第342話:慰労会②
「――あら? みんな、楽しんでるかしら~?」
向かった先にいた人物、それはユージュラッド魔法学園の学園長であるアミルダだった。
「……ヴォレスト先生は随分と楽しまれているそうですね」
「……お酒臭いわね」
「……こんな人がはとこだなんて思いたくないなー」
アル、シエラ、ジャミールとため息交じりに呟いたが、当の本人は気にした素振りもなく新しく渡されたグラスを一気に飲み干している。
このままでは話をする前に酔いつぶれてしまうと思ったアルは、慌てて本題を口にした。
「先生。カーザリア魔法学園からユージュラッド魔法学園へ転園する事は可能ですか?」
「転園ですって~? ……あぁ~、なるほどね~。そっちの準優勝の女の子か~」
「は、初めまして。レイリア・アーゲナスと言います」
「うんうん、礼儀正しい、いい子じゃないのよ~。それで~、転園ってのは~?」
若干言葉尻が伸びており、足元もフラフラしている相手にお願いしてもいいものか迷ったものの、今のうちに言質を取っておくのも必要かと考えて話を進めていくアル。
カーザリア魔法学園におけるレイリアの立場や、ヴォックスを含む貴族から嫌がらせを受けている事、それを踏まえてユージュラッド魔法学園に転園させる事ができないかと持ち掛ける。
最初は笑いながら聞いていたアミルダだったが、貴族からの嫌がらせという部分から徐々に覚醒していき、最終的にはフラフラしていた姿はどこへやら真剣な面持ちで考え始めていた。
「うーん……それ、レイリアちゃんは納得しているのかしら?」
「は、はい。私は平民ですし、家族も今以上の状況になるのであれば引っ越すのも問題はないと思います」
「そっか。なら、私からカーザリア魔法学園の学園長に話を通してみるわ」
「レイリアの気持ちだけではダメなんですか? 相手が貴族なら、貴族を庇いつつ実績を残したレイリアを手放さないって選択肢を取る可能性もあると思うんですが?」
平民であるが故に、貴族のいいように使われてしまうケースは少なくない。それが大観衆の前で実力を示したレイリアであればなおの事、手放したくないと思うはずだ。
大き過ぎる懸念をアルは口にしたのだが、アミルダは突如として不敵な笑みを浮かべ始めた。
「ぐふふふふ。実はね~……私、カーザリア魔法学園の学園長の弱みを握ってるのよね~」
「うわ~。裏のアミルダ先生が出てきちゃってるね~」
「ジャミール~? な~にを言ってるのかな~?」
不敵な笑みのままアミルダが迫ってきた事で、ジャミールはあははと苦笑いしながらアルの背中に隠れてしまった。
「……一応、俺は後輩ですよ?」
「アミルダ先生の扱いでは十分先輩だろ~?」
「いやいや。付き合いが長いのは先輩の方ですよね?」
そんな軽口を叩いていると、アミルダは空になったグラスをウェイターに手渡して歩き始めた。
「ヴォレスト先生、どこへ行くんですか?」
「カーザリア魔法学園の学園長のところよ~。みんなは来なくてもいいからね~」
背中越しに手を振って人混みへと消えていったアミルダ。
アルたちは嫌そうな顔を浮かべていたものの、当事者であるレイリアは心配そうにアミルダが消えていった方向を見つめている。
「大丈夫だ、レイリア」
「で、でも……」
「あの人はあんなんだが、やる時はやる人だよ」
「そうだよ~。それに、人の弱みを握るのも天下一品だからね~」
「それ、褒めて良い事じゃないわよね?」
最終的にはシエラがジャミールの発言に突っ込みを入れて互いに笑いあった。
――しばらくして戻ってきたアミルダからは、レイリアの転園が無事に決まった事を告げられて本人だけは心底驚いていた。
「……何を言ったんですか?」
「……うふふ~。な・い・しょ!」
どんな弱みを握っているのかまでは教えてくれなかったが、アミルダには気を付けようと心に決めたアルなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます