第2話 レプラコーン
あぁ、いけない。思わずウトウトしてしまった。
春の日差しの中でケットシー君を撫でていた僕は、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
「ふぁ~~」
大きな欠伸。まだ少し眠いや。
そういえば膝の上で眠っていたケットシー君がいつの間にかいなっくなっている。
「お~い、ケットシー君?」
僕の呼びかけにも答えない。普段なら高級キャットフードを所望するニャとか言ってくるのに。
お散歩にでも出たのだろうか。
まぁ心配ではあるが、彼も妖精の端くれ。事故に遭う事なんてないだろう。
さ~て、彼の好きなキャットフードは…あら。ストックが切れてしまっているな。
帰ってきたら騒ぎ出すだろうし、ちょっとお買い物にでも行ってくるかな。
僕は大きく背伸びをして、深呼吸をする。
すこし肌寒い空気が僕の肺に流れ込み、大きく胸を満たしてくれる。
あぁ、気持ちのいい日だな。こんな天気だもんな、彼がお散歩に行きたくなる気持ちも分かるよ。
洗面所で顔を洗って髪を簡単にセットする。
髭は…まだ剃るほどでもないか。
ダウンジャケットを羽織って…マフラーはもういいかな。よし、外出の準備が完了だ。
玄関で今日履く靴を選ぶ。
スニーカーは…まだちょっと早いか、今日はこのお気に入りのショートブーツでも履こうか。
靴を履こうとした瞬間、違和感に襲われる。
「うわぁ!なんじゃ~!?敵襲か!!」
あ、こんな所で寝ていたのか。
気が付かなかったよ、ゴメンね。
「なんじゃ~ユートか。もうビックリするわい。人が寝ているときに足を突っ込んでくるでないわい」
「ごめんね、レプラコーン君。まさかそんなところで寝ていたなんて」
彼の名前はレプラコーン。
ケットシー君と同じくアイルランドの伝承に出てくる妖精だ。
何でも靴を修理してくれる小人の妖精さんのようなのだが…。
「まったく、気を付けてほしいもんじゃわい。こっちは昨日夜遅くまでケットシーと飲み会をしておって二日酔いが酷いんじゃ」
なんだか全然働く気配がない。
僕についてきて日本で暮らすようになってからというもの、自堕落な生活をしているようだ。
「いや~それにしても日本はええのぅ。靴修理なんぞしなくても同族に何も言われないなんて最高じゃわい~」
僕のお気に入りの靴の中がちょっとお酒臭いんだけど…。
「ん?あぁ、そういうときはホレ。消臭剤じゃよ!」
う~ん、もうちょっと妖精らしいやり方で匂いを消してほしかったな。
仕方ない。今日は足がお酒臭くなっちゃうからスニーカーでいくか。
「あ、すまん。そっちの靴は二日前にゲロっちまってのぅ。ちょっと匂うかもしれん」
…仕方ない。ちょっと寒いけどスポーツサンダルで行くか。
「いや~本当にすまんのう!だけど安心せい。いつかワシが一山当ててビッグになったら靴なんて好きなだけ買ってやるわい~!ガッハッハ」
そう言いながら、僕のブーツの中に潜り込んでしまった。
と思ったら直ぐにイビキが聞こえてくる。
ははは、寝つきがすごくいいんだね。
なんだか靴を履けなくされてしまった事がどうでもよくなってしまった。
僕はサンダルに足を引っかけて、まだ肌寒い外に身を乗り出した。
「レプラコーン君、おやすみ。いつかビッグになって僕を驚かしてね」
靴の中から一際大きなイビキが聞こえた。
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