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やっと学校について教室に入ると、美結が私に飛びついてきた。
「海莉!おめでとう!!」
「え、なに?どうしたの?」
「ちょっと、とぼけないでよ!
柊と付き合うことになったんでしょ!?
ねーねー詳しく聞かせてよー!」
…情報まわるのが早すぎるんだけど…。
「それなんだけどね…」
美結にはウソはつきたくなくて、本当のことを話した。
「なーんだ、そうだったんだ」
「うん、だから本当に付き合ってる訳じゃないんだ」
あんなに喜んでくれたのに、美結には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「でも、案外時間の問題かもよ?」
「またそんなこと言って。柊が私のこと何とも思ってない事、知ってるくせに」
「どーだろうね」
美結は含みを持たせる感じで笑ってる。
美結は、私が昔から柊のことを好きだって知っている唯一の友達。
あんな奴のどこがいいの?なんて美結いつも言うけど、なんだかんだでいつも恋愛の相談に乗ってくれる。
「でも何で今更、付き合ってるフリとかするわけ?」
「なんかね、見た目で近寄ってくる女子たちがイヤなんだって」
「えー今までもそんなの沢山あったんじゃないの?」
「そーだよね」
確かに高校に入ってから爆発的にモテてるけど、中学の時もそこそこ人気はあった。
今更と言えば今更だ。
「本当はもっと違うこと気にしてるんじゃない?」
「え、他に理由があるってこと?」
全然思い当たらないんだけど。
「誰かさんの為とかね」
「誰かさんって誰よ」
美結はさっきから楽しそうに喋ってるけど、何を言いたいのか私には全然伝わってこない。
「ま、せいぜい頑張んなよ!」
そう言いながら私の肩を叩いて、立ち上がる美結。
「あー今話しそらした!」
ちょうどその時チャイムが鳴って、美結の発言が気になったけど結局聞けなかった。
授業が始まるから、カバンの中から1時間目の授業の歴史の教科書を探す。
やばい。
教科書が見当たらない。
忘れてきちゃったのかな。
あの先生怒ると怖いんだよね。
今朝は柊のことで色々あったから、うっかりしていた。
チャイムなる前に気づけばよかった。
「教科書忘れてきたの?」
机の中やカバンの中をもう一度探していると、隣の席の坂城(さかき)くんが声をかけてきた。
「そーなの、最悪」
「じゃあ、僕の一緒に使う?」
そう言って机をぎぎーっとくっつけてきた。
そんな坂城くんを、まばたき多めで眺める。
「あ、ありがと。
…でも机はくっつけなくて大丈夫だよ?」
「でも、見にくいでしょ?」
おお!
教科書を見せてくれる上に、見やすさまで考えてくれている!
坂城くん、めちゃくちゃ優しい!
いつも柊のわがままに付き合わされてるから気づかなかったけど、普通の男子はこんなに優しいのか。
柊だったら自業自得って言われて見せてもくれなかっただろうな。
坂城くんの優しさに感激していると、先生が教室に入ってきた。
「先生、教科書忘れてきたんで、隣に見せてもらいまーす」
と坂城くんは先生に向かって言った。
私が忘れてきたのに、申し訳なさ過ぎる…!
でも坂城くんは先生に何を言われたって平気な顔をしていて。
心の中で、ありがとうってたくさん言った。
授業が始まってしばらくすると、坂城くんが教科書の端に何かを書き始めた。
何だろうと思ってその字を目線で追う。
”黒川と付き合ってるってホント?”
…すでに坂城くんの耳にも入ってる。
今朝、柊が放った言葉はたった二言なのに、恐ろしい程の浸透力でびっくりしてる。
男子だし本当のこと言っていいかな。
どーなんだろう。
なんて返事をしようか悩んでいると、ポケットに入っているスマホが震えて。
画面に視線を落とすと柊からのLINEだった。
”余計なこと言うなよ”
一瞬ドキッとして、廊下側の柊の席を見てみると、ばっちり目が合う。
うわ、めちゃくちゃ睨まれてるじゃん…。
分かったよ、言わないよ。
言わなきゃいいんでしょ!
「どうかした?」
柊に気を取られていると坂城くんが疑問に思ったのか聞いてきて。
「うんん、なんでもない」
そう言って、
”付き合ってるよ”
と教科書に返事をした。
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