第13話 サラマンダー

さて、電子レンジが直ったことをレッドキャップ君に報告にいかないとね。

グレムリン君が帰ったあと、僕とシルキーさんはリビングに向かった。


リビングからレッドキャップ君と誰かが話している声がする。


「アタシもね、鬼じゃないの。シルキーちゃんが一生懸命なのは分かるのよ~でもねぇ…」

「うんうん、そうでありますな!皆の料理番としては、譲れなかったでありますな!」

「そうなのよ~流石分かってるわねん」


あぁ、この声はサラマンダー君だ。


「やや!ユート殿!お帰りなさいと言うのが遅れたでありますな!」

「うん、ただいまサラマンダー君」


ぱっとみると赤い炎を纏ったトカゲに見える彼の名前はサラマンダー君。

火を司る精霊らしい。

結構大物の精霊らしくて、妖精の皆からは一目置かれる存在なのだが…。


「でも、やはり自分は電子レンジを使うのではなくて、自分の背中を使ってほしいのであります!」


何故か家でガスコンロの代わりをやってくれている。

ガス代が浮くから助かるのだが、背中に重いお鍋とかを直に乗せているので、最初は少し可哀想だと思ったのだが。


「ハァハァ…重い鍋の感覚…これぞ拷問…クゥー!たまらんでありますなぁ!!」


ドMかな?


ちなみにコンロを二つつかいたいときは、頭と背中に鍋やフライパンを。

三つつかうときは両前足と背中にそれぞれ置いている。

なんでも背中を圧迫されると、内臓が悲鳴を上げて気持ちいいそうだ。


「そういえば、聞くと今日のメニューは唐揚げだとか」

「うん、そうだよ。サラマンダー君も確か好きだったよね?」

「大大大好物なのであります!」

「よかった。じゃ~今日は一緒に皆で食べようね」

「勿論であります!…あ~自分の背中で高温の油が跳ねるかと思うと…クゥー!たまらんであります!!」


あぁ…好きってそういう…。


「もう、サラマンダーちゃんったら」

「あぁ、つい興奮してしまったであります!失敬失敬」

「あ、あの~…」


シルキーさんがおずおずと僕の後ろから顔を出す。


「で、電子レンジを壊しちゃってごめんなさいなの~。グレムリンちゃんに来てもらって直してもらったから…許してなの~」

「もう怒ってないわよ。そもそも家主のユート君が許しちゃってるんですもの。アタシたちがとやかく言うのも野暮ってものだワ」


ちゃんと仲直りできたみたいだ。

本当にいい子たちだな。なんだか春の日差しのように、心が温かくなるよ。


さて、レッドキャップ君に買ってきた食材を渡さないとね。


「あら~いいお肉ね!ササミも切りごたえがあって素敵だわぁ~」

「明日はササミの梅しそ巻きでお願いできるかな?」

「いいわねぇ、サッパリ食べれるものね!オッケー任せて!テンション上がっちゃうわ~サラマンダーちゃんもお手伝いよろしくね」

「任せるであります!」


ドMなサラマンダー君だけど、流石火の精霊。その火加減は抜群に上手い。

レッドキャップ君とサラマンダー君の料理人コンビに任せておけば、我が家の台所事情は安泰だ。

でも、一つだけ言わせてほしい事がある。

それは…。


「サラマンダー君。今日は鍋の中に入って自分自身が出汁になるのは止めてね?」

「な、何故でありますか!サラマンダー汁は栄養も豊富で美肌、健康に良くて更に更に!」

「うん、でも友だちで出汁をとったものを飲むのもちょっと…」


いつだったか「自分自身が出汁となることであります!」とか言いながら鍋に浸かっているのを見た時は思わず噴き出した。

これさえなければ、いい子なんだけどなぁ…


「お願いであります!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいでありますから!変な事はしないでありますから!」


自分自身で出汁になる事は十分変な事だよ、サラマンダー君。


「そ、そんな~~~~!であります!」

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