13.88秒の春

つぶら杏





 微かに滲む紅色の空は真っ直ぐな瞳に鋭く映って、乱反射するように私をそっくりと染め上げる。夜に備えて弱まりつつあるその光は、けれど青い日差しのように私へ貴女を灼きつけていく。全く未知の感情と共に。

 強引に言葉にするならそれは、身体の内側でたゆたう、クラゲの触手にも似た微熱の糸。内に毒を秘めたその糸は波立つ心に触れて、私をしびれさせる。身体をすっかりと巡った毒は貴女の姿だけをはっきりと見せて、すぐ傍にいるとさえ錯覚させる。手を伸ばすけれど、届かない。

 心がかゆがっているのが分かった。知らない糸がたった一本加わるだけで、こんなにもひどくほつれてしまうことを初めて知る。

 色褪せないのは、赤色。息を呑む音、貴女の体温、潤んだ唇、コンクリの隙間に咲く野花。ただ、遠いはずの春を感じる。

 そうして。時を経た今でさえ、私は糸に絡まったまま。苛むのは、名前を出せない感情。それを手放せない私はいつまでも貴女に焦がされ、焦がれている。

 


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