閑話:王族の会話
個人部門の決勝戦を観戦し終えた王族は、防音処置が施された部屋に移動して感想を述べあっていた。
「アルは本当に強かったのう!」
「だから言ったんですよ、父上! アルなら個人部門は優勝すると! このままパーティ部門も優勝してもらいたいものですね!」
「父上も兄上も何を言っているんですか。ここカーザリア魔法学園の生徒が負けたんですよ? そこを悔やむべきでしょうに」
アルに称賛の声をあげているのはラヴァールとランドルフであり、面識のある二人。
一方でカーザリア魔法学園が負けたことに歯噛みしているのが、第二王子であるラインハルト・カーザリアだ。
ラヴァールの子は他にもいるのだが、公務に付き従わせることが多いのはランドルフとラインハルトの二人だった。
「まあ、俺としてもカーザリア魔法学園が負けたのは悔しいさ。だが、知り合いが勝利するというのが嬉しい気持ちも本当なんだよ」
「だからといって、声高に喜びを露にするものではないと思います! 父上ならばいいのです。優秀な若者を見定めることが目的ですから。ですが、兄上は違います! もっとカーザリア魔法学園の卒業生として応援していただかなければ!」
「はいはい、そうやってお前の考え方を俺にまで押し付けるなよ、ラインハルト」
「兄上!」
「まあまあ、落ち着いなさいな、二人とも」
溜息をつくランドルフと、声を荒らげるラインハルト。
そんな二人を宥めようと口を開いたのは、王妃であるミランダ・カーザリアである。
「公務ではあるけれど、個人の気持ちを押し付けるのは良くないわよ、ラインハルト」
「……申し訳ありませんでした、母上」
「ランドルフも、公務だからこそ一人の人物に肩入れするのは良くないわ」
「……分かりました」
「ミランダからすれば、ランディもラインハルトも形無しじゃのう!」
「あなたもよ、ラヴァール」
「わ、儂もか!?」
微笑みながらやり取りを見ていたラヴァールだったが、矛先が突然こちらを向いたことで焦りを見せる。
「なんでも、開会式が終わった後にグレン大隊長にも意見を求めたとか。その時点で、アル・ノワールに肩入れをしていると思われても仕方がありませんよ?」
「むむ、グレンの奴め」
「あら、やっぱりそうだったのね? ちなみに、グレン大隊長は何も言っておりませんよ? 忠義の部下がいてくれて頼もしいですね」
「……ミランダ、お主のう」
「わたくしは、あなたの考えていることくらいお見通しですから、お気をつけを」
事実、グレンは開会式での出来事を誰にも伝えていない。
ミランダが口にした通り、一国の王が一人の学生を贔屓しているなどという噂が流れてはいけないと考えたのだ。
しかし、ランドルフの行動が似たような噂を立ててしまったのは、内心で溜息をついていたのだが。
「……ですが、ラヴァールもランディも、見る目はあったということですね。実際にアル・ノワールは個人部門で優勝したのですから」
「ですが母上、あの戦い方を僕は良しとしません。カーザリア国は優秀な魔法師を排出することで国益を回復させてきました。原始的な武器を用いての優勝など、国益に良い影響を及ぼすとは思えません!」
「ラインハルト、お前の目は節穴か?」
「……今、なんと申されましたか、兄上?」
「アルは魔法もちゃんと使えている。剣術と魔法、それらを融合した戦い方で優勝したじゃないか」
「この大会は魔法競技会だ! 魔法だけなら問題はないが、剣術という過去の産物を持ち出すなど、あり得ない! 競技会なのだから舞台があり、距離を保つのは難しい。本当の戦いであれば距離を詰める事すら難しいのだから!」
「お前、それを言ったら魔法競技会の意味がなくなるだろうが」
「過去の産物が出てこなければこんなことにはならなかったんですよ!」
再び言い合いを始めてしまった二人を見て、ラヴァールとミランダは顔を見合わせて息をつく。
そして、部屋から追い出された二人が扉から離れていくのを確認すると、ゆっくりとミランダが口を開いた。
「……先ほどはあのように言いましたが、私もどちらかといえばラインハルトの意見に賛成です」
「お前もか、ミランダ」
「当然です。魔法技術も卓越しているようですが、派手な魔法を使えていないようでした。彼の属性レベルは低いのではないですか?」
「ランディが言うには、全属性持ちだがレベルは1だとか」
「ならば、致し方ありませんね。今年の魔法競技会では仕方ありませんが、来年からは色々と制約を付けることになるかもしれませんね」
それだけ伝えると、ミランダも立ち上がって部屋を後にした。
その姿を見届けたラヴァールは、どうしたものかと天井を見上げるのだった。
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