第192話:トーナメント戦②

 魔法競技会に学園代表として選ばれる人数は八名。

 そして、四名が予備要員として選ばれることになる。

 準々決勝まで残れば自ずと代表権を獲得できるのだが、アミルダは優勝者に向けて特別な賞品を用意していた。

 しかし、アルにとっては全く不要なものであり、むしろ商品を取ってきた本人だった。


「優勝賞品がフレイムリザードの剛鱗ごうりんって、いらないだろ!」

「まあ、アルが手に入れて学園長に横流しした素材だもんね」

「横流しって、クルル様、言い方が」


 クルルもリリーナも苦笑を浮かべながらアルを慰めている。

 アルとすれば代表の座を獲得できればそれで満足なのでベスト8まで勝ち進めば試合を辞退することも考えていた。

 その間にシエラとも戦えれば万々歳なのだが、優勝賞品によっては本気で優勝を狙ってもいいかと考えてもいたのだ。


「これは本格的にベスト8までを目指して頑張るか」

「代表が確定したら後の試合は辞退するんですか?」

「それもありだな。時間がもったいないし」

「アルだから言えることだけど、他の参加者が聞いたら怒り心頭だろうぜ」

「アルさんは、実力が伴ってるからグー」


 現在、アルは出番待ちの状態だった。

 第一魔道場には二階席があり、そこで他の学生の試合をエルクたちと眺めている。

 クルルはリリーナの側についているようでここにはいなかった。


「アルの試合は最後なんだろう?」

「らしいな。ってか、最初からトーナメント戦じゃないのかよ」

「そこは学園長が決めることだから仕方ない」

「ですが、効率が良いと言えば良いですよ。一回戦は運任せになりますが、二回戦以降は実力者が潰し合わないよう調整ができますからね」


 今回の代表者選抜のトーナメント戦だが、一回戦だけはくじ引きになっていた。

 キースが言うようにくじ引きは運の要素が強く出てしまうが、二回戦以降の組み合わせは学園側が決めることになっている。

 そこで実力者が潰し合わないよう調整が加えられることは容易に予想でき、だからこそアルとしては面倒この上なかった。


(ヴォレスト先生のことだからシエラの実力は把握しているだろう。ということは、決勝まで勝ち進まないと当たらない可能性が高いんだよなぁ)


 一回戦で当たればと願っていたのだが、それも叶わず後は二回戦以降のトーナメント表を見なければ何も分からない状況なのだ。


「それにしても、なんで学園長は一回戦をくじ引きにしたんだろうな」

「そうですね。実力者を募るなら、最初から学園側が調整したトーナメントでもいいと思うんですが」

「運も実力の内」

「マリーの言う通りかもしれないな」


 時には運がものをいう場面も出てくることは事実である。

 どれだけ実力があったとしても運に恵まれずにその他大勢に埋もれてしまうことも少なくはない。

 そして、そこから実力を見い出してくれる人物に出会うこともまた運と言えるだろう。


「しかし、そう考えるとリリーナには運がなかったというべきなのか?」


 エルクがそう呟いたのには理由がある。

 目の前の舞台で行われている試合が終われば次に出てくるのがリリーナなのだが、その相手というのが三年次でBクラスの生徒なのだ。


「魔法適性、そして経験。どれをとってもリリーナ様が劣っていると見ていいでしょうね」

「リリーナさん、厳しい」


 そしてキースとマリーも同意見だった。


「……そうかな? 運がなかったのは意外と相手の方かもしれないぞ?」


 しかし、アルだけは三人と意見が異なっていた。


「リリーナ様の方が有利だと、アル様は考えているのですか?」

「あぁ。魔法適性に関しては三人が言った通り劣っているだろうが、経験で言えばリリーナの方がより濃い経験をしているはずだ」

「「「……あー、確かに」」」


 三人はアルたちと一緒にダンジョンへ潜った時のことを思い出し納得顔を浮かべていた。


「相手が人間だから相手の思考を読むことも必要になるが、それだってチグサさんと模擬戦をしていたんだから問題はないだろう」

「「「……仰る通りで」」」


 さらにチグサとの模擬戦でボコボコにされた記憶が思い出されて酷く落ち込んでしまう。


「エルクたちだって今では一年次の学生相手なら多少はやり合えるんじゃないか?」

「エ、エルクはともかく、僕は無理ですよ」

「私も無理」

「俺は……まあ、剣術を出していいなら多少はかな」

「そうか? 俺は全員がそこそこやれると思っているんだが……っと、試合が終わってみたいだな」


 目の前の試合が終わり、準備が整えられると左右の入り口から一人ずつ参加者が現れた。

 もちろん、そのうちの一人はリリーナである。


「さて、リリーナがどこまで成長したのか見させてもらうとするか」


 リリーナの視線は対戦相手である三年次の学生に向けられており、凛々しい表情をしていた。

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