第17話女王の戦い方
チェコGPの決勝は作戦通り、スタートからポールポジションのスターシア、フロントローアウト側のエレーナ、そしてその後ろからの愛華の三人が揃ってロケットスタートを決め、一周目から先頭を苺騎士団で抑えた。
特に、エレーナと愛華のスタートは絶妙で、ジャンプスタートではないか?とジュリーがビデオで確認しなければならなかったほどだ。
ブルーストライプスのラニーニが三人の後についたが、エースのバレンティーナは、チェコの
エレーナの予想した通り、チェコツインズはコースのポイントを知り尽くしており、息の合った二人に巧みにパッシングポイントを抑えられ、バレンティーナをしても容易にかわせない。
先頭集団にはついていけないと判断したツインズは、せめてバレンティーナだけは抑えてやろうとブロックを堅めている。それが結果的に苺騎士団を援護する形となっていた。
これまでならバレンティーナのアタックにされれば、容易に道を譲らざる得なかった彼らっであったが、前回の愛華の走りに刺激を受け、バレンティーナ相手にも決して退こうとしない。
対するバレンティーナは、前戦、危険行為で失格を受けたばかりである。チームに対しても厳重注意を受けている。彼女たちはあまり強引な真似が出来なかった。
セカンドグループを脱け出せないバレンティーナたちを後目に、ストロベリーナイツはぐんぐんペースをあげ、それを追うラニーニを含めた四人でトップグループを形勢し、後続を引き離していった。
愛華があれほど手こずったコース後半の登り区間も、エレーナとスターシアのラインについて行けば、驚く程スムースに走れた。
(やっぱりエレーナさんとスターシアさんは凄いです!わたし、二人について行くならどこまででも行けそうな気がします。ずっと一緒に居させてください)
心の中で二人に語りかけていた。そして、昨日失礼な事を言った事を詫びる。やはり二人は世界一のペアであり、最高の先生なのだと改めて思い知った。
そして、自分も少しでも二人に近づきたい、最高のトリオと呼ばれるようになりたいと願った。少なくても二人の足手まといにだけはなるまいとの思いで、懸命に走った。
その思いを表すように、ストレートでは積極的に先頭を受け持つ。ストレートなら一番軽い愛華にメリットもある。風よけしか役立つことは出来なくても、二人のために全力で風を引き裂いた。
周回を重ねてくると、愛華にもこのコース攻略のラインが判ってきた。思いきって登り区間の先頭引きも志願する。やはり登りは軽い方が負担は少ない。愛華は覚え込んだスターシアのラインを正確に辿る。
愛華が登り坂をリードする事で、トップグループのペースは更に加速する。ラニーニはたった一人で、なんとかペースを乱そうとしつこくアタックを仕掛けるが、足並みを揃えた苺騎士団の牙城に歯が立たない。彼女の力では、スターシア一人でも厳しいのはわかっていたが、少しでもロスさせようと果敢に挑み続けた。
ラストラップ。
トップグループの最後尾にいたラニーニが、ストロベリーナイツの三人にマシンを並べた。だがこれまでと様子が少し違う。エレーナとスターシアも無防備に並ばせている。愛華が不思議に思っていると、ラニーニは三人に軽く会釈すると、スロットルを弛めスローダウンした。
エレーナとスターシアもペースを合わせ、左手で敬礼のようなポーズをした。愛華もやっと意味を理解して、同じように敬礼の真似をする。
ラニーニはエースであるバレンティーナが追いつけなくなった以上、トップグループにいる意味もなくなったのだ。
エースのために先頭グループをペースダウンさせようと果敢に攻めたが、その役割を果たせなかった。
ピットからの最後の指示は、バレンティーナの獲得ポイントを1ポイントでも多くするために、自ら順位を下げる事だった。エレーナもスターシアも、ここまで一人で頑張ってついて来たラニーニの健闘を称えたのだ。
ライバルチームのアシストであっても、一緒に走り、正々堂々と戦った彼女を称える姿に、愛華は感動した。愛華自身もその中に含まれていることに、彼女は気づいていない。
もう一度ラニーニに振り返ると、気づいた彼女が手を振ってくれた。
「いつかラニーニちゃんと本気で競い合ってみたいな」
愛華は一人つぶやいたが、今はまだお互いその時じゃない。今はお互いのエースのためにやるべき事をやり、学ぶべき事を学ぶ時だった。
二戦続けてのストロベリーナイツの圧勝であった。今回はつけ入る隙のないレース運びである。見せ場が乏しいと言えば、そう言えなくもない。しかし、それが女王の戦い方である。
レースファンの多くがイメージするエレーナのレーススタイルは、どんな劣勢な状況でも屈する事ない闘志で勝利を奪い取るというイメージだが、実際には今回のようなパターンの方が多い。
劇的なレースの方が、記憶に残り易く、語り継がれるものだから、そういったイメージが定着しただけで、チャンピオンを獲るには無駄なリスクは避けるべきというのが女王の戦い方である。そうでなければ、長いシーズンを戦い抜けない。
むしろエレーナの名レースと語られるレースほど、苦戦を強いられる状況に追い込まれた結果であり、彼女としてはしょっぱいレースと言えた。エレーナ自身、追い込まれた状況から這い上がる展開も嫌いではなかったが、すべき事を忘れないのがチャンピオンへの道である。
いずれにしろ、二戦続けての表彰台独占で、ひょっとしたら本当に大逆転があるのでは?と多くのファンを期待を膨らませたチェコGP決勝結果であった。
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