第四章 真相
仇との共闘
一方、三人と別れて獣道を進み、円石の広場へと急ぐソフィア。
道中にはラメールの話通りに、彼女の配下であるヴァンパイアが三体待ち受けていた。
「どうしよう……参ったな……」
その個体の戦闘力は先程自分の目で確認したばかり。ソフィアは苦い表情になる。
それでも他に選択肢があるハズも無く、ソフィアは光剣を生成して身構えた。
「やるしかないか……」
ヴァンパイア達は狂ったように笑い出し、一斉にソフィアに襲い掛かる。ソフィアは素早く自分の周りに障壁を作り、攻撃を凌ぐ。破壊こそされなかったものの、銃弾を受けても傷一つすらつかない障壁にヒビが入った。
「(なんて力……)」
固唾を呑み込み、すぐにその場から退避する。それから複数の光剣を生成し、次々とヴァンパイア達に向けて射出した。合計で十本の光剣が放たれ、その内六本がそれぞれ二本ずつ突き刺さる。
しかし前回と同じく、ヴァンパイアには一切反応が無かった。
再び障壁を作ってやり過ごそうとも考えたが、先程の結果が記憶に新しく、それはやめて回避に集中する。
「(捕まれば、一発アウトか……良いね、面白いじゃん)」
正面から飛び掛かってくる三体のヴァンパイア。ソフィアが回避をしようと身体に力を入れたその時、銃声が三発分鳴り響いた。同時に、ヴァンパイア達の頭部に銃弾が撃ち込まれ、三体共に衝撃によって吹っ飛び地面に転がる。
その銃声はアルベール姉妹が持つ祓魔銃のものでも、ヴェロニク達自警団が持つライフルのものでもなかったが、ソフィアには確かに聞き覚えがあった。
ソフィアは自分の記憶力が正しいのかを確かめる為、銃声が聞こえた木陰の方に顔を向ける。
「――生きてたんだ」
今度はこちらに銃口を向けているルイズを見て、ソフィアは嘲笑気味に小さく鼻で笑った。
「貴様、何故ここに居る」
「それはこっちのセリフ。もしかして、あの世への行き方がわからなかったの? 私が案内してあげようか?」
「黙れ。――ラメール達はどこだ」
「あいつらなら――」
そこでソフィアの言葉を遮ったのは、立ち上がったヴァンパイア達の耳障りな笑い声であった。
ルイズは素早く銃の照準をそちらに移し、別の質問をソフィアに投げる。
「なんなんだ、こいつらは」
「ラメールの手下だって。知らなかったの?」
「――つまりはこいつらも私の敵という事か。それだけわかればいい」
ヴァンパイア達を見定めるように、目を細めるルイズ。そんな彼女を横目で見ながら、ソフィアがこう訊いた。
「ねぇ、一つ教えて。今はどっちが優先?」
「何の話だ」
「私か、こいつらか」
「この状況ならば、こいつらだろうな。その後に――」
「オッケー。それだけわかればいいや」
ソフィアはそう言って、光剣を生成してヴァンパイア達に射出した。同時にルイズも発砲を始め、ヴァンパイア達も再び動き出した。
ソフィアの光剣は言わずもがな、ルイズの銃弾も有効打とは言えず、ヴァンパイア達は怯む事無く飛び掛かる。
二人は左右に分かれて回避した後、それぞれの接近武器で側に居た一体に斬りかかる。ソフィアは腕を斬り落とし、ルイズは頭を刎ねる事に成功した。
一振りで一体目を仕留めたルイズは、同じ一振りでも仕留める事ができなかったソフィアを見て挑発的な微笑を浮かべてから、もう一体のヴァンパイアに攻撃を仕掛ける。
「――ムカつく」
ソフィアは苦笑と共にぼそりとそう呟いてから、仕留め損ねたヴァンパイアに光剣を投げ付けた。そして、新たに武器を生成する。作り出したのは、サクラが持つ日本刀によく似た細い剣――というよりも、刀そのものであった。
「(首を刎ねれば良いなら、こういう形の方が軽い分やりやすいハズ。――私の力、見ておきなさいよ)」
意気揚々と刀を構え、標的の接近を待つ。その個体はすぐに彼女の期待に応え、飛び掛かった。ソフィアは素早く横にステップをしてから、頭部に勢い良く刀を振り下ろす。
攻撃は確かに命中したが、刃は半ばで止まってしまい、首を刎ねる事には失敗した。当然致命傷には繋がらず、ヴァンパイアは反撃に移る。人間とは比べ物にならない怪力によって、ソフィアは押し倒された。
馬乗りになったヴァンパイアはソフィアの首に両手を掛け、じわじわと力を込めていく。
「ッ――!」
