超人ハルコ!
八乃前 陣
第1話 ハルコとヒロ
☆プロローグ 愛猫フルーツ
思い出その一。
幼稚園の、入園式の帰りの出来事を、華乃ハルコ(はなの はるこ)と、幼馴染みの真部留ヒロ(まべる ひろ)は、今でもよく覚えている。
母に連れられる帰り道、近所の公園で、ハルコが捨てられていた子猫を見つけたのだ。
「あ~! ネコちゃんかわい~!」
ごく普通のブチ模様な牝の子猫は、少し汚れている。
にも関わらず、見つけたハルコは駆け寄って抱き上げて、その小さな顔にキスをしそうになっていた。
「うわ、ダメだよハルコちゃん。汚いからなめちゃ」
同い年な少年の注意もどこ吹く風で、ハルは汚れている子猫の額や頬に、チュっチュっとキスの雨。
「ほら、ヒロくんも」
言いながら、幼馴染みに子猫を近づける。
「わ! だから汚れてるよ~」
「も~ハルコったら」
駆けつけたハルコの母たちも、娘たちの猫愛に困った様子だ。
「ねーママー。この子うちの子にして、いい~?」
「んー…でもパパが動物、苦手でしょ?」
「むー…」
納得できない様子のハルコ。
子供にとって困難な交渉が成立したのは、ヒロの助けもあったからだ。
「しかたないなあ、ハルコちゃんは。僕も一緒に、お願いしてあげるよ」
二人で面倒見る、という約束。
母たち二人も、子供の情操教育にとってペットは良いと判断して、母の決断で飼う事になった。
こういう場合、父の意見は考慮されない。
子猫は嬉しそうに、小さくて高い声で「ニャ」と鳴いた。
思い出その二。
小学生の高学年になったハルコとヒロは、土曜日の今日、年に一度の予防注射を受けさせるために、動物病院へと向かう。
「ほらほらフルーツ、ケージに入りなさい~」
フルーツと名付けられた子猫はスクスクと育ち、楽しそうに追いかけてくる短いポニテの飼い主から、病院に連れられるのが嫌で逃げ回っている。
しばしの追いかけっこで、ハルコの手からスルりと逃げたフルーツは、待ち構えるヒロの手で捕まえられて、少し広いケージに入れられて観念をする。
「あはは。帰ってきたら、ご褒美にチューブのおやつ あげるからね」
言いながら、フルーツの額にキスをするハルコ。
「結局は僕が捕まえる事になるな」
このドタバタも毎年の事で、少年も慣れていた。
思い出その三
ハルコとヒロは中学生になっていて、成績の良いヒロは、この頃からメガネをかけていた。
夏も過ぎた秋の始まり。縁側で日向ぼっこをしているのは、年を取ったフルーツだ。
ポニーテールを揺らすハルコが、小さな頭を優しく撫でると、目を閉じたまま、心地よさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「猫はいいな~。ゴロゴロしてても怒られないし♡」
愛猫を撫でながら、小さな額にキスをするハル。
そんな少女の隣で、年頃になったメガネのヒロは、年頃らしいキツい進言。
「猫を羨ましがるな。ついでにハルコはゴロゴロしてたらすぐに太るぞ」
「ふ、太らないもん!」
いつの間にか、ハルコと呼び捨てなヒロ。
「そんな事より、期末試験の勉強するぞ」
「え~ん、私も猫になりたいよ~」
「とっとと来い」
自室に連行されるハルコ。
そんな飼い主たちの様子を、フルーツは大きな欠伸で見送っていた。
☆第一話 夢の中で
そして現在。
高校生になった、ハルコとヒロ。
平均的な身長に、恵まれたプロポーションのハルコは、肩まで届かないセミショートのサラサラヘアーで、ついでに成績があまりよくなくて、勉学は幼馴染みのお世話になっている。
愛らしくて明るい笑顔と、親しみやすくて優しい性格も相まって、男子たちにも多少の人気があったりする。
身長に恵まれたヒロは、整った面立ちにメガネも知性的で、成績は学年で常にトップスリー。
涼し気な目つきとクールな性格、なのにスポーツの試合などでは意外と熱くなるギャップ萌えなどで、女子からの人気が高い。
学ランとセーラー服の二人は、土曜日の夜、ハルコの部屋で向かい合っていた。
すっかり年を取った愛猫は、最近は寝てばかりで、以前のように庭へパトロールに出る事も無い。
今も、ただ丸まって眠っているように見えるけど、ここ二週間ほど、ほとんど餌を食べていないのだ。
「フルーツ…大丈夫?」
