アークエリア物語 ~刻の守護者たち~

ショウ

第1話

【プロローグ】



『遥か昔のそのまた昔、人間と魔法使いとの恋は禁じられていた。

 あるとき、人間の女性と恋に堕ちた魔法使いがいた。

 彼の名はアレキサンドル=ガーハルディ。

 ガーハルディは愛する女性と過ごす為、魔法界と人間界の狭間に秘密の世界を創った。

 その世界の名はアークエリア。

 彼はそこで最愛の女性と人生最高の時間を過ごした。

 やがて彼女は天国へと旅立ち、残されたガーハルディは自分と同じ「人間を愛する者たち」を密かにアークエリアへ招き入れた。その人数は次第に数を増していき、いつしか町が出来る位にまで膨らんでいった。

 人々は、一番最初に出来たその町を敬愛の意味を込めてガーハルディの最愛の女性の名である『ニーナ』と名付けた。

 そんなアークエリアの存在が、魔法界に知られてしまう時が来た。

 掟を犯す不届き者に怒り狂う魔法界の重鎮達は、アークエリア殲滅の為に強大な魔法兵団を送った。

 強力な結界に守られたアークエリアに迫る危機に気付いたのは、結界を造ったガーハルディただ一人。最愛の人を失った悲しみを知る彼は、これ以上誰一人失いたくないと魔法兵団の存在をアークエリアの仲間達には一切告げる事はせず、今や最愛の恋人の分身ともいえるニーナの町とアークエリアを守る為、ガーハルディは迫り来る魔法兵団に単身立ち向かって行く。

 次第に激しさを増していく戦いの中、ガーハルディの強さも日に日に増していき、ついには彼一人に対し魔法界の総戦力を持ってしても打ち勝つ事が出来なかった。

 このままではアークエリアより先に魔法界が滅んでしまうのではないか―。

 そう感じた魔法界の重鎮達は、遂にガーハルディと共存共栄の契約を結ぶ事となり、はれてアークエリアは魔法使いと人間の共存の世界として認められたのだ。

 アークエリアの人々がそれを知ったのは、全ての戦いが終わってからだった。

 人々は驚喜と感嘆の声を上げ、ガーハルディを讃える歌を謳った。

 だが、その時既にガーハルディには、もうこの世に魂を留めておく力は残っておらず、彼を讃える歌はいつしか鎮魂歌となってアークエリアの空に響き渡った。


(―その歌は、教会の鐘の音となり、今もアークエリアの空に響き渡っている…か)

 少女はゆっくりと本から目をそらした。

 丁度その時、夕刻を告げる鐘の音が町中に響き渡る。

 彼女が読んでいるのは、アークエリアの歴史物語。自分が住んでいるこの世界の始まりについて書かれている章である。

 ここはアークエリアの首都、二ーナ。

 少女は今日も町の図書館で資料集めをしている。…が、今のところ目新しい資料の発見には至っていない。

 彼女は、この世界の創造主にして救世主、そして英雄でもあるアレキサンドル=ガーハルディについて調べていた。

 この世界の住人なら誰もが知っているこの人物。だが、実際どんな魔法使いだったのか、その容姿も含め殆どが謎に包まれたまま。諸説ありすぎて、どれが本当の話なのか今では誰も分からないのが現状だ。

 そんな伝説の人物の本当の姿を知りたい。そんな思いが彼女を突き動かしていた。







 エッジは夢を見ていた。

 それは過去目にした、とある教会にある古い絵の夢。

 彼は夢の中でこの教会にある『クリスティンの微笑み』を眺めていた。

 この絵を納める為に教会が建てられたとの謂れがある程、貴重なモノらしい。

 一説には妖精が書いたモノと言われている。

 何故自分がこの場所に居るのか、この絵の前に立っているのかは覚えていない。そもそもこの教会が何処にあったのかすら覚えていないのだ。

 ただ、あまりの美しさに時間を忘れて眺めていたのだけは覚えてる。

 その絵は夢の中でもとても美しく、そして神秘に満ちていた。

 暫く眺めていると、絵の中の少女、クリスティンがこちらを見たような気がした。

 そう思ったとたん、絵は次第に光りを放ち、眩い光りに包まれて行く。

 光りが全てを覆った時、白い輝きの中からこちらに何かが向かって来た。光りに包まれながら現れたのは、絵の中の少女クリスティンだ。

 クリスティンは落ちるようにエッジの元へ舞い降りる。

 彼は慌ててそれを受け止めようと手を広げた…。


「…エッジ!」

 自分を呼ぶ声で目が覚めた。

「どうした、寝てたのか? お前らしくない…」

「‥すまん」

 自分でもビックリしていた。

 こんな時に居眠りなんて…?

「もう少しで来るぞ 大丈夫か?」

「あぁ―」





 

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