振り解こうとするが、力が込められたヴァンパイアの手は鋼のように固く、びくともしない。
突如として危機に陥ったソフィアに対抗手段など思い付く事も無ければ、考える暇すらも与えられない。この状況では集中できず、指輪の力を使う事もままならなかった。
「(や、やばい……かも……)」
このままでは首を握り潰される――という恐ろしい結末がソフィアの頭に
「いい加減に……しろっての……!」
身体に絶大な力が宿り、先程まではびくともしなかったヴァンパイアの手をこじ開けていく。
命辛々外せた所で、ソフィアは幻光で小振りなナイフを生成し、ヴァンパイアの首に突き刺した。
それだけでは怯みもしなかったが、更に突き刺したナイフで首の肉を抉るように斬り裂いていく。一方でこちらの片手が空いてしまったので、再びヴァンパイアに首を絞められる事になる。
先に首を斬り落とすか、それとも首を握り潰されるか――その辛抱比べは、ソフィアが勝利した。首の皮一枚となった所でふっと力が弱まり、ソフィアはその隙を見逃さずにヴァンパイアの身体を蹴り飛ばす。
「ちぇっ……力は使わないで切り抜けたかったのに……」
首を手でさすりながら立ち上がるソフィア。
蹴り飛ばされたヴァンパイアも立ち上がったが、首がだらりとぶら下がり、正面を捉える事ができずに狼狽する。
そうこうしている内に残りの皮をソフィアに斬り落とされ、絶命した。
「さて――」
残るは一体――と思いながらそちらを見てみると、丁度ルイズが仕留め終えた所であった。
ルイズはソフィアに一瞬だけ視線を合わせはしたものの、剣を鞘に納め、そのまま広場の方へと歩いていく。
「ま、待ってよ……!」
ソフィアは慌てて彼女を追い掛ける。ルイズは足を止める事なく、歩き続ける。
「待てって言ってんでしょうが!」
ソフィアは手に持っていた光剣をルイズに投げ付けた。
ルイズは素早く振り返って身体をずらし、光剣を避けてから銃を抜いた。そして銃口をソフィアに向けながら、彼女を睨み付ける。
「何の真似だ。殺されたいのか?」
「殺す為に現れたんでしょ?」
「ふん……自惚れるな。貴様などに構っている暇は無い」
「……じゃあ何しに戻ってきたのさ」
「……貴様には関係の無い話だ」
つまらなさそうに鼻で笑い、ルイズは銃を下ろして踵を返した。
「ちょ、ちょっと……!」
困惑しながらも、ソフィアは彼女についていく。そして二人は、円石の広場へと足を踏み入れた――
一方――
ソフィアを広場へと送り届け、その場で敵を食い止めているアルベール姉妹とサクラの三人。
最初はフランとラメール――そして彼女の配下であるヴァンパイアが五体のみであったが、途中からラメールが召喚した下級ヴァンパイアも加わり、戦況は混戦状態になっていた。
「急に賑やかになったわね。こっちも人を増やしてもっと楽しむとする?」
主に下級ヴァンパイアが周囲に集まり、余裕な態度でその相手に勤しむシャルロット。そのすぐ側には、ラメールの配下五体を同時に相手にしているサクラが居る。
「誰を増やすと言うのです? 自警団の方々? それとも、アリスさんでもお呼びしますか?」
二人は雑談を交えながら戦っていた。
「アリスはダメよ。子供は寝る時間ですもの」
「では、ソフィアさんは子供ではないと?」
「あー……あの子は……そうね、学生ですもの」
「高校生は大人だと言いたいのですね」
「そうよ、立派な大人だわ。私があの子ぐらいの時には、この時間だろうがお構いなしにシルビアに叩き起こされて、近接戦闘の特訓を――」
「その話、長くなります?」
「小一時間といった所ね」
「ではまた今度」
「そうしましょう」
――そんな呑気である二人とは逆に、シルビアは激戦の最中であった。彼女はフランとラメール、二体の上級ヴァンパイアから狙われていた。
二体が彼女を狙っている理由は、フランは最初に発砲されたというだけのものであったが、ラメールに至っては彼女への強い憎悪に憑りつかれていた。殺す、許さない、殺す――と、壊れた人形のように呟きながら、シルビアを追い掛けている。
「ちょっと煽りすぎちゃったかしら? 私がやる前に、頭の血管が切れて死ななければ良いけど」
しかしそんな状況でも、シルビアにはまだ冗談を言う程の余裕が残っていた。