フルーツの変容に、ヒロは色々と調べたり獣医の先生に聞いたりした結果、老衰なのだろうと理解していた。
最後に獣医さんに診てもらったのは、一週間前。
お医者さんも遠回しに老衰だと診断したけど、優しいハルコには、それは辛い現実でもあった。
ヒロは今、黙って傍らで幼馴染みを見守っている。
フルーツが小さく「ニャ…」と鳴いて、命の火を燃やし尽くした。
「フルーツ…フルーツ…っ!」
愛猫の死を実感するしかないハルコは、声を上げて泣いた。
ヒロは黙って見守っていた。
「フルーツのお墓…庭に作ってあげたい」
「ああ…」
大きな柿の木の根元に、ヒロが穴を掘って、ハルコが愛猫を静かに下す。
「………」
しばらく別れを惜しんで、ヒロが優しく土を掛ける。
「さよなら…天国で楽しく過ごしてね、フルーツ…」
涙を抑えられないハルコに、ヒロが告げる。
「病気もせずに天寿を全うしたんだ。フルーツも、ハルコに拾われて幸せな一生だったさ」
二人は明るい満月を見上げていた。
それから一週間ほどが過ぎた、ある夜。
ハルコがいつも通り、窓からフルーツのお墓に、おやすみの挨拶をする。
「それじゃ、おやすみね フルーツ」
ヒロの部屋にはまだ電気が点いていて、窓に映るシルエットは、机に向かっているのだとわかった。
ベランダ伝いで行き来できる距離のお隣さんだけど、中学生になったあたりから、特にヒロは、部屋に来る事が無くなっている。
「お休み、ヒロちゃ~ん」
シルエットに軽く手を振って、ハルコはベッドに入った。
白い夢の中、子供のころだと認識できる縁側に腰かけていると、頭上から声が聞こえてくる。
「ハルコちゃん、ハルコちゃん」
見上げると、天使の羽根と光輪が輝くフルーツが。
「あ~っ、フルーツ~! わ~い元気~? あれ、なんでしゃべれるの? なんで羽根が生えて空を飛んでるの~?」
心底からの嬉しい笑顔で、矢継ぎ早に質問をするハルコ。
「うんまぁ、全部、死んじゃったからなんだけどね」
猫らしくドライな答えのフルーツも、ハルコに会えて嬉しそうだ。
ハルコは久しぶりにキスしようと、手を伸ばしてピョンピョンするけど、届かない。
頭上のまま、フルーツは語りかけた
「ハルコちゃん。生きてる時はいっぱい幸せにしてくれて、ありがととうね。ハルコちゃんたちのおかげであたし、赤ちゃんの時に飢え死にしないで、すっごく楽しい一生だったわ…」
笑顔のまま、しかし涙目で、ハルコは聞いている。
「でねでね、あたしすっごく長生きできたから、軽く妖怪化しちゃったわけ。いわゆる妖猫って感じ?」
「よう、びょう…?」
ハルコには、よくわからない。
「でねでね。幸せにしてくれたお礼に、ハルコちゃんの夢を一つだけ叶えていいって、神様が権利をくれた感じなのね」
「?」
フルーツがハルコに向かって尻尾を振る。
「ニャンニャカニャ~ン♪」
キラキラした虹色の粒が降り注いで、ハルコの体が数舜の間だけ柔らかく光り、その光が体に吸収された。
「ほらほら。ハルコちゃんよく ネコになってみたいって言ってたでしょ? 今の光はあたしの妖力を分けた みたいな感じなのね? これでハルコちゃんは、どんな動物にも変身できるようになった感じなのね」
「動物になれる? 何それ~!」
なんだか良くわからないけど、フルーツが何かの力をくれた、という事は理解したハルコ。
「でねでね。変身のワードは、変身したい動物を見れば頭に浮かぶからね。ネコだったら、ネコを見ながら『ニャンニャカニャ~ン』とか、鳩だったら、鳩を見ながら『ポッポロポ~ン』とか、そんな感じなのね。元の人間に戻る時は…そうね『戻れ』でいいと思うから」
「ニャンニャニャ~…あれ、フルーツ?」
ワクワク顔で話していたら、フルーツの体が空へと昇ってゆく。
「待って! 行っちゃうの~っ?」
またフルーツとのお別れで、寂しさが蘇ってしまう。
「まあまあ、変身はやってみればわかると思う感じだけどね。ヒロくんは頭が良いから、ヒロくんに色々と確かめて貰ってね。それじゃあね、ハルコちゃん」
言いながら、フルーツは天からのまばゆい光に溶けて、昇ってしまった。
「フルーツ~!」
「フルーツ…あ…」
自分の声で目が覚めると、良く晴れた朝だった。
「フルーツ…」
窓から見上げた空には雲一つなく、ハルコは涙がこぼれているのに気が付いた。
☆第二話 ニャンニャカニャ~ン!
