Lunanoid×Terranoid
Soh.Su-K(ソースケ)
01:少年と少女
少年は学校の屋上にいた。
手に持った携帯端末は数日前から同じ映像しか流していない。
人類が地球から宇宙に出て数十年。
月は新たな資源の産地として開発が進み、科学技術も飛躍的に進歩した。
らしい。
実際にそれらの恩恵を受けるのは財界や政界のいわゆるVIPのみだ。
少年の様な一般人は、月面に基地ができる前とさして変わらない生活を送っている。
車は空を飛ばないし、テレポートもタイムトラベルも出来ない。
漫画の様な、全身機械化した人間も未だにいない。
「はぁ……」
少年は携帯端末を学ランの内ポケットに仕舞った。
SNSでは戦争だの何だのと騒がれている。
原因は月だ。
月面都市・ルナシティが地球連合からの離脱、独立を主張しているのだ。
ルナシティとは、月の埋蔵資源を採掘、管理をするために月面に建てられた都市である。
そのルナシティが主権を主張し始めたのは、今から三十年前、採掘現場での事故が発端だ。
事故発生当時、ルナシティは地球連合の管理下にある施設としてしか認められていなかったため、救助隊の編制・派遣には連合会議での可決が必須であった。
宇宙開発に批判的な国家や武装組織も多く、それらによる妨害工作により救助に関する会議自体の開催が遅れ、結局実際に救助隊が現場に到着したのは事故から約一か月後。
現場で働いていた五百人近くの全ての人命が失われた。
これにより、ルナシティは地球連合内で特殊な都市国家としての地位を勝ち取り、事故等が発生した場合、連合議会の決議を待つ事なく、救助活動ができるようになった。
国家としての主権の獲得により、月面で採掘された月資源はルナシティから地球連合へ輸出される形になり、単価は上がり、地球での技術革新のスピードは著しく落ちた。
代わりに月面での実験等は以前よりも盛んになり、ルナシティは今や地球よりも優れた科学技術を手にしている。
それ以来、地球連合とルナシティとの関係はぎくしゃくしているのは言うまでもない。
そして、今回の騒ぎだ。
ルナシティで暮らす人間の六割は、月面で生まれ育った
その為か、ルナシティの『地球連合離脱・独立』論がさらに加速している様だ。
自分たちは地球に住む旧人類と決別し、新人類として更に宇宙開発を進めるという思想だ。
正直、どうでもいいと少年は思っている。
月と地球がどのような関係になろうが、自分が平和に暮らせればそれでいい。
しかし、戦争となるとそうもいかないのかもしれない。
全く、迷惑な話だ。
「あ、いたぁ」
背後から声を掛けられた。
振り返ると、小学校からの幼馴染の少女が立っていた。
「お前か。何か用か?」
少年は素っ気なく言う。
「何よその言い方ぁ。折角幼馴染の美少女が一緒に帰ろうって誘いに来たのにぃ」
少女はむくれながら言った。
「自分で言うな」
少年はそのまま学校の外の景色に目を移した。
そこからは街から少し離れた場所にある宇宙港がよく見えた。
一般人が使える宇宙港ではない。
地球連合の関連組織のみが使用できる。
資材運搬用の宇宙用貨物船がよく出入りしている。
元は米軍の軍事用空港だったらしいが、それはもう一世紀近く前の話だ。
「まーた港見てるの?」
少女が少年の隣に並んで立つ。
「あぁ」
少年は宇宙港を眺めたまま、上の空のように答える。
「ホント好きね。飽きないの?」
少女が少年の顔を覗き込むが、少年の目の焦点は少女を通り越して宇宙港に結ばれたまま。
「最近、便数が増えてる」
左手で少女の頭をどかしながら少年が言う。
少女は不服そうな顔だ。
「ルナシティと険悪なのに?」
少女は宇宙港に背を向け、その場にしゃがんだ。
空を見上げると、数年前に閉鎖され衛星軌道上に放置されたままの宇宙ステーションが肉眼で辛うじて見える。
二十世紀に打ち上げられたものではなく、二十一世紀に打ち上げられた二代目のやつだ。
解体・再利用も検討されているが、今のところ何も決まっていない。
「ルナシティに送ってるんじゃないかも。地球連合の宇宙軍の基地も人工衛星の軌道上にあるって話じゃん」
実際、閉鎖された宇宙ステーションに地球連合宇宙軍の一部が駐留しているとの噂もある。
しかし、実験棟のみで構成された宇宙ステーションに滞在できる人間の数は限られている上、大規模な改修をしなければ軍用として使えない。
新たに軍用宇宙基地を打ち上げた方がコストも安い。
所詮、噂は噂でしかない。
「じゃあ、軍備を整えてる可能性があるって事?」
少女はブレザーのポケットから飴を取り出し、袋を破って口に放り込んだ。
コロコロと口の中で飴を転がす。
「燃料費も上がってるって話だしな。一発やるかもな」
少年が左手を出す。
少女がポケットからもう一つ飴をを取り出して、少年に手渡した。
少年も飴を口に放り込む。
「花火みたいな言い方しないでよー。戦争とか嫌よ」
少女が携帯端末を取り出し、SNSのアプリケーションを起動させた。
友人からメッセージが届いているのだろう。
「起きたとしても宙域戦だけだろ。地上へ攻撃するのは非効率的」
コロコロと口の中で飴を転がす。
駄菓子らしいパイン味の甘みが口の中に広がっていく。
「そうなの?」
少女は携帯端末から目を離し、少年を見た。
「地上の一般人を殺したりしたら、ルナシティ内の世論は反発するだろ」
少年は否定的な意味でヒラヒラを左手を振って見せた。
「まぁ、そうだね。戦争は戦争屋同士でやってくれって話ね」
少女はまた携帯端末に視線を落とす。
自分たちには関係ない話だ。
そう少年たちは決めつけていた。
いつだって戦争は自分たちの知らない場所で始まって、知らない内に終わっている。
今回もそうだろう。
そう高をくくっていたのだ。
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