第108話:ダンジョン・一三階層②

 ペリナの杖に魔力が注がれ、地面を通じてソウルイーターの周囲の地面に作用する。

 魔力に気づいたのか食事の手が止まったソウルイーターだったが、その時点ではすでにペリナの魔法は完成していた。


「アースウォール!」

「はああああああっ!」


 手を振り下ろしたのと同時に駆け出していたアルは斬鉄を手にしたまま飛び上がると、ソウルイーターを包み込んでいる土の壁の頭上へと到達。


「撃ち抜け──ファイアボルト!」

『ゲギャ──!』


 悲鳴をあげる間もなく、アルが放てる最速にして最強の一撃がソウルイーターの降り注いだ。

 唯一空いている頭上の穴から飛び込んだファイアボルトは全ての力を土の壁の内側にて解放。

 土の壁もペリナが魔力を注ぐことで強固なものとなり、壊れることなくソウルイーターを包み込んでいた。

 ペリナとは逆側に着地したアルは、それでも警戒を解くことなく斬鉄を構えてゆっくりと土の壁へ近づいていく。

 煙が穴から立ち上り、生きているとは到底思えないのだが──直後にはその穴から飛び出してくる影を捉えた。


「ま、まさか本当に生きてるの!?」

『ゲギャギャギャギャッ!』

「弧閃」


 ソウルイーターの着地に合わせての一撃は、マリノワーナ流による最速の一撃を繰り出す。

 確実に捉えた──そう思っていたのだが、刀身と首との間には辛うじて左腕が滑り込んでいた。

 硬い外皮を斬り裂くも薄皮一枚で止まり、ソウルイーターの右腕が振り抜かれる。

 その場でしゃがみ込み回避したのだが、動きを読まれていたのか目の前には左足が迫ってきた。


「ちいっ!」

『ゲギャギャッ!』


 今度は左足と顔との間に斬鉄を滑り込ませたアルだったが、膂力に勝るソウルイーターの蹴りの勢いを受け止めることができずに後方へと吹き飛ばされる。

 地面を削りながらなんとか倒れることなく体勢を整えたアルだったが、ファイアボルトの直撃を受けてなお今の動きをしている相手に不思議と高揚していた。


「チグサさん以外で、これだけの高揚感を得られる相手と対峙できるとは……不謹慎かもしれないが、感謝するぞ!」

『ゲギャギャギャギャッ!』

「今度は一撃の重さで勝負だ──大破斬だいはざん!」

『ゲゲ──ギャギャッ!?』

「私を無視しないでちょうだいよね!」


 アルが駆け出しながら上段の構えを取った直後に移動しようとしたソウルイーターだったが、突如として地面が水のようにぬかるみ足を取られてしまう。

 ペリナが発動させたアースウェーブがソウルイーターの動きを阻害し、その隙をついてアルの大破斬が繰り出された。


 ──ガキンッ!


 それでも、右腕を半ばまでの両断に止まり切断には届かない。

 直後にはソウルイーターが不敵な笑みを刻んだ。

 目の前には脆弱な人間が無防備に存在している。武器は右腕に食い込み易々と抜ける状態ではない。

 ならば、殺すのは容易いことだ──そう思っていた。


「外が硬ければ、内から攻撃したらいいだけの話だ」

『ゲゲゲ──ゲギャ?』

「もう一発、ぶちかましてやる──ファイアボルト!」

『ゲギギャギャギャギャアアアアッ!』


 右腕に食い込んだ斬鉄の刀身を媒介として、アルはそのままファイアボルトと撃ち出した。

 硬い外皮を持つということは、その内側を守るために進化したということ。ならば、内側が脆く破壊できる部位であることは想像に難くない。

 そして、アルの予想は的中しソウルイーターは内側から焼かれる激痛に悲鳴をあげて力任せに体を捻り始める。

 力任せに振り飛ばされたアルは危なげなく着地すると、これで終わりではないと言わんばかりに右腕を突き出す。その手にはアイテムボックスから取り出していた金属が握られている。


「もっとダメージを負ってもらわないとな──ソードゼロ」


 握っていたのはゴーストナイトから得た素材の一部。

 ブラックウルフを倒した時にも作り出したソードゼロを一瞬で作り出したアルは、両手で柄を握りしめて駆け出すと魔法剣を行使した。


「ウインドソード!」

『ゲゲ……ゲガ、ギガガ……』


 斬鉄でも半ばまでしか両断できなかった硬い外皮だが、内側から燃やされたことで今ではボロボロになっている。

 それでもソウルイーターは両腕を振り上げてソードゼロを受け止めようと瞳をギラリと光らせていた。


「──蛇破斬じゃはざん

『ゲギャ!?』


 直線軌道だった上段切りが突如として揺らぐ。

 振り上げた両腕をすり抜けたソードゼロは刀身を肩口から侵入させると、胴を斬り裂き逆の腹へと抜けていく。

 風の刃を纏うことで通常よりも鋭い切れ味を見せたソードゼロは直後に砕けてしまったが、それでも十分な役目を果たしてくれた。


「……剣士としては、剣が砕ける瞬間をそう何度も見たくはないものだがな」


 ボロボロと砕けてしまい、柄すらも砂のようにこぼれ落ちてしまったソードゼロを眺めながら、次に視線を二つに分かたれたソウルイーターへと向ける。


「硬い外皮が、最初のファイアボルトを防いだということか」


 そう口にしながら肩の力を抜いて息を吐き出したアル。


「まだ終わってないわよ!」

『ゲギャギャッ!』

「なんだと──!」


 直後、ソウルイーターの体から炎が吹き上がると大爆発を起こした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る