「–それでね、空を飛んでるフルーツが言ってたの! 猫になるにはニャンニャカニャ~ンとか、ハトになるにはポッポロポ~ンとか!」
翌朝、いつもの通り一緒に登校している、ハルコとヒロ。
ハルコは、まるで実体験としか思えない、昨夜見た夢の話を、一生懸命にしている。
対して、幼馴染のメガネ少年は。
「朝からニャンニャカニャンとか何だ」
当たり前に、無表情で呆れていた。
「何よ~、ヒロちゃんはフルーツが嘘を言ったと思ってるわけ~? きっと私っ、動物に変身できるようになったんだよ! どこかに猫とかいないかな?」
キョロキョロしだした幼馴染みに、可哀そうな子を見る目を隠さないヒロだ。
「フローツが人語を話せたとしても嘘は言わないだろって言うか、ハルコなに寝ぼけているのだって話だ」
「え~、だって本当にフルーツが~」
とっとと先を歩く少年に、慌てて速足になるハルコだった。
夜。
お風呂上りのハルコは、パジャマ姿で自室に戻ってくる。
「は~サッパリした~」
窓を開けて夜風を感じると、ほてった体が冷まされて気持ちがいい。
雲のない夜空は星と三日月が輝いていて、ちょっと神秘的な気持ちにもさせられた。
庭にたてた愛猫の御墓が、なんだか微妙に輝いて見えた気もする。
「ヒロちゃん、まだ起きてるんだ」
窓に映るシルエットは、机に向かって何やら勉強している感じだ。
「ヒロちゃん勉強家だな~。私なんてすぐ寝ちゃうのに~」
幼馴染みの勤勉っぷりを、なんとなく頼もし気に感じて眺めていると、ベランダに小さな来訪者がやってきた。
「あれ、子猫だ。おいでおいで~」
可愛い来客に笑顔がこぼれ、つい掌をヒラヒラさせる。
小さなブチ猫が、警戒心よりも好奇心を刺激されたように、少女の指先に桃色な鼻を寄せてきた。
「いい子いい子~」
顎の下を優しく撫でたら、目を閉じてウットリしている。
「人に慣れてるんだね~。あ!」
ハルコはフと、フルーツの夢を思い出して、なんとなく試してみようとか思う。
「え~と、猫を見ながら『ニャンニャカニャ~ン』だっけ?」
呪文を終えると、少女の体がボっと光った。
「え–」
ハルコの認識では、視線の高さが二秒くらいで急に低くなって、目の前の全てが大きくなったように見える。
(あれ? 何? あ、子猫)
さっきまで撫でていた子猫が、目の前で同じ大きさになっている。
と言うか。
(なんで急に、みんな大きくなっちゃったの? あ!)
見回すと、視界の下方に猫の前脚が。
気づいたら四つん這いになっていて、お尻の方に尻尾らしき重さを感じる。
(わっ、私ネコ!?)
「ニャっ、ニャアアアっ!?」
言葉が、小さくて甲高い子猫の鳴き声。
窓ガラスに映った自分の姿は、完全にブチの子猫になっていた。
(わ、私っ! 本当に変身できちゃったんだ!)
驚いたのはハルコだけではない。子猫もビックリして、逃げてしまっていた。
(フルーツの事…やっぱりただの夢じゃなかったんだ~! すご~い!)
変身体験が嬉しくて、しばし全身を眺めて楽しむ。
(ヒロちゃん嘘だって言ってたけど、変身できたんだからね! あ、そうだ!)
幼馴染みの部屋の窓には、まだ勉強しているシルエットが映っている。
(えへへ、このままヒロちゃんを脅かしちゃえ!)
子猫となったハルコは、まさしく猫の身体能力でベランダをヒョイと飛び越えて、幼馴染みの部屋の窓へと到着。
窓の外から影を見ると、子猫サイズなハルコにして、山のように大きく感じる。
(…なんだかいつもよりすごい感じ…)
ちょっとドキドキしてしまう。
(そうだ、ヒロちゃんに見せてみなきゃ)
目的を思い出して、窓の外から呼んでみる。
(ヒロちゃ~ん!)
「みゃあぁ!」
数回と鳴いたら、気づいた少年が窓を開けた。
「…ん? 子猫か。どした?」
子猫を見つけた少年が、子猫を抱き上げる。
大きな両手で包むように、やさしくフワっと持ち上げられたハルコ。
(わわ…ヒロちゃんの手、おっきい!)
「はは。お前、怖がらないんだな。よしよし」
言いながら、優しい笑顔で顎の下を、親指の腹で撫でてくる幼馴染み。
(はわわ…なんかすっごく、心良いな~)
なんというか、愛情みたいな暖かさを、撫でてくる指から感じる。
それに。
(ヒロちゃん、すごく優しい笑顔…。そういえば、子供のころはよくこんなふうに笑ってた気がする)
少年が、幼馴染みへの恋心を意識してから、恥ずかしさもあってあまり笑わなくなった事など、もちろんハルコが知る由もない。
顎を優しく撫でられて、つい頭をこすりつけたり。喉もゴロゴロと鳴ってくる。
大きな手の中が気持ち良くて、コロんと転がって姿勢を変えた。
「お前メスだったのか」
(ハっ!)
猫のままに、油断していた。
(よ、よくも見たな~! 私だって、子供のころのヒロちゃんしか見た事ないのに~! ずるい!)
