妖精と暮らす穏やかな日常

リッチーサムサム

第1話 ケットシー

僕の名前は柚木 優斗(ゆずき ゆうと)。


今は大学三年。経済学部に所属している学生だ。

大学に入ってから、一、二年生の時は必死で単位を取りまくった。

結果、三年生に進級した今では週に二、三日学校に行くだけで良くなった。


一、二年のときに友達付き合いを疎かにしてしまった為、学校では友達がほとんどいない。


一人でいる事が好きな僕にとってはささいな問題だった。

そこでこの春、一人ヨーロッパ旅行を計画してヨーロッパをグルっと見てきた。


日本と比べてスケールがでかく、歴史ある建造物に圧倒されっぱなしだった。

人々の生活、文化、歴史全てにおいて深く感銘を受けた。

いい面もあれば悪い面もある。

それを全てひっくるめても有意義な旅だったと思う。


ただ、一つ…予想外な事があった。


それは


「ユート。吾輩は高級キャットフードを所望するニャ」

「はいはい」


俺の膝の上で毛づくろいをしている、この偉そうなネコの存在だ。

真っ黒でシルクのような滑らかな毛。

紅く燃えるような瞳。


アイルランドの伝説で登場するネコの妖精「ケットシー」だ。

人語を話し、二本足で歩くネコの妖精。


僕がヨーロッパ旅行をした時についてきたらしい。

ケットシーが言うには、このケットシー以外にも僕に沢山の妖精がついてきてしまったそうだ。


「ユート、吾輩の話を聞いておるのかニャ?高級キャットフードをだニャ」

「聞いているよ、ケットシー君」

「ならばさっさと用意せぬかニャ。それでは立派な吾輩の妾にはなれないニャよ?」

「妾にはならないよ」


このケットシー、実はちょっと前までケットシーの王様だったそうだ。

そこで妾を多く囲い、好き勝手やってきたそうだが飽きたので王の座を息子に譲り渡し引退。

プラプラと次の妾を探している所で僕を見つけ、ついてきたそうだ。

ご隠居様は悠々自適でいいな。


事あるごとに、吾輩の妾になれニャ~と迫ってくる。

ちなみに、コイツはオスで僕も男だ。

妾になるつもりは無いが、純粋にネコとして可愛いので撫でていると落ち着く。


「ニャ。うむ、そのナデナデは良いニャ。褒めてつかわすニャ」

「お褒めに預かり光栄でございます、王様」

「ニャ。よい心掛けニャ。その態度に免じて普通のキャットフードで赦してつかわすニャ」

「ありがたき幸せ」


あぁ、落ち着くな。ネコを膝の上に乗せて撫でていると時間なんてどうでもよくなる。

春の日差しも手伝ってウトウトしてきた。


「ふぁ~~」


いかん、つい欠伸が。

ふと膝の上に目をやるとケットシーもウトウトしていた。

ははは、妖精も人間と変わらないんだな。

ちょっと僕も一寝入りしようかな。


「おやすみ、ケットシー君」

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