第287話:個人部門・決勝戦③

 闇魔法で状態異常を引き起こされているのであれば、同じ闇属性で対抗することは可能だ。

 しかし、それには同じレベルであることが最低条件になっている。

 だが、レイリアに関して言えばその最低条件が絶対条件になってしまう。


(この圧倒的な魔力の感じだと、レイリアの心の属性は闇属性。そして、レベルは5かもしれない!)


 アルの推測は正しく、レイリアの闇属性はレベル5の最高値を誇っていた。

 そうなるとレベル1のアルが闇属性に対抗するのは到底無理な話なのだが、アルが魔法の面でレイリアを上回っている点が一つある。

 それは――魔力操作。

 闇属性で対抗することが無理であれば、体内に入り込んでいる闇属性の魔力を自らの魔力で追い出し、状態異常を回復させる手段を取ることにしたのだ。

 ただし、それを行うには魔力を放出する魔法を使うことができず、放出してしまうと追い出そうとしていた闇属性の魔力が入り込んだ位置に戻ってきてしまう。

 故に、闇属性の魔力を追い出すまでの間、アルはマリノワーナ流剣術で凌ぐ必要が出てきていた。


(それに、以前に見た闇属性の使い魔だろうか? それで俺の位置もバレているだろう。下手な策を打つよりも、単純に戦った方がやりやすい)


 現状、足元のふらつきと眩暈が懸念にあげられるが、ここが踏ん張りどころと決めたアルはいつも以上に集中力を増していた。

 間合いに入ってくる気配だけではなく、魔力の流れすらも感覚で掴み捕ろうと試みている。

 闇属性の魔力を追い出しつつ、マリノワーナ流剣術と魔力感知で攻撃を防ぎ、機を見て仕掛ける準備も整えていく。

 傍目からは何もしていないように見えるかもしれないが、舞台上にいるレイリアはそのことに気づいていた。


(私の魔力が、押し返されようとしている? ……隙が無いけど、何もしないことの方が悪手のようね)


 だからこそ、レイリアはこのタイミングで自らの最大威力を誇る魔法を解き放つことにした。


「動かないのならなおさら都合がいいわ。……まあ、反撃は警戒しているけどね」


 挑発のつもりだろうか、それとも単なる独り言か。

 どちらにしても、アルが感じ取っているレイリアの雰囲気からは言葉通りの印象を受け取っている。

 ならばとアルは迎え撃つ覚悟を固め、ギュッとアルディソードの柄を握りしめた。


「融合魔法――ファントムウッドゴーレム」


 レイリアが持つ全ての属性である闇、水、木、土の四属性を融合させた最高傑作。

 まるで木の魔獣かと見間違えようかという蔦の密集体が人型を形成し、その周囲を土の鎧が覆い尽くす。

 腕や足が切断されようとも、水を吸収して即座に再生するのがウッドゴーレムの特徴なのだが、レイリアのそれには闇属性が組み込まれている。

 土の鎧の周囲には黒い靄が掛かっており、それに触れるだけで軽い状態異常を発症し、ファントムウッドゴーレムに触れてしまうと立っているのも難しくなる重い状態異常に掛かってしまう。


「今のあなたでは魔法は使えない。そして、得意の剣で斬っても再生する。そもそも、触れた時点であなたの負けは確定してしまうけどね」

「……」

「それでもやることは変えないのね……いいわ、どうするのかを見せてもらうわ! やりなさい、ファントムウッドゴーレム!」


 レイリアの指示を受けたファントムウッドゴーレムが動き出すと、まだ距離があるにもかかわらずアルの方も行動に移した。

 だが、アルの動きは素早くアルディソードを振り抜いたのみで、レイリアからすると単なる素振りにしか見えなかっただろう。だが――


 ――ザンッ!


 素振りとほぼ同時に斬り飛ばされたファントムウッドゴーレムの左腕を見て、レイリアの顔に驚愕が浮かび上がった。


「なあっ!」

「マリノワーナ流剣術――疾風飛斬しっぷうひざん


 魔法が使えないからといって、アルの場合は遠くの相手を攻撃できないわけではない。

 ユージュラッド魔法学園の面々からすると慣れた光景だったが、他学園の者では考えられないことだったに違いない。


「……要は、近づけさせなければいいんだろう?」

「言ってくれるじゃないの。なら、次の攻撃までに再生して、再生して再生して、再生して再生して再生して! 一気に倒してみせるわ!」


 アルの体力が先に尽きるか。

 レイリアの魔力が先に尽きるか。

 それとも、別の結末が待っているのか。

 レイリアはさらに二体のファントムウッドゴーレムを作り出すと、一気呵成に前進させた。

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