恥ずかしさと理不尽な怒りで睨む子猫に、ヒロは「?」顔。
(よ~し! こうなったら目の前で人間に戻って、ヒロちゃんをビックリさせてやるんだから!)
大きな手の中から勉強机の上に飛び降りると、企む目でニヤニヤしながら、少年を見上げる。
「? どうした?」
子猫の様子をうかがう幼馴染みを前に、ハルコは頭の中で、フルーツに教わった戻りの呪文を考えた。
(えっと…人間に戻れ~!)
唱えると同時に、子猫の体がポワっと光り、元の大きさに戻って行くのが、視界で分かる。
「!?」
突然、子猫が発光して大きくなり人型になった怪現象に、少年はメガネの下の両目を大きく見開いて、呆気にとられていた。
ほぼ一瞬の光が収まると、机の上には、膝立ち姿勢のハルコが。
「じゃんじゃじゃ~ん! 子猫は私でした~!」
「ぅうわあああああっ!」
驚いたヒロが、椅子ごと後ろに転げる。
イタズラ成功で、勝ち誇るハルコ。鼻高々で、得意げに胸を張る。
「ふっふっふ~。どう、ヒロちゃん? フルーツの言ってた事、本当だったで–」
「お、お前っ! なんて恰好してるんだっ!?」
真っ赤になったヒロが、凄く慌ててる。
「? なんて恰好って、いつものパジャマ–」
言われて自分の姿を見たハルコは、一瞬だけ認識が遅れる。
子猫から人間に戻ったハルコは、猫耳と猫グローブ、猫尻尾に猫ブーツを身に着けた、裸だった。
平均よりも恵まれたバストやくびれたウエスト、広い腰や白くて丸いお尻、更に秘すべき処が、全て肌のまま。
「っ! えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!? ななっ、なんで~っ!? ヒロちゃん見ないでエッチ~っ!」
裸の身体をネコグローブの手で隠しながら、真っ赤になって慌てるハルコ。
「バっ–と、とにかく何か着ろっ!」
耳まで赤くなった少年が、顔を逸らして怒鳴る。
「わ、私のパジャマっ! あれっ? ヒロちゃん私のパジャマ知らない~っ!?」
「知るかーっ!」
ハルコは裸のまま、ヒロのベッドからタオルケットをひったくった。
翌朝。
登校しながら、ヒロはハルコへと、熱く考察を語っていた。
「昨夜あの後、父が飼育している金魚や母が飼っている文鳥で変身を試したよな。そこから分かった事を、俺なりに考察してみたのだ」
「うんうん」
こういう、頭を使う難しい事になると、少年の目はメガネの下でキラキラと輝く。
それは、子供のころから全く変わっていないと、ハルコは思う。
「まず、ハルコの変身を『アニマル化』と仮称するが、大きく分けて、二つの状態を発現できる。と考えられる」
「うんうん」
「その能力とは…
①動物そのものになれる。
②ハルコの姿に動物の特徴が混ざった感じ。
だな」
「そ、そうだね~…」
言われたハルコは、昨夜の子猫姿と、その後に裸を見られた事を思い出して、ちょっと恥ずかしい気持ちだ。
対してヒロは、知的好奇心が盛大に刺激をされているからか、恥ずかしいなど微塵もなさそう。
「で、だ。①は、姿と能力はハルコが見てアニマ化した動物のそれだが、意識はハルコ自身。動物の能力を自在に使えると同時に、舌などもアニマ化しているため、人語での会話などが不可能になる」
「あ~、たしかにそうだったね~」
言われてみれば、アニマ化した時、話す事が出来なかった。
「そして②だが、ハルコの体と意識をベースにして、動物の特徴も発現している状態だ。この状態だと、外見は人間そのものではなく人獣一体のような、ある種のコスプレのような姿になり、動物としての能力も使用できる。唯一の難点は、姿はほぼ人間に戻っているのに衣服が戻らない点だ」
「そ、そうだね~…」
昨夜、ヒロの家で金魚などに変身をした際には、すでにパジャマが消失していた事もあって、タオルケットを外した裸になってからアニマ化をしていた。
実験とはいえ、何度もヒロに裸を見られてしまったのに、ヒロは怪現象への探求心に捕らわれて、全く恥ずかしそうではなかった。
(私は恥ずかしかったのに~!)
それが、乙女心としては恥ずかしくて悔しい。
同時に、ちょっと頼もしくも思えてしまって、それもまた悔しかったり。
「でも…」
ハルコが素直に思うのは。
「やっぱりヒロちゃんに相談して正解だったね~。私一人じゃ、こんなにいろんな事、わからないもん! 頭使うのが好きな人って、やっぱり頭い~んだね~!」
と言われたヒロは、照れ隠しのように咳払いをして。
「と、とはいえ、まだわからない事がある」
「なに~?」
少年は真面目な顔で、考察を語る。
「昨夜、ハルコが消えたと言っていたパジャマだ。俺の家での実験の時は、貸したタオルケットを外してからアニマ化していたから、無くなる事はなかったな」
「う、うん…」
裸のハルコを前に、文鳥の籠を持ってタオルケットを受け取るヒロの姿が思い返されてしまう。
「ハルコのパジャマが消失した原因が、アニマ化に起因していると考えて、ではパジャマには何が起こったのか…。何らかの形でエネルギー変換が行われたと考えるのが正しいと思われるが、ハルコの体だけでアニマ化できた事実と照らし合わせると、パジャマは何に変換されたのか。それがまだ解明されていない–」
真面目に、しかし知的好奇心を刺激される楽しさを隠せない幼馴染みに、ハルコが告げる。
「あ、パジャマ? あれね、実験の後、部屋に戻ったら、あったよ!」
「…え…?」
ヒロは無表情だ。
「きっと服とかはさ、勝手に私の部屋に戻っちゃうんじゃ–」
実に単純で明快な真実。
少年は、仮説とかを熱心に語っていた自分が急に、とんでもなく恥ずかしくなってしまう。
「なぜそれを早く言わんかーーーーーーーっ!」
「え~ん。だって聞かれてないし~!」
幼馴染みの恥ずかし激怒に、頭を隠して避難するハルコだった。
☆第三話 ポッポロポ~ンっ!
放課後。
校門で待っていたヒロの元に、掃除当番だったハルコが駆けてくる。
「ハルちゃんお待たせ~! あ、なに飲んでるの? タピオカミルクティー?」
少年が手にしているカップの、薄茶色の液体と黒い粒々に、興味を持った少女。
「その名称で言うなら、コーヒーゼリーカフェオレだ」
コーヒー好きなヒロは、よくこうやって、市販のコーヒー系をミックスして楽しんでいた。
今回のは、市販のカップのアイスカフェオレに、同じく市販のコーヒーゼリーを混ぜた物のようだ。
「え~何それ? 一口ちょうだい~!」
「あ、こら」
同意も得ずにカップを奪うと、ストローに口を付けて一口頂く。
二人で駅に向かいながら、幼馴染みのお手製ドリンクを勝手に楽しむハルコだ。
「ん~、あ、美味しい~! ちゃんとストローにドポポって入ってくるね~!」
「お、お前なぁ…」
間接キスに、少年はちょっと恥ずかしい感じなのに、ハルコは気にせず、また一口。
「もう少しだけ~。だってすっごく、美味しいもん~♪」
「一口とか、そういう事はだな…他人と簡単にする事じゃあ…」
「? 私、ヒロちゃんからしか貰わないよ?」
「え、そ、そうか…。いやだから、そういう話ではなくて、だな…」
なんだか、笑顔になってしまいそうな自分を必死に抑え込んでいるようなヒロだ。
「こくんこくん…とにかく私、ヒロちゃんのおかげで、アニマ化について随分と解ったし!」
嫌な予感に、表情が鋭くなるメガネの少年。
「この力で、困ってる人とかドンドン助けちゃうよ!」
思った通りな少女の正義感に、幼馴染みがブレーキを掛ける。
「やめとけ! アニマ化と言っても、言い換えれば人間サイズの動物ってだけの話なんだ。だいいち、騒ぎになったら色々と面倒になる! ハルコの正義感は俺も認めるが、お前はせいぜい、子猫と一緒に日向ぼっことか楽しむくらいにしとけ!」
すごく正しい幼馴染みの提言に、しかし少女の正義感は不満だ。
「え~。でもでもさ、昔から言うじゃない? なんだっけ、大いなる力には大いなる責任が伴う。だっけ?」
「人による! とにかく、俺が心配になるような事は–」
言いかけたタイミングで、銀行から悲鳴が聞こえてきた。
「き、金塊泥棒だああああっ! 誰か止めてくれええっ!」
「「えっ!?」」
思わず、二人でハモって驚いてしまう。
ツリ目を更に吊り上げさせる程の慌てようで、銀行員らしい男性が助けを求めている。
その背後、狭い横道から、黒いワゴンが逃走開始。
窓から見えたのは、覆面姿の三人組と、銃らしき物騒な影。
「ヒっ、ヒロちゃん大変っ! 警察っ!? 警備会社っ!?」
慌てるハルコに比して、ヒロは冷静な行動をする。
「警察への通報は銀行や周りの人たちが既にしているだろう。というか…なんだか気に入らないな…」
ヒロは、悲鳴を上げた男性銀行員らしき人物に、違和感を感じている。
「この手の事件…わざわざ大声をあげて騒ぐか? 銀行のイメージ低下を考えると、むしろ密かに処理すべき懸案だと思うが…」
そんな幼馴染みの意見など、まったく耳に届かない様子のハルコ。
「わ、私っ! あの車を追いかけるよっ!」
ヒロの懸念していた、ハルコの正義感の強さが、黙ってはいられないのだ。
「えっ–こら!」
少年の制止も聞かず、カバンを投げ預けて走り出す少女。
「待てハルコっ–あいつ、なんであんなに足が速いんだ!」
二人分のカバンを任された少年は、慌てて幼馴染みの後を追うものの、距離は開くばかりだ。
遠ざかる車を追いながら、ハルコは頭上を飛ぶ鳩に気づいた。
「車って速い–あ、そうだ!」
周囲に人がいるかとか全く気にせず、鳩を見上げて呪文を唱える。
「鳩にな~れ! ポッポロポ~ンっ!」
走る少女の体がボっと光ったと思ったら、一瞬で光が小さくなって、ハルコが鳩になった。
舞い上がる鳥類ハルコは、逃走車のスピードにも余裕で追いつく。
(泥棒なんて、絶対に許さないんだから!)
