第207話:トーナメント戦⑰
――アルの準決勝はあっさりと終わってしまった。
というか、試合すらしていない。対戦相手が棄権してしまったのだ。
「まあ、学園代表の権利は手にしているわけだからな。俺もフレイアさんやシエラ・クロケットがいなければ棄権しているだろうし」
「それはさすがにダメじゃないかしら? アルは優勝候補なんだから」
「わ、私に勝ったんだから、優勝までしてくださいね!」
「いや、だから二人がいるから棄権はしないんだって」
リリーナの少し異なる主張に苦笑しながらも、アルは舞台上へ視線を向けた。
準決勝の第二試合、先ほど名前を挙げたフレイアとシエラの対戦だ。
三回戦ではフレイアの試合をほとんど見ていなかったことがバレてしまい怒られてしまったので今回は見逃さないようにと集中している。
(まあ、この試合だけは絶対に見逃せないから関係ないけどな)
おそらくアルに次ぐ実力を誇るだろうシエラとフレイアの試合である。
アルでなくとも注目度は高く、他の学生も声を潜めて舞台上に視線を集中させていた。
「準決勝第二試合――開始!」
審判の合図に合わせて両者ともに動き出した。
「フレイムダンス!」
「ライトブレイド」
クルルのフレイムダンスよりも規模の大きな炎が揺れ動きながらシエラへと迫っていくが、ライトブレイドがそれを斬り裂いていく。
そのまま直進してフレイアへ向かうかと思われたライトブレイドだが、フレイムダンスが纏わりついて相殺してしまう。
「メガフレイム!」
「ライトランス」
一撃の威力を高めたメガフレイムが三発同時に放たれるが、一点突破のライトランスで貫いてしまう。
それでも爆発をもかいくぐってフレイアへと迫ってきたのは一発のライトランスのみで、単発ならば回避も可能だと走り出す。
動きながらファイアボールで牽制しつつ、レベル4の魔法をどのタイミングで放とうかと考えていると――
「フラッシュ」
「目くらまし!?」
通常なら暗い場所を照らす時に使われるフラッシュだが、シエラはその光量を増幅させて目くらましとして使用してきた。
目くらましとしての用途も使い古されているのだが、魔法師が前線に出て戦うことが少なくなっていた現代においては意表を突くことも可能になっていた。
「ライトブレイド」
「くっ! フレイムウォール!」
炎の壁を作りだしてライトブレイドを相殺しつつ、炎に隠れて移動するフレイア。
炎属性以外にも土と木属性を持っているのだが、シエラ相手に心の属性以外の魔法を使うのは悪手だと判断して火属性に固執してしまう。
しかし、今回はこの判断が裏目に出てしまった。
「ウォーターアロー」
「うあっ!」
フレイアの動きを予測して放たれたウォーターアローはとても小さく、そして細く顕現している。
炎の壁を貫き、そのままフレイアの右太ももを打ち抜くとその場に倒れてしまう。
勝負は決した――かに思われた。
「一か八か、これでどうだ――インフェルノ!」
動けなくなったフレイアは最後の力を振り絞りレベル4の火属性魔法、インフェルノを発動させた。
シエラの頭上に顕現したのは炎の檻である。
インフェルノはそのまま落下してシエラを檻の中に捕らえようとしたのだが、機敏な動きで回避すると素早くナイフを振り抜いた。
「きゃああああっ!」
二つの光の刃が直撃したフレイアは場外へと弾き飛ばされて、試合はシエラの勝利となった。
そして、今回もシエラの視線はアルへと向けられている。
(……全く、楽しみで仕方なくなって来たな!)
視線を外したシエラはさっさと舞台を降りると控え室へと消えていった。
試合後、すぐに立ち上がってみせたフレイアは試合を思い返していた。
火属性に固執してしまい、ウォーターアローを受けてしまったことを反省していたのだ。
「あー、もう! アースウォールと併用してたら絶対に防げたのにー!」
「それでも、インフェルノを当てられなかったら意味がないだろう」
「もっと注意を自分か他の魔法に引き付けることができたら、勝ち目はあったかもしれないね」
そして、すぐにガルボとフォルトを伴い反省会を開いている。
少しばかり助言をしようと考えていたアルだったが、目の前の光景を見せつけられれば何も言うことはなかった。
ならばと自分は決勝のことだけを考えるべきだと頭の中を切り替える。
「シエラ・クロケットか……楽しみだ!」
リリーナたちに見送られながら、アルは決勝の舞台へと上がっていった。
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