代表選考会
第183話:再開された魔法学園
夏休みが終わり、再び学園生活がスタートした。
だが、変わったことが一つだけあり、この変化は学園に通う生徒にとって大きな変化になっている。
それは――ゾラン・ザーラッドの退学。
ザーラッド家の取り潰しにより貴族ではなくなったザーラッド家だが、国を追われるようなことにはなっていなかった。
そのためゾランがユージュラッド魔法学園を退学する必要もなかったのだが、外聞が良くないからと家族から退学を勧められ、ゾランも屈辱を受けるくらいならとそれを了承したのだ。
そこでとある人物の名前が学年問わず持ち上がることとなったのだが――
「ふっ!」
『ブルフルルウウッ』
「はあっ!」
『グゴガガガガッ!』
「せいっ!」
『ブジュルアアアアッ!』
当の本人は八階層でヴィルパイソンを、九階層でロックゴーレムを、一〇階層でフレイムリザードを討伐しながらダンジョンのマッピングを行っている。
手に持っているのは杖ではなく魔法装具の形をした剣――アルディソード。
「まさか、夏休み中で本当に魔法装具の剣を作ってくるとは思わなかったわ」
「話には聞いていましたけど、よく都合がつきましたよね」
呆れたようにそう話をしているのはクルルとリリーナだ。
ユージュラッドにあるリーズレット商会本店で土産話を聞いていた二人だったが、帰ってきてから夏休みが終わるまでの短期間で魔法装具を完成させてくるとは思ってもいなかった。
「しかし、まるで水を得た魚みたいに魔獣を倒してしまいますね」
「ここから先は私たちの出番なんてなさそうね」
上層では他の学生の目もあったのでアルディソードはアイテムボックスに入れており、魔法のみで魔獣を倒していた。
その際はリリーナとクルルも積極的に魔法を放ち魔獣を倒していたのだが、学生の姿が無くなった九階層からは訓練も兼ねてアルディソードを手に取り嬉々として戦っている。
しかし、アルは魔法剣を使用していない。純粋な剣術のみで一〇階層の魔獣を倒してしまっているのだから驚きもひとしおである。
「アールー! そろそろ戻らないと日が暮れちゃうわよー!」
「アル様、聞こえてますかー!」
「むっ! ……そうか、なら仕方ないか。もっと振っていたいが……うん、仕方がないよな」
自分に言い聞かせるように何度も呟きながらアルディソードをアイテムボックスに入れると、代わりにオールブラックを取り出して腰に差した。
「しかし、アルも有名になっちゃったわよねー」
「本当に。ですが、アル様の実力なら仕方がないことですよね」
ただでさえダンジョンの攻略階層の更新で目立っていたのが、さらにザーラッド家の取り潰しにも関わっていたとなれば色々な尾ひれがついて噂話が飛び交ってしまっている。
事実もあれば根も葉もない話まで飛び交っているので、正直なところアルは学園に通うのが嫌になってきていた。
「ここを出たら、またあの質問の嵐に巻き込まれるのか……どうせなら、ダンジョンに寝泊まりして生活をしたい」
「そんなことを言わないでください。私たちはアル様と学園生活を楽しみたいですよ」
「でもさ、噂の中には悪意のある噂もあるけど大半は好意的な噂なんだし、いいんじゃないの?」
クルルの言う通りで噂話の中でも八割くらいは好意的なものなのだが、そのせいもあって真偽を確認するために質問しに来る者が多くなっているのも事実なのだ。
これが悪意ある噂話が多ければ陰口が増える程度だったのではと思うと単純に喜んでいいのか微妙だとアルは思っていた。
「でもさ、女の子に囲まれるのは嬉しいんじゃないの?」
「そ、そうなんですか、アル様!?」
「だから面倒なんだよ。追い払うにも邪険に扱うわけにもいかないし、結局逃げるしかないんだからな」
そして、逃げ込んだ先がダンジョンだったということだ。
アルがアルディソードを振り回していたのは、ストレス発散の意味合いも含まれていた。
「しばらくはこの状態が続くだろうし、頑張んなさいよね」
「私たちもできる限り協力いたします!」
「ありがとう、二人とも」
お礼を口にしながらもアルは嘆息せずにはいられなかった。
そしてダンジョンを出るとまさかの出待ちがいたことにうんざりし、そこから全力で逃げ出したのは言うまでもなかった。
「……私たちは眼中になしみたいね」
「……アル様、本当に大丈夫でしょうか」
アルを追い掛けて出待ちしていた女子たちが一気にいなくなると、残された二人は普段通りの足取りで教室へ戻っていった。
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