幼馴染みの変身を見ていたインドア系な少年は、今にも息が切れそうな絶息具合だ。
「あ、あいつ…ぜぇ、ぜぇっ–くそっ、見失うっ、わけにはっ–!」
このまま見失って、ハルコに何かあったら–。
そう思うと、なにがあっても少女が変身した鳩を見失うワケにはゆかなかった。
車を使っての逃走は、遠距離ではなく意外と近距離で乗り換える作戦だったらしい。
金塊泥棒の乗った黒いワゴンは、人通りの少ない川沿いの、扉すらない廃工場の中へと滑り込む。
工場は廃棄されて時が過ぎていて、狭い入り口が一つとガラスの割れた窓、コンクリートが剥き出しの壁や、鉄筋の柱と、入り口の近くの三か所に廃棄物が積まれただけ。
工場の中には白いワゴンが停められていて、三人組の強盗が急いで、積み替えを始めた。
リーダーらしい太ったマスクマンが、ノッポとチビの二人に指示をする。
「ウラウラっ、ノツポもチビも早くっ、金塊を白いワゴンに積み替えろってんだっ!」
「へぇえ~い」
「ア、アニキも手伝ってくださいやっ!」
「バッキャロー! 俺様はリーダー兼頭脳担当兼見張りだぁ! ガッハッハ!」
重たい金塊をひ弱な部下たちに運ばせて、肥えたリーダーは廃材に腰かけ、煙草を一服。
怠けているとはいえ、手にマシンガンを保持しているあたり、自分の為にも見張りはこなしている様子だ。
廃工場のガラスが割れた窓に、鳩が一羽。ハルコだ。
(車を乗り換えて逃げる気なんだわ! そうはいかせるもんですか!)
車から金塊を取り上げようと、黒いワゴンに接近をして、二十ほどもある塊の一つを持ち上げようとする。
(お…重い~!)
鳩の筋力では持ち上げられない重量。必死に羽ばたく鳩に、ノッポが気づいた。
「あれぇ? 鳩だよ鳩~。何してるんだ~?」
敵意のない、愛でるような言葉で、手を伸ばしてくるノッポだけど、ハルコからすれば危機である。
(まずい!)
慌てて飛び上がると、ノッポは「可愛い鳥に逃げられた」感を丸出しの、残念そうな顔でションボリとした。
(どうしよう! このままじゃ、逃げられちゃう…こうなったら!)
正義感の強い鳩が、強盗団に向かって急降下で攻撃。嘴を伸ばすように、男たちの頭をツンツンとつつく。
「あいたたたああ~」
「うわうひゃあわわっ!ア、アニキ~!」
ノッポとチビに打撃を加えるものの、せいぜい金塊を落とす程度で、犯罪をやめる気はない様子だ。
部下の悲鳴を聞きつけたリーダーが、鬱陶しそうに振り返る。
「なんだあ? お、鳩じゃねぇか」
太った男が、涎を垂らしながら、ノッシノッシと歩み寄ってくる。
「なかなか美味そうな鳩じゃあねぇか。今夜の酒盛りにピッタリだぜ。ヘッヘッヘ!」
食べる気マンマンで手を伸ばしてきて、ハルコは慌てて屋根まで逃げた。
(冗談じゃないわよ! でも、どうすれば…あ!)
キョロキョロとして、窓の外に見つけたのは、いかにもな成金がこれ見よがしに散歩をさせている、大型のシェパード犬。
「ヘェ~イ庶民ども~! 七百万もしたワシの高級シェパード『ゴールデンダイヤモンド号』様のお通りだぞ~! 道を開けろウェ~イ!」
(丁度いいタイミング!)
ハルコは高級シェパード「ゴールデンダイヤモンド号」の頭の上に停まると、頭の中で呪文を唱える。
(犬にな~れっ! ワンワワワ~ンっ!)
「ん? なんだこの汚い土鳩っ–ひえっ!」
小さな体がポっと輝き、成金が驚くと同時に大型化。
光が収まると、愛犬の目の前には、牝の可愛い、大型シェパードの姿があった。
「え、えええ~っ!?」
「ワキャ~~~ンっ!♡」
突然現れた犬に成金は腰を抜かし、なかなか美形な牝の姿にゴールデンダイヤモンド号は目がハート。
(これならっ!)
