第2話 明日香と沙也香

 村上奈緒は高校3年生で受験を控え私立の女子校に通っている。奈緒の通う学校は県内有数の進学校だ。その中でも奈緒は努力もあるが天性の才能により常に成績はトップ。アリス(発展途上系超大型情報密度保有女子)だから可能な勉強方法で好成績をキープし続けていた。その方法とはヘドネーとして朝ハーフマラソンを走り、敢えて悶々とした状態をキープする。その後、授業が始まり行き場を無くした快楽を求める心は脳を刺激し、興味を持った物に対して学習したいという欲求を満たす様になる。そして、奈緒は両親が教師だったこともあり、勉学に対して抵抗が元々なく、寧ろ好きなぐらいだったので学習するスピードが異様に早くなっていった。その理解力の速さは一度見た文章や公式などをすぐに理解・暗記するほどになっていた。高校3年生4月の現時点で奈緒は中高までの勉学の殆どを学習するに至っていた。高校レベルの内容は高1の時に先に予習していたので、余ったこの1年余りの時間は他の勉学に励んでいたのだった。そんな奈緒が3年生になったばかりの日、つまり入学式の日に話は遡る。


奈緒「今日は入学式だなぁ。あと一年で卒業かぁ」

明日香「おはようございます奈緒さん。今日みたいな日もまたマラソンなのかしら?いいわねぇ成績トップの人は余裕で。私は中高大一貫のうちの大学に進学できるか成績も危ないですわ」

奈緒「明日香、あんた学年2位の成績じゃないか。それだけ優秀ならそのまま大学へ上がれるって」

明日香「いや、そういうことではなく、私よりも上なのが腹立つのよ。裏ワザ使っているんじゃないかしら」

沙也香「奈緒ちゃんおはよ。明日香、それはいくらなんでも勘ぐりすぎでしょ。この皺くちゃJK」

奈緒「マラカス塗りたくれよな」

明日香「それをいうならマスカラでしょう?この馬鹿。後、沙也香。私皺くちゃじゃないわよぉ!!」


奈緒達は校門を入った校舎入口にいた。そこでは各学年のクラス分け名簿が掲載されていた。高校3年生は3クラスに分かれていた。3人はそれを見ながら


沙也香「私と明日香、それに奈緒ちゃんも今回は同じクラスだよ」

明日香「沙也香は兎も角として奈緒さんと一緒は最悪。殺戮のグラディエイターになりそう」

奈緒「言ってくれるね、明日香。お前といるとクリアランスヘッドラインになるわ」

沙也香「2人とも落ち着いて。グラディエイターもクリアランスも良い奴だから」

2人「(意味わかってねぇ~)まっ、まーね」


こうして同じクラスになった3人は仲良く校舎に入って行くのだった。全校生徒が集まり、新入生の挨拶などがあり女生徒達は教室に戻った。教室に入ると担任の泉谷が教壇に立ち、大声で話し始めた。


泉谷先生「お前ら、3年卒業と同時にうちの女子大へ行けると思ってたるんどる。先生は絶対に×2許さんぞぉ~」

女子生徒一同(なんなんだこの人)

明日香「先生は他の生徒からあだ名とかあるんですか?」

泉谷先生「まぁ、そうだな。しいていえばバリー泉谷とかじゃわい」

沙也香「他の生徒さんから聞いた話では通称エロ泉谷と呼ばれているらしいですね」

エロ泉谷「お前ら先生を苛めるなぁ~。うぇぇぇん」

奈緒「あれ。先生出て行っちゃた。大丈夫かなぁ」

明日香「この学校大丈夫?馬鹿ばっかじゃないの」


エロ泉谷が帰って来ないのでこの日はこれで帰る事となった。奈緒はオラジン弁当のバイトの為、帰り支度をして下校していた。そんな下校途中に喧騒は突然やって来た。


 菜緒「さてさて、今日も学校終わったなぁ!バイト行かなきゃ」

 明日香「あらあら、もうお帰りですか奈緒さん?」

 奈緒「やばっ!アホな奴に見つかったよ。」

 明日香「少しお話があるんですが」

 奈緒「あ、そうか。そうだよ。帰って光合成しなきゃ」

 明日香「意味が分からないわよ」

 奈緒「1人キャンプファイヤーしなきゃ♡」

 明日香「ハイハイ、逃がさないわよ。ハナシキキナサ~イ」


 この女、立花明日香はよく学校中のクラスメイトから女帝明日香と陰口を叩かれる、よく漫画に出てくる様な女王様気取りの女の子でありつつ生徒会長。度のキツイメガネの女の子。決してブスではなくむしろ可愛いのだが、地味顔故にジミヘン明日香と奈緒は言っている。ロングヘアーが似合う女の子。


 沙也香「奈緒ちゃ~ん!明日香~!探したよぉ」

 奈緒「沙也ちゃん、おつかれっクス」

 明日香「フンッ、沙也香は相変わらずトロいわねえ」

 沙也香「沙也香ボンバ~!!!」

 明日香「ぁぐふ!」

 奈緒「変形のアックスボンバーじゃん。沙也ちゃんウィィ~!」

 明日香「野蛮なプロレスなんか地球上から滅べばいいのよ」

 奈緒「ところで沙也ちゃん達何しにきたの?帰らないの?」

 明日香「もううっとうしいわね、沙也香。今日は奈緒さんに重大ニュースを持ってきてあげたというのに」

 奈緒「もういいから。あんたは帰ればいいじゃん」

 沙也香「でも、まあ良い話ではあるよ。明日香が考えた話は退屈しのぎにはなるとは思うけど」

 奈緒「そうなんだ。メガ盛りメイク話かと思ったよ、うちぃ~」

 明日香「相変わらず口が減らないわね、あんたは。今日は面白い企画考えたから聞きなさい、絶対命令よ」

 奈緒「わかったけど、何?」

 明日香「奈緒さんあなたは、アイドルになりなさい!!!」

 沙也香「奈緒ちゃんぬか漬けよりはベッタラ漬けでしょ」

 奈緒「あたしは浅漬けの素にマヨネーズを入れて食べようとしたことあるけどね」

 明日香「お前達話を聞きなさいよぉ。後、奈緒さん、五臓六腑が腐るわよ。胃を洗浄しなさい」


 後から遅れてやって来た女の子はちょっと変わった思考の持ち主、工藤沙也香である。部活はしてないが運動能力に優れた女子でだったりする。格闘技を親に習っており、気難しい明日香とつるむ唯一の親友である。ポニーテールが似合う女の子。


 明日香「私たちでアイドルグループ作るのよ!!!わかった?」

 奈緒「私達とは?」

 沙也香「私と明日香と奈緒ちゃんの三人、あと他にも下級生とかも誘って見るつもりだって明日香は」

 奈緒「でも今のご時世地方にも地元アイドルグループはいるよ」

 明日香「私が目指すのはそういう大人の権力にまみれたアイドルではなく、完全セルフプロデュースアイドルグループを作りたいと思っているのよ」

 奈緒「それは無理だって!Tゾーンから考え直しなさいよ」

 沙也香「そうそう」

 明日香「ぶっ殺すわよあんた達。私なんて生徒会長辞めて来たからね」

 奈緒「そうなんだ。でも私はあまりなぁ……バイト辞めれないし」


 そんな会話の途中で「お前たち、とっとと帰れぇ」と会話を遮ってきたのが担任の通称・エロ泉谷だ。


 エロ泉谷「早く帰れよお前ら」

 沙也香「うるせえなエロ」

 奈緒「あっ、泉谷先生お疲れ様です」

 明日香「関係ないでしょ泉谷先生」

 エロ泉谷「奈緒ちゃんは可愛いなぁ!先生はお持ち帰りしたいぞ」

 奈緒「はっきゅしょん!!先生鼻紙をあげませう。お持ち帰りして下さいね。家宝にな~れ!萌え萌えキュン」

 エロ泉谷「嬉しいぞ奈緒ちゃん。家の家宝にしよう!ってこれは要らん」

 沙也香「キモっ!」

 明日香「嫌ね、汚らわしいわ」

 奈緒「先生すいません冗談です」

 エロ泉谷「立花、工藤。先生は悲しいぞ。そんな時にはこの歌を歌うぞ。

 エロ泉谷♪ i want you♪ エロ泉谷♪ i miss you♪」


 そういうとエロ泉谷は泣きながら去って行った。


 明日香「とんだ邪魔が入りましたけど、奈緒ちゃんアイドルグループの事頼んだわよ。わかった? 」

 沙也香「よろしくね」

 奈緒「うん。とりあえず考えとくよ」


 三人は家路へと急ぐのだった。奈緒は本日もバイトがあった。オラジン弁当でのバイトが終わると七海達4人の他校の女子が話しかけて来た。


七海「奈緒ちゃん。お疲れっくす。この前はうちのが迷惑かけちゃったね。御免ね」

奈緒「いいよ、蘇我君だっけ彼氏じゃなかったんだね。でもいいな彼氏」

風香「奈緒ちゃんもさぁ彼氏なんてすぐ出来るって。イケメンから選り取り見取りだよ」

奈緒「いや私イケメンの人は別に好きとかじゃなく……」

七海「そうよ。奈緒ちゃんはねぇ、亡くなったお父さんみたいな人が好きなの。知らないなんてね、モグリね」

桃子「そうですよね、七海さん。風香、貴方モグリよ、モグリ。モグリはねぇ寂しいと死んじゃうんだよ」

美野里「桃子意味わかってないでしょう。」

七海「奈緒ちゃん御免ね。コイツらさ馬鹿ばっかりで」

風香「七海先輩も成績下から2番目じゃないですか。テスト用紙燃やしてるし」

奈緒「そうなんだ七海ちゃん改造ライターでジュボってしたの?」

七海「止めてよ奈緒ちゃん。私そんなんじゃないよぉ。って風香しばくぞてめぇ」


この4人は他校の共学高に通う奈緒の親友である。その学校は所謂ヤンキー達の多い学校で七海は暴走族の元レディースのトップだった女の子。他の三人も元はレディースに属していた。今日はこの後のバイトは休みだったので5人で弁当屋前の駐車場で話し込んでいた。


奈緒「私さぁ、同級生から地元アイドルをセルフプロデュースでやらないって言われてるんだけど、正直全然やる気が起こらないんだよね」

七海「えっ、アイドル。それはやらなきゃ駄目だよ。っていうか見たい!!」

風香「私も見たいけど、なんでやる気無いの。私だったらアイドルになって億万長者で100階建てのビルを新宿辺りに建てるけど」

七海「あんたは銭ゲバ過ぎ。後、イケメン好き過ぎ」

桃子「わたしは~巨大なファーの付いた衣装着たい」

七海「聞いてない」

美野里「奈緒ちゃんはさ可愛い上に優しいし、寂しさを知ってるからその分暖かい人なんだよね」

七海「それ私の言うセリフだから。奈緒ちゃんは面白い人だし強いし、強い女でもときめいちゃうのよねぇ、私がそうだし。ねっ」

奈緒「そうかなぁ。私、最高女芸人になりたいんだけど」

七海「それはアイドルでも出来るし、ってか絶対やらす。意地でも、風香の腸に穴が開いてもやらすからね。やらなきゃHなことする。ハァハァ!!」

風香「意味分からないです」

奈緒「分かった。生活費は今までの溜めたお金で何とかなりそうだからやってみるよ、アイドル」

一同「やったぁ~」

七海「嬉しい。グスン」


一方その頃、明日香は家に帰り着いていた。


明日香「ただいま、篠原さん」

篠原「おかえり、明日香ちゃん。社長は得意先に行っちゃって帰るの遅くなるって」

明日香「そうですか。有難う篠原さん。後でお茶入れるね」

菊池「ホント、いい子に育ちましたねぇ明日香ちゃんは」


明日香の実家は町の小さな板金塗装の会社を経営していた。父一人娘一人で、明日香は勉学の傍ら、実家の事務の手伝いをすることもあった。家事も明日香がこなしていた。優しい父親を持つ明日香は何時しか片親だけの自分が不幸だと思わないようになっていた。こんなにも素晴らしい父の子に生まれて幸せだと思っていた。しかし、その反面、学校に行くと両親がいる女子達を見て今に見てろと思い、女帝と揶揄されても生徒会長にまで上り詰めた野心を持ち合わせていた。ただ両親が居なくても必死で生きている奈緒と出会い、自分の目指すステージはもっと目標高く設定したいと最近なって思うようになって来たのだった。


