第293話:パーティ部門・一日目
――パーティ部門、一日目。
個人部門では去年の成績がシード権に反映されていたが、トーナメント戦は完全なくじ引きで決定される。
参加学園数の都合上、八つの学園だけが一試合多い五試合を行うことになるが、ユージュラッド魔法学園はその八つに入ってしまった。
「もう! 先輩のせいですからね! くじ運悪過ぎですよ!」
「そういうな、ペリナ。アルたちなら、一試合多いくらいで負けるとは思えないしね」
「それは! ……まあ、そうですけど」
アミルダとペリナが関係者用の席から会場を見つめている。
現在は一回戦第三試合が行われているのだが、ユージュラッド魔法学園は第四試合に出てくる。
「それにしても、同じ山にカーザリア魔法学園が入るとはね」
「当たるとしたら準決勝ですか。……勝ちあがってくるでしょうか?」
「来るでしょうね。個人部門の決勝戦に出ていた女の子はいないみたいだけど、実力者が揃っている事に変わりはないからね」
「でも、今年のパーティ部門は去年と大きく異なっていますよね?」
「工夫は必要だろうけど……どうなるかしらね」
ペリナが口にした異なる点とは、グレンが口にしていた趣向が違っているものである。
去年までは平らな舞台上で連携を駆使して試合を繰り広げていたのだが、今年は障害物が置かれた舞台上での試合となる。
視界が遮られ、障害物を利用しての戦略が必要となってくるのだ。
「まあ、ほとんどの参加者が障害物ごと魔法で破壊しているけどね」
「魔法砲台が障害物を一掃しつつ相手を倒し、残りがそれを守る。……あれ? これって、結局は今までと変わらないってことですか?」
新しい試みとして配置された障害物だったが、魔法砲台に選ばれる生徒のほとんどがレベル4やレベル5を持つ生徒である。
ちょっとした障害物など、魔法を使えば一瞬で無に帰すことができるのだ。
「おそらく、来年以降は障害物も無くなるでしょうね。無駄な費用だって事で」
「ですね。でも……今年に限って言えば、アル君たちには有利に働くんじゃないですか?」
「……うふふ、その通りよ」
移動を繰り返しながら魔法を放ち、障害物があればそれすらも利用して接近し、近接戦を挑むことができる。
パーティ部門ではアルだけではなく、シエラとジャミールも近接戦ができる事から、有利に戦えるのではないかと二人は考えたのだ。
「だからと言って、油断はできないけどね。目の前の試合みたいに、レベル5の魔法で障害物を粉砕する事ができるわけだし」
「それも踏まえての戦略、という事ですか」
新しいパーティ部門のルールに、二人は思考を巡らせ続ける。
そうこうしていると、第三試合が終了して舞台の調整が行われ始めた。
「さて、次がパーティ部門の初戦だな」
「私の方が緊張してきましたよ、先輩」
「私もだよ。学園長になった初年度で個人部門とパーティ部門の二冠を達成できれば、武術を過去の産物と言わせない下地が多少は整うはずだからね」
「……先輩は、今のカーザリアを心配しているんですか?」
アミルダの言い回しに、ペリナが心配そうに口を開く。
周りには他の学園の教師もおり、聞く者によっては王族を批判したと騒ぎ立てる者もいるかもしれない。
一応、アミルダが遮音結界を張っているので音が外に漏れる事はないが、口の動きから話を盗み見る事は十分可能なのだ。
「少しね。他国では魔法至上主義を掲げているところなんてないし、魔法と武術を組み合わせている国がほとんどなのよ? 魔法は確かに強力だけど、個人部門でも見たように接近を許せばあまりにも脆すぎる」
「でも、だからこそゴーレムみたいな自衛手段の魔法が開発されたんですよ?」
「洗練された武術には、小手先の自衛手段なんてあってないようなものよ。事実、決勝戦の女の子が作ったゴーレムは練度も高かったのに、アルには通用しなかったでしょう?」
「……そこでアル君を出すのは卑怯だと思います。あの子は、規格外ですから」
少しだけ頬を膨らませているペリナに、アミルダは意地の悪い笑みを返す。
そんな二人のやり取りも、ここで終了となる。
「出てきたわね」
「はい」
控え室から出てきたアルたちを見つけて、居住まいを正す二人。
負ける姿など想像できないが、それでも勝利を祈る事は決して忘れないのだった。
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