ハルコシェパードが現場に向かって走り出すと、ゴールデンダイヤモンド号もハルコシェパードを追って、飼い主を引きずりながら激走を開始した。
「ワキャキャ~ンっ!」
「ま、待てゴールデ–ひえええっ!」
泥棒たちが金塊の積み替えを終えた頃、ハルコシェパードが現場に駆け付ける。
白いワゴンの運転席にはリーダーが座り、残る二人は後部のドアを閉めるタイミングだ。
(あ、逃げるつもりね! いかせるそうはモンですか!)
「ワンワン!」
「わあ、でっかい犬だなああ」
ホッコリ笑顔のノッポ泥棒。
「うわうひゃあわわっ、ここここの犬っころおおおっ!」
対して、チビの泥棒が、怯えながら銃を向けてきた。
(きゃっ、危ない–そうだ!)
ハルコも驚いたものの、しかし犬の本能か、左右にブレながら走れば当たらないと、直感が教えてくれる。
右に左に素早く動きながら失踪して、アっという間に泥棒たちの中へと乱入。
吠えながら男たちを威嚇すると、大口を開けてアワアワしているチビ泥棒の腕に噛みついた。
軽く牙を食い込ませて、手にしている銃を手放させる。
「うわうひゃうぎゃあああっ! 痛てぇよおおおっ! アニキ助けてくれえぇっ! 腕がっ、腕が食いちぎられちまったあああっ!」
血が滲んだ程度の右腕を抑えながら、チビ泥棒が七転八倒。
(うわ! この人の腕、臭いしスッパいし気持ち悪い~!)
隣でボンヤリ眺めていたノッポ泥棒の銃は、前脚でペチンと叩き落す。
「あれええ、ピストルが落ちたよおお」
残るは、運転席で陣取る肥えたリーダーだけだ。
(あの人にも噛みつかなきゃ! でも、おええ)
泥棒の腕の臭さが頭をよぎり、軽く嗚咽してしまうハルコシェパード。
そんな一瞬が隙になってしまったのか、車から降りて来たデブリーダーに、ハルコは冷静なタイミングを与えてしまう。
「なんだぁ? お、でかい犬じゃあねーか! さっきの鳩の代わりに、コイツで祝杯といこうぜ!」
(え、また食べる気!?)
ニヤニヤしながら、男が銃を向けて、容赦なく撃ってくる。
パン! パン!
乾いた音が、廃工場に木霊する。
肥えたリーダーの銃撃に躊躇いはなく、ハルコは避けるだけで精一杯だ。
(きゃっ、危ないじゃない!)
ハルコはとっさに、出入り口に近い廃棄物の物陰へと走る。
ハルコシェパードは銃撃を避けて身を隠したものの、しかしリーダーの男は、犬への食欲には特に執着もなかった。
「ち、逃げられたか。まあいい、金ならドッサリあるんだ。ウラお前ら、とっとと車に乗れってんだよ!」
(ここ、このままじゃ、逃げられちゃう!)
ハルコは焦って、周囲をキョロキョロ。
(な、何とかしないとっ–何か何か–)
すぐ隣に、壊れたモーターが落ちていた。大きさはバレーボール程で、投げつけるには丁度いい感じだ。
(これを車に投げて–あっ、でも私、いま犬っ–そうだ!)
ハルコシェパードは頭の中で、半アニマ化といえる、中間の姿を思い浮かべる。
(ヒロちゃんの説明だと、人間の姿で動物の力が使えるって…は、半分戻れ~っ!)
