魔法競技会
第241話:一ヶ月が経過して
スタンピードの騒動から一ヶ月が経過していた。
魔法学園は騒動から一週間で再開しており、今では通常通り授業が行われている。
当然ながらアルも学園に通っているのだが、担任のペリナからは教えることがほとんどないと匙を投げられてしまい、今は第五魔道場へ毎日のように足を運んでいた。
「リリーナは魔法装具に頼り過ぎだ! そんなんじゃあ、すぐに魔力枯渇を起こすぞ!」
「は、はい!」
「クルルも同じだ! 成長しているとはいえ、まだまだ魔力操作は成長できるぞ!」
「分かってる、わよ!」
「ラーミア! それじゃあ周りに迷惑を掛けるだけだ! 冒険者を目指すなら、周りの動きにも気を使え!」
「了解!」
第五魔道場で何をしているかといえば、開催が一ヶ月後に迫っている魔法競技会に参加する代表生徒の指導である。
だが、この場には代表や予備要員ではない生徒も数名交ざっているのだが、そちらに関しても特例としてアルの指導への参加を許可していた。
というのも、アルとパーティを組んでいるリリーナとクルルの成長が著しく、この機会を逃すのはもったいないと判断されたのだ。
もちろん、授業を蔑ろにしているわけではなく、ある程度の成績と担任からの評価が高い生徒にのみ限られている。
今回の場合だと、クルル、ガルボ、フォルトの三名。そして――
「キース! 指示が遅れているぞ、戦闘中にも周囲の状況をしっかりと把握するんだ!」
「はい!」
一年次でアルと同じFクラスの生徒であるキースだった。
キースはエルクとマリーとパーティを組んでいるのだが、二人は授業の免除を勝ち取ることができずに教室で座学の真っ最中。
真面目に授業へ取り組んでいたキースだけが、今回の指導に参加を許されていた。
「右から木属性、クルルが対応! 左の水属性はリリーナが! 正面火属性、ラーミアが耐えて!」
「「「了解!」」」
「攻撃はどうするんだ?」
「僕の出番だね!」
「フォルト先輩か!」
「俺もいるぞ、アル!」
「ガルボ兄上!」
正面で魔法が入り乱れる中、フォルトとガルボが回り込んで後方から迫ってきていた。
ウォーターアローとアーススピアが同時に襲い掛かるが、その全てをアルディソードで斬り裂いてしまう。
「何度見ても、驚かされるぞ!」
「魔法を剣で斬るなんて、見たことないからね!」
仕留めきれなかったと判断すると、即座に防衛に移行する二人。
あまりにも潔いその様子に違和感を感じたアルは、咄嗟に正面に魔法の弾幕を張っていく。
「やはり、本命はこっちか!」
「読まれましたか――でも!」
正面に魔法を集中させ、後方からフォルトとガルボが仕掛ける。こちらを本命だと見せつけて、実際は後方に意識を割いた後の正面からの攻撃が本命だった。
しかし、本命が正面だと分かったとしても後方の二人を無視することもできない。
後ろを取られた時点でアルは防戦一方になると、キースは今の状況すらも読み切って戦術を立てていた。
「アースドーム、ツリースパイラル」
だが、アルは強固なアースドームの中に隠れると、そこからツリースパイラルを放ち弾幕に隠れてしまっていたラーミアを捕らえてしまう。
「ええええぇぇっ!?」
「まずは一人」
蔦で地面に縫い付けると、次にファイアボルトを放ちメガフレイムを突き破るとクルルに着弾。
「嘘でしょ!?」
「二人」
「アースドームを崩せばいいんだろう!」
クルルが倒れたところで、土属性を心の属性に持つガルボがアースドームを破壊しようと試みたのだが――
「……くっ、崩せないだと!?」
「危ない、ガルボ!」
「……三人」
一瞬の隙を見せたガルボにアースバレットが殺到し、フォルトの声もむなしくその場で崩れ落ちてしまう。
三人もの戦力が失われたキースたちは、その後あっという間に敗北してしまった。
「――……ふぅ。今日はなかなかよかったんじゃないか?」
「……でも、全く敵いませんでした」
作戦を立てたキースが大きく肩を落としている。
そんなキースの周りには模擬戦を行っていた面々が集まっており、普通なら勝てているのだと慰めていく。
「アル様が相手なのですから、仕方がありませんよ」
「そうよ、キース。あいつは規格外なんだからね」
「普通なら最初の攻撃で倒せてるはずだもんね!」
「落ち込む時間がもったいないよ、キース君」
「アルを相手に落ち込む必要なんて、全くないんだからな」
「……ねえ、みんな。それって褒めてるの、貶してるの、どっちなの?」
ジト目を向けるアルのことなど気にすることなく、全員がアルだから仕方ないと言っている。
キースはそんな様子に苦笑を浮かべると、そのまま次の模擬戦に備えての話し合いが行われていく。
ここまで一連の流れとして出来上がっているのだが、その後の流れも出来上がっている。
「次は、私たちと模擬戦よ、アル」
「うーん、僕は毎回、遠慮しているんだけどなぁ」
シエラがやる気に満ち溢れた目を向けており、ジャミールは困ったような顔でアルを見ている。
「なあ、少しくらい休ませてくれないか?」
「本調子のアルとやっても勝てる気がしないんだもの、これくらい良いでしょう?」
「まあ、確かにそうだね。僕もアル君には一回くらい勝ちたいかもだし?」
「……はぁ」
そして、二人との模擬戦が始まり、最終的にはアルが勝利を収めてしまう。
七人を相手に一人で模擬戦をするのも異常だが、続けての模擬戦で実力者二人を相手に勝利してしまうのも、また異常である。
第五魔道場にいる面々の中で、アルという人物が規格外の中でも桁違いなのだという事実が明確になっていくのだった。
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