明日香「はい、お父さんご飯」

秀則「ありがとう。お父さんは幸せや。明日香の料理はうまい」

明日香「ありがと。でね、ちょっと話があるんだけど」

秀則「なんだい。急転直下な話か?」

明日香「お父さん意味が分からないから。あのね、私クラスメイト達と一緒にアイドル活動しようと思うのよ。夢はデカく持てとお父さんいつも言ってくれてるでしょう?」

秀則「いかん。絶対いかん」

明日香「どうしてよ、セルフプロデュースでやるから怖い大人とか居ないよ」

秀則「そういう事ではないんだ。お前の可愛いお尻に抱き着きを強要してくるオタクがきっと居るはずなんだ。2000人は要るんだそう言う奴。それがお父さんがしたいのだ。フンッ」

明日香「恥ずかしいから止めて。お父さんこの話、OKだよね。高みを目指してもいいでしょ。お父さんを楽させたいし」

秀則「お父さんことは気にするな。よし分かった。明日香のやりたい様にやれ。但しやるからにはめげるなよ」


明日香の実家は決して裕福とは言えなかったが、地域の人たちからは評判のいい父親だった。会社も小さいながらも腕は確かなスタッフが6人働いていた。明日香はアイドルグループ立ち上げを固く決心するのだった。



一方、沙也香も自宅に帰っていた。沙也香は母と夕ご飯の準備をしていた。沙也香家は父が元キックボクシング選手で現ボクシングトレーナー、母は普通の専業主婦で兄弟が後3人いた。沙也香は長女で後は皆、男の子ばかりの男家計だ。沙也香は父に似て負けず嫌いな一面があり、またキックボクシングも父から教わっていた。母はおっとりとした人だが芯が強く、沙也香とは学校での姿はあまり似ていない様に見えるが、実家では沙也香も母譲りの優しさを見せる事もある。料理の腕も奈緒、明日香に引けを取らないほど上手だ。


沙也香「ほらほら、お前らゲームと片付けろ。ご飯にするぞ」

雪乃「そうよ、お姉ちゃんの言う事聞くのよ。ご飯は今日もおいしく出来ました」

藤二「やだよ。飯は後にする。ゲームしたいもん」

修二「そうだな。ドナクエしたいもん」

恭一「止めろお前ら後にしろよ。俺だって早くクリアしたいんだぞ」

龍一「てめぇらいい加減にしねぇか、飯食う時はTV消せ。ゲームもやめろ。分かったな」

3人「は~いお父さん」

雪乃「それではあなたよろしくお願い致します」

龍一「よしっ。それじゃ、いただきます」

一同「いただきます」


食事後、父母に話があると言って沙也香はリビングで二人を待った。母は風呂上りでお茶を入れて来てくれた。父も2階から降りてきた。


龍一「沙也香。話ってなんだ?キックボクシングの練習辞めたいなんて許さないぞ」

沙也香「そんな事じゃなくわたしさぁ、笑うかもしれないけど私、アイドルをやってみたいんだよね」

龍一「……」

沙也香「あの~。やっぱり駄目かな。駄目っぽいよね。よし、キッパリこの件は無し。無しという事で」

雪乃「アイドルって結構難しいんじゃな~い?まぁ私は沙也香はアイドルになれると思うけどね」

龍一「あのなぁ~沙也香。そんなことは愚問だ。全力でやりなさい」

沙也香「はぇ~。お父さんどうして」

龍一「お母さんはなぁ昔、偏差値の高い有名大学に居てな。そこのミスコンに出ていた事があるんだ」

沙也香「そうなんだ。お母さん可愛かった?いいとこまで行ったのミスコン?」

龍一「ぶっちぎりで1位だった。ちょうどその時大学に遊びに行っていた俺は、お母さんを見て一目惚れしたんだ」

雪乃「そうでしたね。ミスコンの恰好のまま会場から強引に連れ出され、目的もなく一緒に全力で走っていた時なんて、なんて子供っぽい人なんだろうという気持ちと、男らしく力強い人という気持ちのギャップが堪らなく素敵でそのままお付き合いをする事になったのよ?ねぇ、龍一さん」

龍一「そうだな、雪乃」

沙也香「……。2人ともいちゃいちゃしないで」

2人「ごっ、御免」

龍一「ごほん。だからお前にはお母さんの可愛らしさとチャンピョンであるお父さんの意地があるから絶対アイドルになれるはずさ。目指してみろ頂点を」

雪乃「龍一さんの言うとおりよ。やるからにはファンの人達を大事にしなきゃね」

沙也香「はい、分かったよ。2人ともありがとう」


こうして沙也香もアイドルになるという事の承諾を得たのだった。









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