリチャリと音を鳴らしながらベルトを揺らし次の目標を探している。そんな雨香に気づかずにロズの元へと駆け寄って来た妖がいた。

「……大丈夫ですか」

宴会のためか珍しく口布を外しているその妖の名をくちなしと言う。

「く、くちなし…来たら危険だ…」

ロズの肩を支えようとするよりも早く雨香の目がギラリと光り、また一瞬の隙に素早く移動し背後に回り込んだ。

「つぎは貴方にございます…」

「…!!!」

耳元で囁くと器用に腰ひもを外してしまった。はらりと落ちるズボンに信じられないと言う顔で立ち尽くす。

「ふふふ…如意……」

そう言い残すと雨香はくるりと背を向け、どこかへ去ってしまった。




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