2.




柊と一緒に帰ることになって廊下を歩いていると、案の定、女の子の目線が痛い程突き刺さる。



やっぱ柊って人気あるんだな。





幼なじみですよー!



ただの腐れ縁ですよー!



と自分に張り紙を貼りたいくらい。





柊のことは好きだけど、一緒にいるだけで嫉妬されるのは本当に勘弁。



だって、柊は私のこと何とも思ってないから…。





「なー。全然喋んないけど、どーした?」



「え?あ、そう?」



柊は、不思議そうな顔で私を見た。



こっち見ないでよバカ。



私はキョロキョロと周りの様子を伺う。



やっぱりこの雰囲気、無理ー!





私は周りにいる女の子たちの視線に耐えられず、柊の少し後ろを歩くことにした。



もう、隣なんて歩けない。





「変な海莉」



そんな私を見て、柊は首を傾げた。







校門を出て、やっとトゲトゲしい視線から解放された。



「ふぅ」



隣を歩くだけで、なんでこんなにも気を遣わなくてはいけないのか。



やっぱり一緒に帰るの断ればよかった。





「なー、どうしたんだよ?」



私がいろんなところに気を使っていることなんて知る由もない柊は、のんきに聞いてきて。



「どうした?じゃないよ!

柊は自分の人気度分かってる!?

柊と一緒にいるとこ見られて、勘違いした柊のファンに刺されたらどうすんの!?」



「ぶはッ何それ超ウケる!」



「いや、面白い話全然してないけど」





柊はお腹を抱えて笑っていて、何がそんなに面白いのか私にはさっぱり分からない。



「わりー、海莉が刺されないように今度から気をつけるわ」



「ホントだよ」



柊は自分の人気をちゃんと分かってるのか、分かっていないのか。





って、私も色々文句言ってるけどさ。



本当は誘ってくれた事、すごく嬉しかったんだ。





絶対柊には言わないけど。



言ったらどうせ調子に乗るに決まってるもん。







「で、何なの?」



人目を気にしなくてよくなったところで、疑問に思っていたことを聞いた。



「何なのって何?」



「柊が私のこと誘う時は、何か企みがあるでしょ?」



「企みって失礼だな。お願いしたいことがあんの」



柊から私に絡むときは、決まって何かを企んでいる。



お願いっ言い換えてるけど、そんな可愛いものじゃないってことは私が一番分かってる。





「俺の彼女のフリしてくんない?」



「彼女のフリ!?なんで!?」



ほら。

こうやっていつも唐突に、無理難題を押し付けてくる。





「ちょっと厄介な女につきまとわれてさ。

切りたいんだよね、お願い!」



顔の前でパチンと手を合わせて、お願いをしてくる柊。



そのあまりの可愛い仕草に、私の中の母性がうずく。



こんな時ばっかり可愛い子ぶりっ子しちゃって。



罠だと分かっているのに、柊のその可愛さは尋常ではなく、うっかり頷いてしまいそうになる。





「絶対やだ」



私は、首を縦に振りそうになるのをぐっと我慢して、そのまま横に振った。



「海莉には迷惑かけないから!

だからお願い!ね?」





ううう…。



かわいい…。



「でも…」



だって、今まで柊にお願されて何かいいことあった?



なかった!



私だってちゃんと学習するもん!





「やっぱ無理!」



私は思い切って断った。



このまま身を引いてくれますように…!





なんて私の願いなんて届くはずもなく。







「は?俺の言う事聞けないの?」





柊は、可愛くおねだり攻撃をやめて、完全な素の顔を出した。





やばい、怒らせちゃった。



柊は、そのまま真顔で私に詰め寄ってくる。





「オレの言う事聞かないと、どうなるか分かってるよね?」



今や私より20㎝くらい身長が高い柊は、私を見下ろしながらゆっくりと距離を縮めてくる。



こ、怖いですよ柊くん…。





このモードになったら、私が何を言っても聞いてもらえない。



結局、私に拒否権なんてないんだ。





「分かった!彼女のフリさせて頂きます!」



私が彼女のフリに承諾すると、柊は笑顔を貼り付けて解放してくれた。



「分かったんならよろしい」





柊は分かってる。



私が柊のお願いを断ることができない事。



悔しい。



だけど仕方ない。



だって好きなんだもん。

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