第128話:学園生活の変化

 剣を手に入れる目処も立ち、ゾランからの嫌がらせも無くなり順風満帆──かと思いきや、そんなことはなかった。

 それは学園生活の方で、Fクラスでは仲良くしてくれる生徒の方が多くなったものの、いまだに良く思わない生徒もいる。

 さらに他のクラスでもアルの実績を良く思わない者が多いようで、廊下を歩く度に忌避の視線を感じてしまう。


「……はぁ」

「まあ、天才は疎まれるものだもんねー」

「俺は天才なんかじゃないんだけどな」

「うふふ、評価は周りが下すものですからね」

「リリーナまで……はぁ」


 三人は授業を終えて食堂へと向かっている。

 エルクたちはダンジョンに潜っており不在だ。

 ゾランの嫌がらせがエルクたちに向くのではと考えたこともあったが、そこはアミルダから厳しく言われたようで安心している。


「それにしても、ゾランがよく引き下がったわよね」

「上級貴族の子息ですから、学園長から何か言われたとしても仕掛けてくると思いました」

「もしこれ以上学園に迷惑を掛けることがあれば退学させると脅されたらしいぞ」


 学園長権限を最大限に活用した、とアミルダは笑いながら報告してくれた。

 上級貴族の子息とはいえ、魔法主義の国家で魔法学園卒業の有無は非常に大事になってくる。もし退学させられたと知られれば、その者の未来はほぼ無いと思っていいだろう。


「しばらくは問題ないだろうが、これがずっと続くとも思えない。なるべく注意しつつ、それでも学園生活を楽しみながら過ごしていこう」


 そんな話をしながら歩いていると、気づけば目的地である食堂に到着した。

 ここでも忌避の視線が注がれるものの、三人は気にした様子もなく注文を済ませて食事を運んでいく。

 すると、奥の机から声が掛けられた。


「アル!」

「ガルボ兄上! それにフレイヤさんにフォルトさんも」


 ガルボたちの方へも視線が集まったのだが、直後には食堂でざわめきが起きる。

 何事だろうと首を傾げながらガルボたちのところに移動した三人を見て、フレイヤが笑いながら謎解きをしてくれた。


「フォルトは上級貴族の中でも力を持っているハッシュバーグ家の子息だからねー」

「そういうフレイヤも上級貴族のミリオン家じゃないか」

「リーダーの俺が下級貴族なんだから、なんともバランスが悪いパーティだよな」

「実力で決めたのは私たちですもの、気にしてないわよー」

「まあ、ガルボとしては気になるところだろうけどね」


 三人の関係を見て、アルは羨ましく思ってしまった。

 貴族に未練などはないが、上の立場の者から認められるというのは嬉しいものがある。

 アミルダやペリナからは認められているものの、それは生徒と先生の関係であり対等な立場からではないのだ。


「ということは、今のざわめきはフレイヤ様とフォルト様を見て周囲が萎縮したということですか?」

「うっわー。私たち、場違いにも程がある感じ?」

「正解だけど、二人が場違いってことはないから安心してちょうだいね」

「うんうん、パーティは共に行動することが必要なんだからね」


 リリーナとクルルの言葉にフレイヤとフォルトが笑顔で答えてくれた。


「これが牽制になっててくれればいいんだがな」

「牽制?」

「ふっふふーん! 弟君たちには私たちが味方しているって周囲が気づけば、変な嫌がらせはしてこないだろうって話よ」


 フレイヤの言葉に納得はできても、アルとしては申し訳なく思ってしまう。

 パーティメンバーの弟とはいえ、二人の立場を利用させてもらっていることに変わりはない。それにガルボも借りを作ってしまうのではないかと心配になってしまった。


「お前、また余計なことを考えているだろう」

「その、本当にいいのかなって、思ってます」

「ったく、いいに決まっている。むしろ、これくらいで借りを返せたとも思っていないからな」


 ガルボが言っているのはダンジョンで助けてもらったことである。フレイヤもフォルトもアルの助けになりたいと考えており、現在の状況をガルボが話すと手を貸すことを快く受けてくれたのだ。


「私たちは今年で絶対に卒業するつもりよ。だから、今年一年しか守ってあげられないけど、これくらいはさせてちょうだいよね」

「そういうことだよ。それに、僕たちだって家の名前を利用することはよくあるんだ。だから、アル君が気にすることじゃないんだよ」

「フレイヤさん、フォルトさん。……その、ありがとうございます」

「ガルボにもこれくらい素直な気持ちがあったら分かりやすいんだけどねー」

「フレイヤの言う通りですね」


 突然話題がアルからガルボに切り替わり、何かあったのかとアルたちは首を傾げている。

 話題を振られたガルボはというと頬を掻きながら照れているようだ。


「弟君のことを話すのに回りくどい説明をしてくるもんだから、何かあったのかって心配したんだから」

「本当ですよ。単純に、意地悪な上級貴族に困っていると言えばいいだけなのに」

「お、お前たちの立場を考えてだなあ!」


 結局のところ、アルもガルボも似た者同士、やはり兄弟なのだと感じるアルなのだった。

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