第58話:ダンジョン・六階層
六階層からは今までの階層と大きな違いがすぐに現れた。
「……も、森?」
「……森、ですね」
「……森だな」
石造りのダンジョンから、大自然に囲まれた造りに様変わりしたのだ。
そして、不思議なことに光が差さないはずのダンジョン内に天井から明かりが降り注いでいる。
「……まあ、ダンジョンだからな、行くか」
「ちょっと! ダンジョンだからって納得しちゃうわけ!」
「俺たちが知っていることなんて世界から見たら1パーセントもないんだ。これくらいで驚いていたら、今後は理解できなくなるかもしれないぞ」
「……順応しすぎではないですか?」
「何が起こるか分からないのがダンジョンだ。これくらいなら想定内だからな」
「「……これが、想定内」」
元より地上での常識が通じるとは最初から思っていない。
ならば、あり得ないと思わずに、何でも起こり得ると思っていれば驚くのとも少ないとアルは考えていた。
「魔獣が潜んでいるかもしれないから、慎重に進んでいこう」
アルが緊張感を高めると、二人も先ほどまでの困惑が嘘のように消えて警戒し始める。
その様子を見て、二人がダンジョンに慣れてきていると嬉しくなっていた。
(なんだか、騎士団長に戻った気分になるな)
部下の成長を見て喜んでいた前世の自分を思い出し、ふとそんなことを考える。
だが、感傷に浸っている時間はほんのわずかだった。
「……来る」
正面の茂みがわずかに揺れ、合わせてガサガサと木々同士が擦れ合う音が聞こえる。
その音は徐々に大きくなり、茂みの揺れも激しくなり──一匹の魔獣が飛び出してきた。
「きゃあっ!」
「ヤバ!」
「ウォーターカッター!」
反応が遅れた二人とは異なり、アルはカウンターを合わせるようにして飛び出してきた魔獣目掛けて水属性魔法を放つ。
まるで猿のような魔獣は出会い頭でウォーターカッターを額に受けたこともあり、一撃で頭部を切断されてしまう。
いくら魔獣とはいえ、頭部が左右に開かれている様子に女性陣が目を背ける。
アルは突然のことだったとはいえやり過ぎたかと思ったものの、危険と隣り合わせなのだから仕方ないと気持ちを切り替えた。
「こいつは……カンフーモンキーだな」
「……アルは、平気なのね」
「……なんだか、見えてはいけないものが見えている気がします」
「出会い頭だったからな、仕方がないよ。……だが、囲まれたみたいだな」
そう言いながらアルは周囲に視線を向ける。
すると、茂みだけではなく高いところにある枝葉も不規則な動きをしていた。
「数は……七……いや、一〇匹だな」
「なんで分かるのよ」
「普通分かるだろう?」
「分からないから聞いているんですけれど」
「……まあ、いいじゃないか」
剣士としての感覚が周囲から発せられる殺気を感じ取り、カンフーモンキーの数を把握させてくれる。
戦場にいるという自覚が、前世の感覚を取り戻させようとしていることで二人からは奇異の視線を向けられてしまう。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ウォーターカッター!」
「フレイムランス!」
「アーススピア!」
アルとクルルが木の上を、リリーナが地面にいるカンフーモンキーを狙って魔法を同時に発動する。
アルが二匹、クルルとリリーナが一匹ずつ仕留め、残る数は六匹。
魔法師は近づかれてしまうと対処が後手後手に回ってしまうのが常識とされており、いかに距離を保ち攻撃し続けられるかが重要となる。
本来なら囲まれた時点で撤退を考えるものだが、三人はお互いに背を向けて防衛にあたっている。
そこに飛び込んできた三匹のカンフーモンキー。
狙いはリリーナ――だったが、アルが入れ替わるようにして三匹の正面に立つ。
「ウッドロープ!」
アルが操るウッドロープはリリーナの三本を遥かに上回る一〇本。
その全てがまるでアルの手足のように俊敏な動きを見せると、三匹を腕や脚、さらには首に絡まり締め上げていく。
「残る三匹は任せるぞ!」
アルの言葉に奮起した二人は、上から一匹、下から二匹のカンフーモンキーと対峙する。
セオリー通りに近づけさせないように魔法を選択していく。
「アースウォール!」
複数の土の壁を作りだし下から迫る二匹の進路を妨害する。
その間にクルルが上から飛び降りてきたカンフーモンキーにファイアボールを放ち仕留めていた。
その間に下からのカンフーモンキーが俊敏性を活かして壁の上に移動すると、足場にして一気に迫って来る。
「アーススピア!」
だが、これがリリーナの狙いだった。
土の壁の成分はもちろん土である。ということは、土の壁から土の槍を作る出すのも可能だと分かっていたのだ。
飛び乗った土の壁から上めがけて突き出されたアーススピアは、カンフーモンキーのお尻から胴体を貫き、最後には脳天へと抜けて二匹を一瞬で仕留めてしまった。
「……リリーナの方が、アルよりもやっちゃってない?」
「……えっと、その、これはたまたまでして」
「いや、これくらい効率的に倒してもらった方が助かるよ」
女性陣の会話にアルが口を挟むのと同時に、ウッドロープに縛り上げられていた三匹から『ゴキッ!』という大きな音が聞こえると、力なく崩れ落ちるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます