第193話:トーナメント戦③
リリーナの相手は三年次のラッシュ・ガベジーラ。
Bクラスながら実力は三年次の中でも上位に食い込んでおり、今までの選考基準であれば確実に学年代表に名を連ねるだろう人物だった。
(何故今年に限ってこんな選考が行われるんだ!)
ジーレインと同じでトーナメント戦を良しとしておらず、今回は代表になるため仕方なく参加している。
しかし、相手が一年次のさらにFクラスの相手となれば自ずと笑みも浮かんできてしまうだろう。
(相手はエルドア家の二女らしいが、Fクラスに俺が負けるはずがないか。これは、二回戦以降を考えた方がよさそうだな)
そんなことを考えながら舞台の中央でリリーナと向き合う。
ラッシュとは対照的に今もなお凛々しい表情を崩していないリリーナは頭の中で自分がこれまで経験してきた戦いを思い返していた。
(アル様やクルル様と一緒に挑んだダンジョン。チグサ様との模擬戦。そのどれもが私の成長につながりました。そして、アル様とチグサ様の模擬戦は驚きでした。……そう考えれば、目の前の相手に緊張する理由が見当たりません!)
お互いに杖を構えたことで準備完了だと判断した審判が右手を上げた。そして――
「試合――開始!」
「先手必勝! フレイムラ――」
「ウッドロープ!」
ラッシュの魔法が発動する前にリリーナのウッドロープが伸びて足に絡みつく。
先手を取られるとは思いもしなかったラッシュは驚愕し、そのせいで魔法が霧散してしまう。
その隙を見逃すリリーナではない。
「ウォーターアロー!」
「ぐあっ! な、舐めるなよ!」
左肩と右足をウォーターアローが掠めて血が滲むと、痛みでようやく我に返ったラッシュが再び魔法を構築していく。
しかし、リリーナの魔法は途切れることなく発動される。
「アースウォール!」
射線上に土壁が出来上がり簡単には攻撃を当てることができなくなったが、それはお互い様だとどちらも理解している。
「この程度の土壁で防げると思うなよ!」
ここまでの流れでは明らかに劣勢であるラッシュは自らの存在を見せつけるがごとくレベル3の魔法を発動させた。
「砕きながら、貴様もぶっ飛ばしてやる――メガフレイム!」
射線上に存在する土壁を破壊しながら突き進むメガフレイムは確実にリリーナを捉えた。
爆炎があがり舞台の一部が破壊されるほどの威力に勝利を確信したラッシュの脳裏には二回戦のことがよぎる。
「――ツリースパイラル」
「ぐおあっ!」
背後から聞こえてきた声に振り返ろうとしたラッシュだが、その体にはすでに無数の蔦が絡みついており自由が利かなくなっていた。
徐々に締め上げてくる蔦を引きちぎろうと力を込めるがびくともせず、その意識が経ち切れたところで審判から試合終了の声が掛かる。
「試合終了! 勝者は――リリーナ・エルドア!」
誰もが予想だにしなかった結末に二階席は一瞬静寂に包まれたのだが、直後には大歓声が巻き起こり第一魔道場全体が震えたのだ。
「……あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
丁寧に四方へ頭を下げながら聞こえるはずもない挨拶を口にして、最後は審判にも握手を求めたリリーナは恐縮しながら舞台を後にしたのだった。
※※※※
エルクたちも周囲の学生と同じように大声で歓声を送っていた。
リリーナを応援していたものの、どうしても三年次でBクラスの学生を相手に勝てるのかという不安が付きまとっていたのだが、舞台上の現実を目の当たりにして外聞など気にすることなく大声をあげることができたのだ。
一方のアルは納得顔でリリーナを見つめており、今なら一対一で戦ってみたいものだと内心で感心していた。
「そうだ! アル、お前もそろそろ下りていた方がいいんじゃないか?」
「ん? あぁ、そうだな。それじゃあちょっと行ってくるよ」
「せっかくですからリリーナ様にも声を掛けてください!」
「本当に凄かったって」
「あぁ、伝えておくよ」
三人の興奮をそのまま伝えると約束して歩き出したアル。
控え室の入り口にはクルルが立っており、拳を握って何度もガッツポーズをしていた。
「クルル、何をしているんだ?」
「アル! あんたも見てたでしょ、リリーナが勝ったのよ!」
「あぁ、見ていたよ。完勝だったな」
「くぅー! 魔法学園に入学して一番嬉しい瞬間だったわ!」
友人のためにここまで喜べるクルルはリリーナにとって最高の友人だろうとアルは笑みを浮かべていた。
そして、控え室からリリーナが出てくるとクルルが興奮しながら抱きしめて一緒に喜んでいる。
「やったよ、クルル様!」
「リリーナ、最高だったよ!」
「素晴らしい戦いだったな、リリーナ」
「アル様!」
クルルが離れるとアルに声を掛けたリリーナも興奮が冷めていないのか少し大きめの声でエールを送った。
「アル様も勝ってください!」
「頑張りなさいよ、アル!」
「もちろんだ。二人に情けない姿は見せられないからな」
いつも通りの軽い返事を聞いた二人は二階席へと上がっていく。
その姿を笑顔で見送ったアルだったが――直後には真剣な表情となり控え室に入るや否や精神集中を始めた。
周囲の学生はあまりの迫力で近づくことができずアルの周囲には不思議な空白が出来上がっている。
「次はアル・ノワールだ!」
そして、呼び込みの声が聞こえるとベンチから立ち上がり舞台へと向かう。
相手は二年次でAクラスの男子学生なのだが、彼は舞台上で人生の中で感じたことのない衝撃を受けることになる。
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