ハルコが呪文を唱えると、全身がポっと光って、人間のシルエットに戻った。
その姿は、犬耳と犬しっぽ、犬手袋に犬ブーツを身に着けた、体は裸。
「こ、これなら!」
正義感の強いハルコは、自分が裸である事よりも、泥棒たちを逃がさない防犯の意思で燃えている。
「このモーターを…あ、軽い!」
ヒロの説明の通り、身長に合わせて動物の身体能力を身に着けている今のハルコにとって、中型モーターなど、バレーボールの如き重量だった。
泥棒たちの車が、エンジンをスタート。
「あ、逃げられちゃう!」
一つしかない出入り口に向かって、白いワゴンが走り出す。
ハルコは裸のまま、モーターを両手で持ち上げると、走り出した車の前で仁王立ち。
半裸の犬コスプレ少女という非日常に、泥棒たちは一瞬、認識が追い付かなかった様子だ。
「え…ウラウラなんだああっ!?」
真っ直ぐ走ってくるワゴンに向けて、ハルコは中型モーターを放り投げた。
「ええ~いっ!」
四十キロ以上もある金属の塊が、ワゴンのフロントガラスに、バリャアアアンっと直撃。
「ウラウラっ、うわわわわっ!」
ガラスが全面でひび割れて、前方の視界が真っ白になったワゴンは運転を誤る。
壁際のスクラップに乗り上げると、まるで昭和のアクションドラマの如く、盛大な横転を見せて止まった。
「ウララ…きゅう」
泥棒の三人組は車から這い出たものの、全身強打が原因で、その場で気絶。
ワゴンの後ろ扉もガラスが割れて、奪った金塊がゴロゴロと転げ出ていた。
「ふう…あとは警察に通報…あっ、ケータイない!」
アニマ化した時点で、制服と一緒にケータイも自室へと転送させているから、通報のしようもない。
そのうえ、事件が解決してみれば、現場に残されたのは気絶している犯罪者たちと、裸の自分だけ。
「きゃっ! ど、どうしよう! ハっ!?」
しかも廃工場の入り口から、アニマ化の参考にしたシェパードが駆けこんできた。
「ま、まずいまずいっ!」
慌てて、窓の外の草むらに隠れる。
ハルコの匂いを探しているらしいゴールデンダイヤモンド号を追って、飼い主の成金も到着。
「ぜぇ、ぜぇ…おおい、七百万もしたゴールデンダイヤモンド号や~い…ん?」
転倒しているワゴンに気づいた、成金氏。
「やや、これは…! さっきネットニュースの最新情報で出ていた金塊泥棒たちではないか! おお、ゴールデンダイヤモンド号よ! お前がやっつけたのか! ワシに似て、なんと勇敢で賢いイケメンなのかっ!」
成金氏は高度な自己満足をしながら、金ピカなケータイで警察に通報をする。
そんな様子を、ハルコは裸のまま、草むらから確認していた。
「ふう…これで事件は解決。銀行員さんも、安心ね。それにしても…」
半アニマ化を無意識に解いてしまって犬の要素が無くなり、今のハルコはただの全裸少女である。
「ど、どうしよう! 夜まで隠れて、コッソリ家まで…って、遅くなったらママに叱られるよ~!」
「だ…だから、待てって…言ったのだ…ぜぇ、ぜぇ…」
背後の声にドキっとして振り返ると、メガネの幼馴染が立っていた。
「ヒ、ヒロちゃん!」
「まったく…ぜぇ、ぜぇ…こうなる事も、考えろ…はあぁ」
息を切らして全身汗だくで、片腕で二人分のカバンを、胸には途中で拾ってきたらしい子猫を抱いている。
ヒロはハルコを心配して、走って探して、追い付いてきたのだ。
「す、すぐに警察が、来る。この子猫で、アニマ化しとけ。俺が、連れて帰るから…! ふぅ…」
無謀な幼馴染みを見つけて、少年はようやく安心をして、息をつく。
「…ヒロちゃ~ん!」
「バ、バカお前…っ!」
そんな幼馴染みに、ハルコは裸のまま抱き付いていた。
翌朝。ハルコとヒロはいつも通り、一緒に登校をする。
「ふわわ…昨日は疲れた~。なんか、ごはんもいっぱい食べちゃったよ」
「ふむ…アニマ化して身体能力が上がったぶん、使用されるエネルギーも増える。という事なのだろうな」
「? ん~…難しくてよく良からないや」
頭を使う事が苦手なハルコは、明るく笑う。
ヒロは、ちょっと言いにくそうに尋ねて来た。
「ハルコ…今朝のネットニュース、見たか?」
「えへへ~。私、ニュースとか眠くなっちゃって…」
「だろうな。お菓子だけじゃなく、少しは世の出来事にも興味を持て」
と、憎まれ口を叩くヒロは、内心で安堵していた。
昨日の金塊泥棒事件。
銀行員の様子に違和感を覚えたヒロの、ある意味での想像通り、つまりは四人組の泥棒だった。
件の銀行員は「元」銀行員であり、逆恨みで、仲間を集めて銀行から金塊を盗ませ、四人で分けて逃亡する計画だったらしい。
(でなければ、わざわざあんなに騒ぐ理由もないからな。銀行の信頼を落として恨み返し…といったところだろう)
ハルコは、あの銀行員を善人だと信じて、命がけの行動をしたのだ。
だからヒロは、今回の事件でハルコが真実を知らない方がいいと、確信していた。
そして、あんな危険な目に、もうハルコを遭わせたくなんて、ない。
「とにかく、だ。もうあんな危険な行動は慎め! 分かったな!」
「ええ~。でもでもさ、困ってる人がいたら…」
「ギロ」
「わ、解りました~、あはは」
幼馴染みの鋭い視線に、ハルコは怯える笑顔を返すしかなかった。
空は透き通るように晴れ渡っていた。
☆エピローグ それでもスーパーヒロイン
翌日のネットニュース。地方版の小さな話題。
「木の上から降りられなくなった幼女、いつの間にか救出。少女曰く『鳥みたいな裸のお姉ちゃんに助けられた』だと…」
ヒロが、窓を開け放って、隣の幼馴染みに怒鳴る。
「ハルコーーーーーーーっ!」
「え~ん、だって~!」
ハルコの隣で、子猫がニャアと鳴いた。
~終わり~
超人ハルコ! 八乃前 陣 @lacoon
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