「随分と余裕だな、シルビアさんよ」
フランが不意に攻撃の手を止め、腕を組みながらそう声を掛けた。
「そう見える? これでも一杯一杯なんだけどね」
シルビアは組み付こうとしてくるラメールを対処しながら答える。
「謙遜か? キレたラメールに狙われてるってのに、喋る余裕がある時点で普通じゃねぇよ」
「誉め言葉として受け取っておくわ。それで、あなたはどうするの? 降参する?」
「とんでもねぇ。オレはお前みたいな強い奴を殺すのが何よりも好きなんだよ」
「素敵な趣味ね」
そこでフランも再び加わり、二対一の攻防が再開された。
ラメールはひたすら憎きシルビアを押し倒して彼女の内臓を引きずり出してやろうと躍起になっており、それ以外の事は何も考えていない。フランはそんなラメールの暴走に巻き込まれまいと、常にわざと一手遅らせて手を出していた。
そしてシルビアにとって、その戦い方は非常に厄介であった。
同時に襲い掛かってきてくれれば攻撃を回避した直後に反撃をする事も可能であるが、交互に仕掛けられてはその隙が無い。
「(中々の相性だわ。――私とシャル程じゃないけど)」
その時、ヴァンパイアを一掃し終えたシャルロットがやってきた。彼女はラメールとフランを銃撃で追い払ってから、シルビアを横目で見てこう訊く。
「今、何か言ってなかった?」
「言葉は発しなかったわ」
「じゃあ何か思ってたでしょ。私の事」
「自意識過剰よ。良いから手伝いなさい」
「その
「シャル」
「……その顔は怒ってる顔ね。わかったわ、始めましょう」
呆れた様子で溜め息をつき、シャルロットは銃を構えた。
二対二の戦いが始まった一方で、サクラは未だに一人で五体のヴァンパイアを相手に立ち回っている。
ようやく一体目の頭部を斬り落とした所で、彼女に救援が現れた。
「やあ、サクラ。随分と楽しそうじゃないか」
「珍しいね。汗かいてる」
「頑張れ頑張れ」
ノアと、リナ、ルナの三人であった。サクラは戦闘を続けたまま返答する。
「これはこれは。ご機嫌よう、お三方。随分と遅かったですね。どこで油を売っていたのです?」
「バカを言うな。ボク達だってこいつらとやり合ってたんだぞ」
「あらあら、そうでしたか。わたくしが一人で対処している敵を相手に、あなた方はこれだけ時間が掛かったという事ですね。よくわかりました」
「お前には人をイラつかせる才能があるな」
「人じゃないでしょう?」
「似たようなものさ」
三人が加わった途端に戦況は一変し、ヴァンパイア達は瞬く間に全滅した。
「ちっ……参ったな、連中まで来やがった」
ノア達の到着に気付いたフランが忌々しそうに舌打ちをする。
「おい、ラメール。広場に逃げるぞ。流石に二人でこの人数を相手にするのは――」
フランはラメールの横顔を見て、言葉切った。
「――ダメだな。完全にイカれちまってる」
ラメールの表情は愉悦に満ちた恐ろしい笑顔になっていた。そして未だに、憎悪を口から漏らしている。
「彼女、あなたにゾッコンね。結婚してあげたら?」
からかってきたシャルロットを一睨みで黙らせてから、シルビアはフランに視線を移した。
「この人数差でもまだやる気? 諦めなさい」
「確かにキツい。だが諦めるにはまだ
「切り札?」
「その切り札が整うかどうかが、オレ達にとって一番の問題だった。しかしまぁ、整っちまえばこっちのモンだ。――ひとまずここは下がらせて貰うぜ」
「逃げるのは嫌いな性分なんだと思ってたけど」
「その通り、大嫌いだよ。だが勝ち目の無い戦いを強行する程バカじゃねぇんだ」
「それはそれは。聡明なおツムをお持ちのようで。それじゃあ、そんな賢いあなたに訊いてみるとしましょう。一体どうやって私達から逃げるつもり?」
「そんなの決まってらぁ。――全力で逃げるだけだ!」
フランはラメールの襟首を鷲掴みにして、彼女と共に獣道へと走り出した。その行動にシルビアが素早く反応して引き金を引いたが、銃弾は惜しくも外れて彼女の背後にあった大木に命中した。
「ちっ……逃げ足の速い……」
シルビアはすぐに彼女を追い掛けようと走り出す。それに倣い、他の一同も移動を始めた。
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